EP100 みんな、レイジー様の御褒美はアレよ!
______一年前、レティキュラム号で地球を離脱したレイジー達。搭載している次世代Ai-myuを追い続けたルルシア帝国火星部隊は、その後暫く影に潜みながら片田舎のあばら小屋で、簡易ミサイルの製作に励んでいた。
闇の組織ブルーアが手配した小屋の地下には、広いスペースがありミサイルを作るには最適で好都合だった。
ミサイルとは制御機能を省いた、かつてドイツ第三帝国が開発したV1ロケットに酷似している。
出来上がった仮称V1は、ここから簡易なカタパルトで発射するのだ。
狙いはロイヤル四将軍の本部本隊なのだが、GPS制御がない為に結構アバウトなミサイルとなった。
V1にはシャトルの残存燃料を使う為、ロケット20発が製造限界となった。それでもアレクサイ・ケツノ隊長アナコフは、それでも目的を達成できると考えた。
その理由は、ブルーアの手下の付与魔法士達による爆裂弾頭にある。
異世界では、魔石に魔力を限界まで注ぐ事で、威力のある魔石弾頭が出来上がるのだ。それが間も無く完成しようとしていた。
______「ケツノ隊長、全てのV1完成が間近ですな」
亜細亜周国のシャトル情報を無線で送ったセルゲイは、完成したV1ロケットを眺めながら凶悪な笑みを浮かべる。
その理由はエスタリカ王国の住民を好きなように蹂躙し、気に入ったエルフを奴隷にする為に他ならない。傍に立つ副長ウラワジミーナとドミトリーも、同じ欲望にかられているのだ。
その目論見を理解しているロマノフ(紅一点=本名ナタリー・ダニーキ)は一人、目を伏せ閉じた。
『なぜそんな事をするの!』
内心の怒りを顔に出さないようじっと堪えるしかないが、思わず握った拳に力が入ってしまうのだった。
ルルシア帝国火星部隊アレクサイ・ケツノアナコフ隊長の狙いは、厄介なエスタリカ王国のロイヤル四将軍を抹殺し、その後エスタリカ王国を支配する事にある。
「もう地球に戻る事が出来ない以上、エスタリカ王国を第二のルルシア帝国とするのだ。そしてその王となるのは、フッ この私である」
勿論、これはラーモン・ディ・パッド公爵を王に据える条件で、共謀する事で実現する話なのだが______。
実は両者とも利用価値が無くなった時、裏切ればいいと考えているのは悪党に共通していた。
さて、このV1ロケットの製造小屋とルルシア帝国のシャトルは、およそ10km隔たった距離に位置している。
シャトルはエスタリカ王国の北方、森林の中に隠してあるのだが、現在は5人ともV1ロケット製造小屋に移り住んでいる。
______セルゲイが亜細亜周国のシャトルを発見し、無線電波を飛ばした時、バニラアイス達はそれを傍受していたが、バニラアイス達のAi-myuがいくら優秀でも、受信場所までは特定できないのだ。
あれからルルシア帝国が無線を使った形跡はなく、捜索は難航するかに見えた。
それでも怪しげな男達が、ド田舎のみすぼらしい小屋に多数出入りする姿を、ワイバーン偵察隊の隊員が目撃した事が報告が上がっていた。
「怪しい情報としては今はそれしかない。まずそこから探索するか」
その情報を思い出した第四軍団バーモン・カットラー将軍は、レイジーとバニラアイスの騎乗するワイバーンに接近、可能性のある情報として伝えた。
「なるほど。ボロ小屋に出入りする人間が多いとは......これは匂うな」
レイジーがそう思っても、異世界にはGPSがない。情報があっても、その小屋がどこにあるのかを調べるのは難しいのだ。
______小屋には、ルルシア帝国のローバーが隠されている。
上空からバニラアイス達がセンサーを駆使すれば、大きな金属反応があり、容易に発見する事が可能なのだが、ルルシア帝国側は、ワイバーンがいくら偵察に来ても、絶対に見つからないと考えていたのだ。
ところが保毛坂48の選抜12体を乗せた、ハメリア合衆国のシャトルの接近を知らせる通信が飛び込んで来た。
=レイジー様、こちらスーリア。只今、ハメリア合衆国のシャトルをかっぱら......ゲフン お借りしてエスタリカ王国の上空を飛行しています。燃料がないので、至急着陸座標の指示をお願いします=
=早いなスーリア。ハメリア合衆国のオルガ隊長とは話が済んだんだよね?=
=ゲフン そこは......もちろんゲフン=
=なんだその間は? 分かった、座標はxxx yyy周辺だ。到着したら、すぐジェットパックで各自ルルシア帝国のシャトルやアジトの探索をしてくれ。くれぐれも私達とは別行動で頼む=
=ゲェ そんなぁ~ 別行動ですかぁ~=
スーリア達のテンションが大きく下がった。ゲームで言うならHPの残が1になった程だろう。
=ふ、悦んで来た12体を、途端に奈落に突き落とす。御屋形様もなかなか冷血。Ai-myuにあれほどダメージを与えるとは=
=桔梗、保毛坂48はあたしの敵、もちろん桔梗、あんたもだよ=
=バニラアイスも桔梗もアホなの? 下衆様はRenoにぞっこん、勝負は始まる前に終わっているのよ=
=みんな馬鹿言ってないで、任務に集中するんだ!=
______テンションがだだ下がりの選抜スーリア達は、言われた通りの座標付近にシャトルを着陸させた。
「ちょうど燃料が尽きてしまった」
「もう飛べないのよ、スーリア」
エスタリカ王国のワイバーン部隊の目をかいくぐって、誰にも知られず森の中に着陸させる為に、燃料を使い切ってしまったのだ。
「これからは、このシャトルが私達の家になるから、早速シャトルを光学カムフラージュしてから、すぐジェットパックで出発するわよフォーリン」
当面、レイジー達の戦いはエスタリカ王国になる。その為、いつ呼び出されてもいいように、選抜12体を配置したのである。
「みんな、訊いたよね?」
「「「ラジャァ」」」
選抜12体は、レイジーから受けた指令を遂行する為、ジェットパックを背負って飛び立っていった。
ジェットパックは、父 立木陽介が将来を見越して製作してあったが、早速役に立つ時が来たと言える。
十藏と唐十郎は日本刀を帯刀している。他の10体には武器らしい物は見えなかった。
=む、選抜した12体が飛び立ったようです御屋形様=
=よし、首尾よくルルシア帝国を発見出来たら、選抜12体には何か褒美をあげなくてはいけないね=
「「「ご褒美!!!」」」
バニラアイス、桔梗、Renoが思わず声を上げて叫んだ。
バニラアイス達にとって、御褒美とはアレしかない。それは敬愛するレイジーと蕩けるようなチューをする事なのだ。
はぁ~
ふぅ~
想像しただけで力が抜けるぅ~
妄想が膨らんで、それぞれが騎乗するワイバーンが、グラリとバランスを崩した。
「ちょっとReno、なにやってるのよさ!」
ジョーが切れた。
「赤フンお団子頭、危ないだろ!」
アデリアが切れた。
「おいおいバニラアイス、故障か?」
レイジーは通常運転。
「なにやってんだよお前等。しっかりしろ」
バーモン将軍は、アンドロイド3体に何が起きたかなど知る筈もなく、ただ呆れて返っていた。それはレイジーにも言える事なのだが。
ところでAi-myuシリーズには特殊な効果があった。
レイジー通信をしなくても、特定の感情は共有出来ると言う謎仕様である。
それは人間で言えばテレパシー、そのアンドロイド版と言えた。
=みんな今の訊いたわね?=
スーリアが確認するまでも無く、他の11体の瞳に炎が燈っている。
「「「任務成功でご主人様からの熱い蕩けるチューが!!!」」」
アンドロイド達にとって、これほどの御褒美はないのである。
何故なら、敬愛するレイジーは彼女達にとって神のような存在だからだ。
選抜保毛坂12体は、さっき受けたばかりのダメージから完全復活をとげ、いやそれ以上のやる気MAXアンパンマンズと化した。
ここでルルシア帝国発見の御褒美が、神格化したレイジーのチューだと勝手に決まってしまったのだけれど、それをレイジーは知らない。
へ、へ へくしょい
「流石に北方のエスタリカ王国。寒さがデブーラ男爵領とは違うな。なぁバニラアイス」
レイジーと並行して飛んでいたアデリアのエルフ耳が、その会話を捉えた。
「レイジー、風邪なら妻のあたしが、しっかり夜も介抱してやるから安心しろ。それにちょうどよい薬もある。これはな、口移しで最高の効果がある。どうだ早速______」
と言いかけたアデリアの横から、金ダライが飛んで来た。
ゴ~ン
ぐえぇ
超絶美女エルフのアデリアが、堪らずワイバーンから落下していく。
「必殺ブーメラン金ダライぃぃ! ストライクだぁ」
桔梗はアデリアの後ろで、珍しくバニラアイスにグッドジョブと親指を立てている。
「馬鹿者! お前等何をしてやがる!」
単騎だったバーモン将軍が、アデリアを拾い上げ、地上激突はどうにか回避したのだが______これが偶然にも地上のブルーアの手下の頭上だった。
「おわぁ、バーモン! それにあれは<タマキン・エスケイプ>のアデリアぁぁ!」
Sランク冒険者アデリアの必殺技は、悪党共にとって恐怖の象徴である。それはどんな屈強な男であっても、七日間、女になってしまうからだ。内股で歩く姿を見られたら、その男は一生、笑い者になる。
それ故、手下はアジトを発見されたと誤解し、慌てて小屋に駆け込んでしまったのだ。




