EP103 レイジーの奇策か秘策? それは?
______「時間が! くッ、もっと速く飛べないのかい?」
今の今までワイバーンの背で震えていたレイジーとは思えない言葉だった。それほどレイジーの心を緊迫させたのは、kannaのHelpの悲惨な絶叫を訊いたからに他ならない。
『<保毛坂48>残留組の攻撃が効いていないとは想定外だ、これはもしや物理攻撃が無効化されているのか?』
レイジーはその可能性を考え、レイラン将軍に訊くのだった。
「レイラン将軍、魔法で攻撃を無効化出来ますか? そんな魔法がありますか?」
「おおぉ? レイジーがわたしを頼ってくれた! これは幸先がよさそうだ」
機嫌を非常によくしたレイランは、防御魔法も得意なのだ。
「個人も集団も防御する魔法はある。わたしの得意分野だが、どうするつもりなんだ?」
『科学の世界なら物理シールドと呼べるが、原理が魔法と同じとは考えられない。SF映画の怪獣バルゴンは、シールドを持っていなかったのに......それが後付けと考えると、どこかにシールドの発生装置でもあるのだろうか?』
そう考えたレイジーはすぐ様、kannaに通信を飛ばす。
=kanna、niko、farz、バルゴンの体に不自然な場所はないか調べて。なんでもいい!=
焦るレイジーは、藁をもすがる想いで、突破口を探そうと考えた。
=変な所ですか? 分かりました。すぐに調べます!=
kannaはそう切り返すと、<保毛坂48>残留組が、バルゴンの隅々まで生体スキャンを開始した。
=スキャンが出来る! あれは生命体なんだ!=
幸いバルゴンはロボットでもなく、ちゃんとした生物だったのでる。
=どうだ? 何か分かったか?=
=いえ、まだです。<保毛坂48>残留組35体が、総動員で探索中です=
これほど焦るレイジーを、バニラアイス、桔梗、Reno、ジョーは見た事がなかった。
その顔から、事態は天才レイジーをも悩ませる程酷いと、誰もがそう思うのだった。
______「レイジー、この前、ガッジーラとやらを倒したスキルは、そのモンスターには効かないと思っているのか?」
アデリアの必殺MDであろうと、バニラアイスのスクリュースピン・バニラちゃんアタックも、バルゴン相手だと効果がないだろう。
レイジーは苦しそうな顔で頷くのだった。
「あの女たらしで飄々としたレイジーが、あのような顔をするとは」
アデリアは強い男よりも、情けない姿を晒したレイジーを益々好きになるのである。
主様の表情から、流石のバニラアイスと桔梗、Renoも事の重大さに沈痛な表情を隠せずにいた。
「バニラアイス、村まであとどのくらいかかる?」
「20分です」
「20分......遅すぎる。それでは間に合わない!」
そこでレイジーは、ある事を思い出した。
それはアデリアが、バニラアイスに撃墜されても、無事着地出来たと豪語したあの会話だ。
「アデリアァ、頼みがある!」
平行して飛ぶアデリアに、レイジーが大声で叫んだ。
「う? なんだレイジー、こんな状況で愛の告白を言われてもな」
「違う! 今からこっちに乗り移ってくれ。話はそれからだ」
「やっと糞うさぎと交代か! うむ、心得たぞ」
喜ぶアデリアが、ワイバーンの背に飛び移って、レイジーの背後で抱き付いた。
「ふッ、ウサギは用済。これで夫婦水入らずだなレイジー」
「いや、そういう向きじゃなくて」
「だーめぴょーん」
しかしバニラアイスはどかない。レイジーの考えた策を正しく理解していたからだ。
「アデリア、この策にはバニラアイスが不可欠なんだ。アデリアは私に背中合わせで座って、MDを後方に向かって放ってくれ! それも最大パワーで頼む!」
なんと!背中合わせだと?
最大パワーのMDの反動で、ワイバーンを加速させる作戦なのだ。しかしその急激な加速度Gで、ワイバーンから落ちないよう、私はバニラアイスを背もたれにするのだ。
「わかった。それなら言う通り、あたしの最大威力のMDをブッ放すからな! どうなってもあたしは貴様を信じる! あの世でも夫婦だからなレイジー!」
私はバニラアイスの腰に、更に強く抱き付き衝撃に備えた。
「今だ! やれアデリアァ!」
「ならばいくぞレイジー! 絶対に落ちるなよ」
「ハァァァ 最大パワー MD!!」
ドゴォォォン
かつてこれ程のMDを放った事がなかったアデリア。その威力は、ちょっとした町の建物なら、台風が通過した後のように全てなぎ倒す事が出来るのだ。正に災厄級のスキルと言える。
だがこの作戦には欠点があった。
急加速した反動エネルギーで、私の体は、バニラアイスとアデリアの間に挟まって、押し潰されるかもしれないのだ。
しかし苦しいのはワイバーンも同じ。時速80kmで飛んでいたのに、いきなり160kmに加速したのだから。
グギィィィ
ヴェェェ (レイジー)
余りの速度に、ワイバーンは翼を維持する事も出来ず、戦闘機のような後退翼になった。空力的にはこれが有利である為、ワイバーンは解き放たれた矢のように更に加速したのである。
ウォォォ
「私も 耐えるから、お前も 耐えてくれ ワイバーン、これなら 後10分で 着けるんだ」
「なんと、そんな使い方があったのか! しかしレイジーの体は大丈夫なのだろうか?」
目を見開いて驚愕したのは、それを目撃したレイランだ。
置いてけぼりをくった桔梗、Reno、ジョーはどうする事も出来ず、ただ歯ぎしりをするのみ。
「これでは糞ウサギに、いいところを取られるだけだ」
そう桔梗が憤慨しても、桔梗の鬼頭流抜刀術では、この状況ではどうにもならなかった。桔梗は接近戦に特化しているからだ。
______「レイラン将軍、このままでは追いつけません。何か策はないのですか?」
アエリアも同様、成す術がなかった。しかしそこで、レイランがどうやってワイバーンに指示を出しているのかが気になったのだ。
「それはワイバーンにも言葉があるからよ。まぁ簡易なものだけどね」
それでもワイバーンと会話出来るとは、それは他の動物とも会話出来る可能性があると言う事だ。
______言葉がある!
「じゃ、後で御褒美を上げるって言ったら、もっと早く飛ぶのでは?」
ワイバーンはその気になれば、短時間なら時速100kmを出せる。レイジーには追いつけないが、それでも時間短縮は出来るのだ。
「御褒美ねぇ、わかった。ワイバーンにご褒美を上げるから急いでって話してみる。じゃぁお団子頭や黒服メイド、年増にも連絡してあげて」
はい。
「みんな訊いて。これからレイラン将軍が魔法みたいな? でスピードアップさせるから、しっかりハングオンしなさいよ!」
「なんと! 恩に着るぞアエリア」
桔梗が狂喜したのも無理はない。
「そんな方法が!」
Renoはアエリアを見直した。
「兄貴ぃ~、今追いつくからぁ~」
ジョーはアエリアなど眼中にはなかった。
______桔梗、Reno、ジョーが加速に備えて、ワイバーンに跨っている両足に、グッと力を込めた。
ジョーとアエリアにとって、安全バーとかベルトがないワイバーンでは、加速は恐怖でしかない。それでもレイジーの為と思えば、自然と勇気が沸いてくるのだ。
「+-*/+'&%%$」
レイランが何事かを囁くと、巡行していたワイバーンが、クワッと一鳴きしてからスパートを開始した。
たかが20km速度が増しただけだが、現状を考えるとこれが最高の手段なのだ。
グン
一瞬、ジョーとアエリアの首が、後方に持っていかれる。
それでもレイジーとは、時速60kmの差があるが、一刻も早く御屋形様の為にならねばと桔梗は、無意識に帯刀している妖刀ムラムラに手を添えるのだった。
Renoは肘から先が回転を始め、謎のウォーミングアップを開始している。Renoの武器が何かは、まだ分からない。
シュル
アエリアは極砕鋼線の具合を確認しているが、物理攻撃が無効化されるなら、それも無駄に終わるだろう。
だがレイジーの大切な村を守る為に、何かをしていないと落ち着けなかったのだ。
_____レイジーが騎乗するワイバーンは、もはや失神寸前を耐えて飛翔している。
ワイバーンが気絶するのを避ける為に、バニラアイスの金ダライが、時折唸った。
ゴ~ン
グェ~
「糞ウサギ、お前も大概だな! 普通、ワイバーンにそこまではせんぞ!」
時速160kmは、ジェットコースターより早い。それでも流石にSランクのアデリアには余裕がある。勿論、アンドロイドのバニラアイスも、これ位は楽勝なのだ。
______やっと偽聖母マリア様村の上空に差し掛かると、ワイバーンが遂に、力尽きて気絶してしまったのだ。
「父ちゃん、不味いよ、金ダライがもう効かない」
「ド突き過ぎだ 馬鹿!」
高度100m程からワイバーンが墜落、レイジーの目にみるみる地上が迫ってくる。
おおおお
バニラアイスとレイジーには、もはや成す術がない。
頼りのアデリアは体勢が悪く、地上に向けてMDを放てない。
「レイジーィィ、もはやこれまでぇ~ あぁ~」
______声にもならず、絶望しかけたその時。
「ソアラ!」
ルチア・アルデールの上昇気流魔法<ソアラ>の術式がこだました。
ワイバーンは、気絶したままフワリと着地、お陰でレイジー達は九死に一生を得る事が出来た。
「ルチアァ!」
私は冒険者組合のアイドル受付嬢、ルチア・アルデールの名前を叫んでいた。
「レイジー様、ご無事ですか? でもまだモンスターが暴れています。kannaさんやオルガさん達が頑張ったんですが、まったく効果がないんです」
「あぁ、状況はkannaから訊いている」
「では! 何か対処出来る方法があるのですね?」
______見ればナイト・メア亭は崩壊、デルモンド王国の商人達の店も、聖母マリア様までの参道も、その殆どが無残に瓦解していた。
「これは酷い」
幸いにもレイジードラッグストアは、一部が壊されただけで、なんとか再建が出来る状態ではあった。
安心などしていられない。レイジーが持てるIQをフル活動させている時、待ち続けたkannaから通信が入った。
=主様、ありました!=
=それはどこだ?=
どこかにあると予測した防御シールドの発生源さえ破壊すれば、アンドロイド達の攻撃が通るのだ。
レイジーは逸る気持ちで、kannaの次の言葉を待った。




