EP105 なるか怒涛の三連撃!
______『はぅっ レイジー様から頼られた!』
そんな痺れるような余韻を噛みしめながら、忘れる事の出来ないあの日あの時の事が、ルチア・アルデールの脳裏に蘇って来る。
思えば、レイジー様とお会いしたのは、遥か東方の国だと言う<ヤポン>から、冒険者登録に現れたあの日の事。
____っつ
『一目見た瞬間に、私の小さな心を奪われていたけれど、ギルドのゴールドプレートのアイドル受付嬢という誇りと責任から、今迄この想いを私は心の奥にしまい込んで来ました』
そして時折、なにかと理由をこじ付けて、レイジードラッグストアで、後輩の受付嬢レイと一緒に手伝いに来ていたのです。
『......聖母マリア様のお土産作り......楽しかった』
「それが今日、突然モンスターが襲って来るなんて! でも、ここで私の命を賭けた魔法<ソアラ>で、レイジー様の御力になれる! もう死んでも______それは絶対に嫌だ」
恋する少女の想いは、時として奇跡まで起こす事がある。
ルチアは全ての想いを、魔力に込めて放った。
「最大パワー<ソアラ>! 届いて私の想い!」
はぁぁああ~
歯を食い縛るルチア・アルデール。
今まで試した事のなかった、最大パワーの<ソアラ>を放つのだ。
何故なら、相手は人間ではない。
ズゥッ
「おぉぉ!」
その時、推定3,000トンのバルゴンの巨体が、1m程浮き上がった。
しかしレイジーの作戦は、まだここからが勝負。
『私が失敗すれば、レイジー様の大切なこの村が壊滅してしまうわ』
うううう~
ルチアの顔から玉のような汗がほとばしる。かなりの魔力を放出している証拠だ。
ここでルチアが魔力切れになれば、バルゴンに対してレイジーには次の打つ手がない。
_______私達がルチアの魔法に望みを託している時、<保毛坂48>の残留組はよく頑張ってくれていた。
極冷凍波が、墓地と我々の居る場所に向かないよう、ギリギリの戦闘を続けている。
ビス
ビス
「隊長ぉ、ダメですぅ!」
「撃ち方止めぇい。無駄だ」
ハメリア合衆国隊員の持つハンドレーザーガンは、予想通りダメージを与えるに至らないのは、熱量が全く足らないからだ。
「隊長、シャトルにも武器は有りません。どうすれば?」
副隊長トーラスは、オルガ隊長にも手段がないと知りつつ、訊いただけだ。
むぅ。
「......我々のシャトルは、いつの間にか盗まれた。シャトルに武器は無い。が、いったい誰が」
それは勿論、<保毛坂48>選抜12体の仕業である。
その選抜12体にも、レイジー達の戦闘はリアルタイムで届いていた。しかしレイジーから残れと命令されている以上、エスタリカ王国から動けないでいる。
スーリア、フォーリン、十蔵(女性型 桔梗配下)郁恵(Renoの補佐)ニャーゴ(Renoの補佐)、唐十郎(女性型 桔梗配下)、ロミー、トゥーレ、イータ、シオン、ローサ、イアの12体は、愛するレイジー様に加勢したくて、我慢に我慢を重ねているのだ。
「みんな」
と声を上げたのは、暫定選抜12体のリーダー、スーリア。
「いい? 私達はルルシア帝国がどこに移動するのか追跡するのよ。御主人様は必ず勝利する。その後、また私達を頼って下さるから!」
スーリアもまたすぐに駆け付けたかった。しかしそれを実行してしまえば、御主人様の期待を裏切る事になる。
その想いは、選抜12体も等しく到達した結論だった。
「わかったスーリア。私達はルルシア帝国を監視する」
後ろ髪が引かれる想いを振り切って、12体はレイジーの命令を忠実に守るのだった。
______「ルチア、まだいけるか?」
それはレイジーが心配する程の汗だ。
「いけます! 10mまでは浮かせないと」
「頼むぞ! ルチア・アルデール!」
ルチアはその細腕に、更に魔力を注ぎ込んだが、もう限界が来ているのは誰の目にも明らかだ。
魔力を全て失えば術者の生命に影響する。しかし今は、作戦の全てがルチアの魔法にかかっていた。
はぁぁ~
3m
5m
バルゴンの周りに、熱風の上昇気流がゴゥゥと吹き上げて、バルゴンの巨体を更に押し上げていく。
「熱い!」
<ソアラ>は熱を持った上昇気流で、熱い程に威力が増すのである。
しかし単なる風魔法ではなく、豪炎魔法と同時使用する事で可能となるレアな魔法。それ故、魔力の消費量は激しい。
うぅぅぅ
「あと5m......」
はぁ
はぁ
「先輩、もう少しですよ、ガンバ!」
レイの声が遠くで聞こえたような気がした。魔力の使いすぎで、意識が朦朧とするのを、ルチアは気合で押し殺した。
ふぅん!
そのバルゴンはブレスを吐く瞬間、<保毛坂48>の集中攻撃を受け続けて、今は何とかシールドも展開出来ない状態にしていた。だが装甲が固く、殆どダメージがないように見えた。
グォォォ
アギャァァンン
ブレスを吐く事も、シールドも展開出来なくなったバルゴンは、成す術もなく暴れているが、それが僅かの時間しか保てないのは分かっている。しかしバルゴンの巨体は、未だ横を向いていないのだ。
それでも______
______「ルチアァー、貴様はよくやった! 次はこの身が参る! 休んでいるがいい」
気を失いそうなルチアに、大声を出して気絶を防いだのは桔梗だ。
桔梗が妖刀ムラムラの束に手を添え、居合の構えをとる。
瞬発力を生かし急接近して、浮かんだバルゴンの下部から、鬼頭流抜刀術を繰り出すつもりだ。
「んじゃぁ、ボクも逝くよぉぉ~」
ジョーも南友千葉拳の呼吸を始め、桔梗に続けてバルゴンの喉を、極真空波で切り裂こうとしている。
コ~ホ~
浮いた状態で付いた傷からなら、アエリアの極砕鋼線も効くかも知れない。
アエリアはそう思ったのか、シュルシュルと指から音が出ていた。
「お団子頭と年増ジョーが付けた傷、そこにあたしの極砕鋼線を食い込ませれば......いけるかも」
バニラアイスは、得意の<スクリュースピン・バニラちゃん>アタックで、喉を貫通しようと準備運動を始めていた。
「1.2.3とせ 2.2.3.4」
「ラジオ体操か!」
屈伸運動までしていて、緊張感があるのか無いのか、如何にもバニラアイスらしいが、ほんの少しだけれど、それがレイジーの緊張感を和らげてくれた。
「バニラ、お前にウォーミングアップって、必要か?」
「ルチアちゃんも気合を入れてるんです。わたしだって根性出します!」
根性?
とてもAi搭載のアンドロイドの言葉とは思えない。
見回せばレイラン将軍は、結界を張り続ける為に動けない。そしてルチアもレイラン将軍も、もう限界が来ていた。まだ10mには達してはいないが、攻撃するなら今しかなかった。
そこでレイジーは勝機は今だと判断、そして決断を下す。
「行け桔梗! ジョー! アエリア!」
ガクゥ
レイジーの命令がとんだ瞬間、ルチアが力尽きて失神してしまい、それをレイジーがお姫様抱っこで受け止めていた。
「おおおい レイジー、私も気を失いそうなんだが......介抱をだな......お姫様抱っこ......」
レイラン将軍の恨み節を無視して、地にゆっくりとルチアを寝かせるレイジー。
「よくやったルチア。後は私に任せてゆっくり休みなさい」
「ちょっとレイジー! 私、私もだ、もう限界で股がガクガクなんだ」
『レイラン将軍は仮にもSランク、元気そうだし大丈夫だろう』
________私の言葉を合図に、怒涛の三連攻撃が始まった。
「狙うは化け物の喉、食らえ鬼頭流抜刀術奥義<プラズマ極刀震波>!」
シャン!
と静かな風切り音を残して桔梗が着地。すぐ様、ジョーの放つ超真空波が、バラゴンの喉に炸裂した。
シャウ
シャウ
「兄貴、効いてる! 喉が裂けたのよさ」
「出血が少ない! まだ浅い!」
「なら次、アエリアいきます!」
アエリアの奥義、最大に伸ばされた極砕鋼線が、バルゴンの切り傷が付いた喉に巻き付いた。
「でかすぎるわ!」
暗殺用の極砕鋼線は引く事で完成するが、引き裂くには喉に巻き付いた鋼線を強く引き絞る必要があった。
バルゴンの巨体は横倒しではない。鋼線は上に向かって引き上げる必要があった。
失敗したかと思われたアエリアの極砕<ダンシング・デス・ストリングス>だったが、ここで思わぬ事態が起きた。
喉に致命的とは言えない傷を付けられて、苦し紛れにバルゴンが暴れたせいで、体を横に向けて捻ったのである。
グォォォン
ゴボォ
バルゴンが動いたせいで、アエリアの極砕鋼線が食い込み、血しぶきが舞った。
桔梗、ジョーが作った傷に、鋼線が勝手に食い込んでいき、あと少しで極冷凍波のエネルギー袋に届きそうになったのだ。
「kanna、アエリアの鋼線は、どこまで届いている?」
生体スキャンを作動中のkannaは、攻撃がどこまで通用しているのかを観測していた。
「ご主人様、あと一歩、一押しで届きます!」
「じゃぁ行くよぉ~」
と言ってすぐに飛び出したのは、準備運動が終わったバニラアイス。
切り傷が付いている以上、バルゴンの強度が落ちている。
そこへ高速回転をしながら、バニラアイスの超合金ハイヒールがブチ当たれば貫通するだろう。
バニラアイスが地上で高速回転し、ジャンプしようとするが、本来の威力を出すには距離が足りていない。
最大の威力を発揮するのは、上からの攻撃なのだ。
そしてルチアが失神した為、<ソアラ>の上昇気流の効果が次第に落ち始めて来た。
______「糞ウサギ! MDを食らえ!」
「MD!」
私はこんな時に、アデリアの仕返しかと思ったが、そうではなかった。
瞬時に接近したアデリアが、ジャンプしたバニラアイスの背後からMDを放ち、バニラアイスを加速させたのだ。
「た、隊長ぉぉ! あれ あれ」
ポッターが驚くのも無理はない。
「バニラアイスちゃんがぁ 特攻で死んでしまいます!」
「いや、きっとあの娘達には秘密があるのだろう。 全員、今はこの戦いの結末を、目に焼き付けておくんだ」
オルガ隊長も、これは夢ではないかと思ってしまう程の戦闘である。
「夢であって欲しい。夢でない以上、レイジーと言う男、奴は一体、何者なんだ」




