EP19 家族の絆 私達は今日からレイジーファミリーだぞ
______「桔梗は......うまくやっているのだろうか?」
手加減と言うものを知っているかどうか、桔梗がやり過ぎないか私には不安があるのは、アンドロイドと人間ではパワーが違い過ぎるのだ。
「人間の盗賊相手だけどさぁ、問題はないと思うよ御主人様ぁ。そんなに心配しても、頭が禿げるだけですからぁ~」
「そうですよ主様。デブーラ男爵家からレティキュラム号まではたった20kmしかないのです。私達が普通に走っても時速40km、ここまで30分もあればちゃんと手加減して、赤フンチャイナは帰って来ますから」
『チャイナドレスはフンドシなのかい!』
「あのさぁ~このまま帰って来ないで、男爵家専属傭兵になちゃえばと思うのよねボクは」
くわっ
今のジョーの言葉に私は、目をカッと見開いてジョーを見つめてしまった。
ゴゴゴ
はひぃ??
ジョーが驚きの声を上げたのは私の表情だ。
レイジー博士は極めて温厚な性格なので、初めて見た怒りの表情にジョーは驚いたのだった。
「ジョー、私達五人は偶然、異世界に飛び込んでしまった。いいかい、私達はこの世界で助け合って生きていかねばならないのだよ。そしてジョーを含めたバニラ・アイス、Reno、桔梗はもはや私の家族なんだ」
「「「か、家族!家族!家族!」」」
何故か一人と二体は胸に手を当てて震え出した。熱い魔法の言葉がいつまでも反芻して胸を締め付けて来るのだ。
「今、ご主人様が確かに家族と!」
「そうだよ。お前達はただの友人と護衛アンドロイドではないよ。異世界運命共同体、即ち私の大切な家族なんだよ!」
「その心は、それじゃボクは、立木ドミニク・ルフェーブル!妻になったんだよね!」
凄まじいジョーの妄想だ。なぞかけかよ!
その時、バニラ・アイスの金ダライが唸りを上げた。
ガコォ~ム
ぴよ ぴよ
「何がその心よ! 冗談はよしこさんだよ!」(古すぎるネタ)
ジョーの黄色いヘルメットは吹き飛び、定番の120度大股開きがパノラマのように私の眼前に広がった。
『絶景かな......今日も白が眩しい』
「全く人間の癖に、主様の真意を理解出来ないなんて、本当に<かぶら>なんだ」
「だからぁ~Reno、私がいつも言ってるでしょ、年増でIQがカスだって」
「うんそれ納得」
脳天気なバニラ・アイスに比べて、冷静なRenoはいつも適確で頼もしく想える。
「いいかい、私は家族の為に全力を出して生きていく。もう誰も失いたくないんだ」______
______今の話は、気絶したふりをしたジョーも、大股開きのまま訊いていた。
『そっかぁ、ご両親が暗殺された事をそう簡単に忘れられる筈がないもんね。心配しないで博士、ボクも全力で支えるよ。妻の座は欲しいけど、まず家族の一人としてね』
レイジー博士の想う家族構成は、Renoがアンドロイド組の長女、桔梗が次女、バニラ・アイスが末っ子で、それはAI-myuシリーズが完成した順になる。
『バニラは、無邪気で脳天気なところが、人間の末っ子とそっくりだ』
ジョーは人間の26歳で私と夫婦じゃないが、ジャッカル達三人が名付けた姐さんの称号を貰う事にした。
桔梗が明日の朝帰還したら家族の話をするとして、今は明日治める<レイジー・マイシン>の増産にかかろうとすると......
「「「父ちゃん、薬の増産、手伝うよ」」」
誰が父ちゃんだよ!
「「「だって家族なんだから」」」
ぷっ
「お前達、切り替えが早すぎなんだよ」
あははぁ~
この時、レイジー博士は本当に家族を得たんだと、胸に熱いものがこみ上げていた。
「さぁさ、今夜は徹夜だ。桔梗も頑張っているからな」
モチぃ
賜りました
ボクもやるわよぉ~(お肌に悪いけど)
◇◇
______そして早朝。
「出来た出来た<レイジー・マイシン>が400カプセル。一人より四人なら効率がいい。当たり前か」
「姐さんは眠いのか?」
「睡眠不足はね、お肌の大敵だし便秘になるのよさ」
『人間は疲労する。徹夜作業はジョーを除いて、姐さんに相応しい事を任せるとしよう』
そんな事を考えながら、私は桔梗の帰りを待った。
「バニラ、いつものコーヒー、ドウシタモンジャロを頼む。姐さんの分もな」
「誰が姐さんなのよ」
「もう諦めろ姐さん。私だって父ちゃんだぞ」
◇◇
その頃デブーラ男爵家では。
昇る朝陽が映し出したのは、口から泡を吹いて倒れている盗賊二人だ。
その時の桔梗は、穴の開いた白衣を着て座り込んでいた。
「お嬢ちゃん、無事だったかの! やっ!白衣が裂けているではないか! して怪我は?」
「案ずるなご老体。ほら私ならこの通り無傷だ」
そ、そうか。
秘宝の短剣が気になった男爵も、後から遅れてやって来た。
「見ての通り、賊は無傷で捕獲した。秘宝の短剣のお陰だがな」
「なんと秘宝が役に立ったのか!」
デブーラ男爵は、この二人に見覚えがあった。
「こ奴等、以前に雇った事のあるCランク冒険者、マータとタビィ! Cランク冒険者でありながら、こんな盗賊稼業に身を落としていたとは! オイスター、この二人を直ちに警備隊に突き出しておけ」
畏まりました。
「では男爵様、盗賊は無事捕らえましたので、このお嬢ちゃんに一日分の報酬を差し上げてくださいますか。それともう今晩の......警備は......暫くは盗賊の心配はないかと」
うむ?
「桔梗とやら、そちの見事な働きに礼を言う。契約は三日であったが、その働きに免じて倍の10,000G(100,000円)を渡しておこう。オイスター、使用人に命じて手配してやれ」
はい、直ちに。
桔梗は10,000Gを受け取り、男爵とオイスターに一礼すると、納屋の裏にまわって脱兎の如く駆け出していった。
『三日で15,000Gの筈が......主様に会わせる顔がない』
しかし今晩の夜勤がなくなり、主様とまた一緒に居られる喜びが、桔梗の失敗した気持ちを、ほっこり色に塗り替えていった。
「秘宝の短剣<パラライズサンダーエッジ>のデータは取った。土産がない訳じゃない。喜んでくださるといいのだが......主様」
______「あのお嬢ちゃん、もう見えなくなったぞオイスター」
「あれは縮地スキルですかの」
ほう......。
「オイスターよ、お前が今何を思っているのか当ててやろうか?」
滅相も御座いません、男爵様。
「隠すな。似ていたぞ、お前の娘にな」
「お恥ずかしい、見抜いておられましたか.....男爵様、お願いが御座います。出来れば時折、あの桔梗というお嬢ちゃんを雇って頂きたいのです」
それを訊いた男爵の顔に、優しい笑みが浮かぶ。貴族らしからぬ温情のある態度だ。
「ふっ、何年私に仕えておるのだオイスター、お前の考えた事などお見通しだ。分った。冒険者組合に使いを出し、マスターアデリアに伝えておこう。しかしあれでFクラスとは驚きだなオイスターよ」
「はい。有難き幸せに御座います」______
◇◇
タタタタ
______桔梗は更に加速して、時速80kmと言う高速でレティキュラム号を目指して跳ぶように駆ける。
桔梗のAIが映し出すのは主様の笑顔。その笑顔に向かって走る桔梗は、デートに遅れた少女のようである。
午前7時。ゼンマイ式の掛け時計が、のんびりと時を知らせた。
私達は完成した<レイジー・マイシン>400カプセルを詰め込んだ箱を前にして、私とジョー(姐さん)は眠気覚ましのコーヒーを飲んでいた所だった。
「桔梗が来ました主様」=Reno
「桔梗、只今戻りました」
「お帰りぃ~桔梗姉」
?
「糞ウサギ、いつもと調子が違うぞ」
見れば、主様を筆頭に<かぶら>もRenoもニヤニヤしているのだ。
「無事一晩で賊二名を捕らえました。これはその謝礼の10,000Gで御座います。どうぞお納めを」
主様の返答はすぐには返ってこなかい。
『おかしい。なんだこの微妙な雰囲気は?』
「よくやってくれました。妹の桔梗!」
Renoもおかしいが、今度はなんと主様が私を引き寄せて、頭をよしよしと優しく撫でてくれたのだ。
「あぁ、パパ!ズルいぃ!」
「今度はパパかい!」
桔梗は何が何だか理解出来ずに硬直、プラズマ重核子炉がオーバーヒート寸前に陥って白目になった。
これ、演算不能でむりぽ
パタン
今度は桔梗が盗賊二人のように気絶、その場に倒れ込んでしまったのだ。
「パパは、説明不足なんです」
Renoの言う通りなのよさ。
「パパはお似合いね。でもボクはどう呼べばいいのよさ?」
「そうだな、ジョーは姐さんだから、私の事は兄貴でどうだろう」
「ボクと博士は兄弟姉妹と言う事だね。ま、それでいいかぁ」
そんな訳で、ジョーには兄貴、アンドロイド組には好きなように呼ばせる事になった。
「おや? って事は私には奥さんが居る事に?」
「じゃあさ、形だけでもボクを妻にすれば問題ナッシング」
「あのな、アンドロイド組は見掛け17歳ばかり。ジョーは大体9歳で子供を産んだ事になるぞ。しかも三つ子でも矛盾している」
Oh my!団子三兄弟は流石に無理だよねぇ~
「何がオーマイだよ。スパゲティじゃないんだから」
『言い訳は何とでもなる。身寄りの無い子を養子にした事にしておこう。兎に角だ、冒険者チーム<ドラッグ・ファイブスターズ>略して<ドラスタ>は珍しいファミリー冒険者チームなんだよ。これからはね」
理由も知らず気絶した桔梗はそのままにして、私達は冒険者組合を目指した。
ジョーも留守番という名目で睡眠をとらせたのは、やはり昼夜逆転は人間の健康には良くないのである。<時差>と言うのもまた同様に、短期間に重なれば健康には良くないものなのだ。