EP1 2053 年越しに緑のポンポコそば食べたいって、何よぉそれぇ~!『わたしを召しあ......馬鹿ぁ~』☆
次世代AI-myu96を組み込んだスーパーアンドロイドは、一人の天才青年科学者の頭を悩ませる存在だ。
「こんな筈ではなかった」
私の前に現れる若く魅力的な女性の全てが、ゴミだとスーパーAIが判定し強烈な拒否反応を示すのは、いったい何が原因なのだろう? 青年がどんなに設計とプログラムを何度見直しても、青年には全く想い当たる所がなく、AIを執拗に狙うスパイ達の手から逃れる所からこの話は始まり、舞台は地球から宇宙、異世界へと移り変わっていくのだった。
2053年12月31日 地球
______ここは、とある青年の両親が名付けた南国の孤島ジャーブラ島。
そしてあと数分で年が明ける2053年の大晦日の事。
直線にして5km、瓢箪のように縊れのあるこの孤島には、AI研究所が一棟あるだけで、住人は青年一人とアンドロイドが一体だけである。
今までは、のんびりと研究をして来たのだけれど......。
コッ コッ
振り子時計が時を刻む中で、美しく可憐な美少女がヒールを鳴らしながら一人歩んで来た。
彼女が左手に持つトレイには、志乃焼きのようなカップに注がれた、淹れ立てのコーヒーが載っている。
コト
カップ一つを落ち着いた作法で、丸いちゃぶ台を高くしたような木製テーブルに置きながら、その美少女が少し呆れた顔になってこう言った。
「こんな日本の昭和時代のような部屋で、ご主人様はまたそれをご覧になっているのですか?」
この美少女は、どこか機嫌が悪そうな物言いをする。
「なんだ悪いのか? MHK金銀歌合戦も終わった事だし、人間の煩悩を追い払うと言う、百八の除夜の鐘を今年も待っている事がかい?」
「あのお言葉ですが、ここは日本ではないし、ご主人様が二百十六の煩悩まみれなのは、聖母マリア様も十分理解しているでしょう。でも、この島には教会もお寺もありませんけど?」
「何で煩悩の数が増えているんだい? いいかい人間とは煩悩の塊なんだよ。だから除夜の鐘を訊いて、汚れた心を年末に洗い流すんだよ」
「その煩悩をもっと私に向けて欲しいものです。除夜の鐘より私の方が、よほどいいと思いますけどぉ~」
プンスコ
「何だよ、信じる者は皆救われるんだ。信心だよ信心。アンドロイドには分らないかな?」
「そんなの理解出来ません!」
話は終わったとばかりに、青年はまた視線をモニターに移した。
◇World War Ⅱ◇
______大型モニターに映し出されているのは、過去の戦争を記録したアーカイブだ。
それをアーモンドミルクがたっぷりと入ったカップを片手に、藤製のチェアに深く腰掛けて、青年は映像に注意深く見入っている。
その青年は、甘いマスクに少し長めの黒髪を無造作に掻きあげる姿が、メンズモデルのように、サマになる爽やかなイケメンである。
ジジ ザザ
「ノイズの酷い30年前の記録ですね、それには何か秘密でも?」
「これかい? 28年前に生まれた私だからね、これを見る度に色々と考えさせられる事があるんだよ」
......。
「あのそれで?」
青年からは、それ以上の言葉が続かなかった。
この島には釣鐘が無い。それ故、別のモニターが日本の除夜の鐘をリアルタイムで放送しているのを、青年は訊くつもりなのだ。
______ゴォ~ン ゴォ~ン
「おっと、2054年になった!私は<年越し緑のポンポコそば>が食べたいよ」
「何よぉそれぇ~」
『ぷくう~......もっと私とロマンチックな事があると思うんですけどぉ~。折角二人っきりの年越しなのに。でもアレって何なのか。ご主人様はどうして私に教えてくれないのかしら?』
白衣の青年の横に立つ美少女は、青年の態度に頬を膨らませ、不満の意思を示しているけれど、青年は全く意に介してはいなかった。
『この鈍感!あほ! 美少女の敵!』
◇アーカイブ映像◇
______西暦2054年の人類は、2024年に勃発しかけた第三次世界大戦を、辛くも回避して生き延びる事が出来た。
その原因となったのは2発の核ミサイルで、それを発射してしまったのは軍事独裁国家<ブラック・フォーン>であった。
事の始まりと言えば、国家存亡の崖っぷちに立たされた<ブラック・フォーン>が、既にどうにもならない経済状況に追い込まれ、国民は餓死者が絶えず絶滅の極致に達していた。
これは何の打開策も考える事が出来ず、破れかぶれになった他国頼りの無能な総統の重大な責任が齎した結果だった。
ジジ 時折映像にノイズが走る。
独裁国家<ブラック・フォーン>総統が頼りにしていたルルシア、亜細亜宗国からの食糧をはじめとした援助物資が足りず、総統には<ブラック・フォーン>国家滅亡の未来しか見えなくなった。
その八つ当たりの矛先がルルシア、亜細亜宗国の二国となり、一番の宿敵である筈のハメリア合衆国に向かなかったのは、本当に奇跡としか言いようがなかった。
当然ルルシア、亜細亜宗国の二国は、この核弾頭ミサイルを無事迎撃に成功し、報復として広島、長崎級の小型核ミサイルを撃ち込んだ。
これにより、軍事独裁国家<ブラック・フォーン>の首都平金は壊滅、6000万人の人口の内300万人が犠牲となったのだ。
______ザザ また映像にノイズが走る。
全世界にとって、厄介者のブラック・フォーン総統が死亡した事により、軍事独裁国家<ブラック・フォーン>は、やっと総統の呪縛から解放されたのだが、復興には数十年の時間を要した。
モニターが映し出す映像は、次第にノイズの無いクリアな画面になっていく。
2050年までには、ハメリア合衆国と日本も協力した放射能の除染作業と経済援助が終わり、ルルシア帝国、亜細亜宗国もやっと核戦争の愚かさに気づかされたのだった。
映像のナレーターは語る。
「世界を巻き込んだ第三次世界大戦____核戦争勃発の危機を脱したのです」
26分に渡る映像は、ここで終わった。
プッツン
___<第三次世界大戦の危機を脱した>しかしそれは表向き。
2030年代からルルシア帝国、亜細亜宗国、ハメリア合衆国の目は地球では無く月に向けられていたからだ。
日本を含めて月面には、数多くの基地が建設された2050年代、月の領有権は何度も国連で問題にされた結果、世界のどの国も月の領有権を主張しない事で一件落着となった経緯があった。
その裏には......各国を納得させる条件が信じられない事に、<太陽系の手付かずの惑星領有権は、この限りに非ず>とした事で、惑星一番乗りを目論む世界中のロケット開発競争に火を点けてしまったのだ。
ハメリア合衆国MASAは、2040年までに有人火星探査を計画して来たが、ロケットの技術的な問題が解決出来ずに計画が頓挫した事がある。
しかしここに来て、国連で太陽系の惑星の領有権が、驚く事に早い者勝ちだと決議されると、世界の目は地球のちっぽけな領土、領海争いから太陽系へと矛先が変わったのだ。
◇怒りとアンドロイド◇
______「本当に人間って奴は!」
「でもご主人様、そのお陰で全く利用価値がなくなった、ここ南国の無人島を格安で購入出来たのですから」
「でもジャーブラ島を購入したのは、私の両親だけどね」
残り少なくなったご主人様のコーヒー。最後に一口含んだ青年の瞳は、モニターから窓の外の美しい南国の星空に向けられ、ただ虚空をボンヤリ見つめていた。
『あふぅ~ご主人様、その横顔が素敵ですぅ』
青年は、30年前に両親がハメリア合衆国領の無人島を購入し、研究所が完成した二年後に生まれたのだった。
「ご主人様のご両親がお亡くなりなったのは、16年前でしたね」
「そう、当時12歳の私はそれから一人で、この島で暮らして来たんだ。研究に没頭していたからね、寂しくはなかったよ」
......。
「そして1年前に、この私を作ってくださいました」
『もじもじ』
「お前を完成出来たのは、両親が残してくれた次世代スーパーAIのお陰だよ。こんなAIは両親以外、世界中の誰も作れないんだから」
『でへへ そうでしゅか♡』
青年はこの島で12歳から27歳まで一人で暮らし、独学で科学技術をマスターし、1年前に目の前の美少女アンドロイドを完成させたのだ。
亡き両親が研究開発していたのは、ハメリア合衆国から依頼されたロケット用と、兵器転用が出来る次世代AIだったが、極秘に研究していたのが平和利用の次世代スーパーAIだった。
兵器転用ではない平和利用の為のAI。それは世界にたった一つしか完成出来なかった<次世代超AI-myu96>だ。
そのAI-myu96が、ライバル国に狙われている事が分かり、隠し場所のパスコードを残した直後に、搭乗した旅客機の墜落事故で亡くなったのだ。
「そのスーパーAI-myu96が今は......この私の中にあるの......」
『ご主人様があの記録映像を見る理由は、未だに領土争いをしようとしている国、人類に怒っているのでしょうか?』
「今は宇宙ロケット開発に世界が過熱している。両親が開発していた次世代AIは、当然に探査ロケットに搭載される最重要パーツ......それは惑星の所有権を勝ち取る為に使われる予定だったんだよ!」
「でわ、でわですよ、ご主人様は、ご両親の死はライバル国が絡んでいるのではとお考えなのですね!」
「絶対に間違いない」
過激化する太陽系ロケット開発の邪魔になった両親を、ライバル国が事故を装って抹殺したと考えられるのは、ハメリア合衆国諜報部からの情報があったからだ。
情報を齎した彼女のエージェントネームはJoe。諜報局に抜擢された若き26歳のエリート女性である。
両親の死に違和感を覚えたジョーは、偵察を兼ねて3年前からこの島に数回足を運んで来ているので、私にとっては数少ない顔見知りだ。
私が作ったアンドロイドとも、1年前から何も度会っているのだけれど、会う度にアンドロイドと妙な? 何かがエスカレートしているような......それは私の気のせいだろうか?
◇嫉妬◇
______エージェントジョーと初対面で出したコーヒーに塩が入ってたのは、まぁ砂糖と間違えたとしてもだ、2回目には強力な下剤が入っていた。
『トイレに缶詰になったジョーには.....うけた』
3回目にはドアをくぐった途端、ジョーの頭に金ダライが降って来た。もうこれは間違えたと言うレベルでは無いと私は思うのだが。
______「もうちょっと博士ぇ、どうなっているの? あんたんとこのアンドロイドは! 欠陥品のポンコツなのよさ!」
「お、おかしいな、こんな事はジョーが来た時しか起きないんだけど、偶然が重なるとは怖いね」
あはは
「偶然? そんな馬鹿な事あるわけ無いでしょ!」
あは あはは
と、その時の私はジョーを誤魔化すように大笑いしたものだ。
私はエージェントジョーから両親死亡の情報を得て来た。そして、ほぼ両親は殺害されたと確信するに至っている。
______殺害された原因は、やはりアンドロイドに搭載した<次世代スーパーAI-myu96>にあるのは間違いない。
◇AI研究施設の秘密◇
______さて驚くべき本当の研究施設は、地上ではなく地下に作られている。
子供の頃の私は、地上の研究室で過ごす事が多かったが、両親はある時を境にして、特別なpass操作でしか入室出来ないようにしたのだった。
それは私の部屋に飾ってあるウサギの縫いぐるみに関係していて、実はこれが地下研究室に通じる鍵なのである。
私の声紋、虹彩認証と指紋による認証システム、更にお守りのペンダントが、最終ロック解除キーとなっている。
今までAI-myu96を守れたのは、見た目は只の玩具ロボットなので、侵入したスパイ達にも気づかれなかったと推測できた。
「いい? これから地下研究室に入る時は、このウサギちゃんの目を見て話しかけるのよ」
確か母親が私にそう言っていた。恐らく両親は身の危険を感じていたからだろう。
◇バニラ・アイス◇
______「バニラ・アイス、お前はそこでこの私が完成させた。両親が守り通した次世代AI-myu96を組み込んでな」
「はい、あの日あの時、目覚めた私は運命を心に刻んだのです」
「えっ? ココロに??AIが?」
キャラクター紹介
☆バニラ・アイス
1年前に天才青年科学者によって誕生したアンドロイド。
身長162cm 乾燥重量55kg、ブロンドの長い髪に出る所は出て縊れが素晴らしい美小女エルフ型アンドロイドだ。
地下研究室で見た当時は未完成の状態で、恐らく両親が友達のいない私の為に、メイドも話相手も出来る美少女型アンドロイドを作ろうとしてくれたのだ。
しかし、それは叶わなかった。
ウサ耳を装備したエルフ型とは、両親は幼い私の好みをどうして知っているんだ? と感激したものだ。
その半完成のアンドロイドを、天才を受け継いだIQ280の私が、更に改良して仕上げたのがバニラ・アイスである。
ちなみに名前は単純に、私がバニラアイスクリームが好きなので即席で付けたもの。
一つ疑問があるとすれば、両親が残したバニラ・アイス専用のコスチュームなのだが、何と言うかこれが全く......。
「実にケシカランのだ。今もそのケシカラン姿で、私の前に立っているんだけどね」
「あの.....ご主人様、私......なんだか動悸がしてきました」
「うん、プログラムの関係かもしれないな。 だったら自己診断を始めてみてよ」
「あ、はい、喜んで! 特殊自己診断を開始します!」
ぷちゅぅ~
うっぷ
ぷはぃぃぃ?
「ご主人様、今度は唇が上手く......動きません。では もう一度特殊自己診断を! これには180秒必要です」
「うそつけ!」
あぁ~ん ご主人様のいけずぅ~
☆エージェントJoe 本名はドミニク・ルフェーブル
ハメリア合衆国の、秘密諜報局に抜擢された26歳のエリート。165㎝、内緒kg、これまた金髪ロングのボッキュン美女。
青年の両親の死後、身辺の監視をしながらAIを巡る陰謀を単独調査していたが、青年と初対面で胸騒ぎが始まっていた。
それにバニラ・アイスのAIは敏感に反応していて、ジョーに対する嫌がらせが始まったのだ。
______この物語とは、青年科学者とバニラ・アイス、エージェントJoeを巻き込みながら、<次世代AI-myu96>を狙う者達とのバトルを通した、奇妙奇天烈な<イチャプン>物語である。
次世代AI-myu96(バニラ・アイス)を守り通す、これは地球と異世界の愛と平和と正義の戦いなのだ。
(たぶん)
「博士、ところでこんなウンコAI、闇に紛れて粗大ゴミに出せば、この物語は完結してしまうのではと、ボクはそう思うんだけど?」
「そうかも知れないがジョー、私はバニラ・アイスが大切なんだ」
「あぁん~、ご主人様ぁ~ 好きですぅ」
ナヌ!(Joe)
______果たしてこのSF茶番物語は、続けられるのだろうか?続かなくても、きっと何の問題もないのだろう。
「山路い~が、やっとあたしの出番を作ってくれたぁ」
「毎日、お前の愚痴ばかり散々訊かされたらな! バニラ・アイス」
「今度こそ、絶対にあたしの活躍と魅力を書き上げるのよ! いい?」
「バニラにそんなに魅力があったら書けるが......ねぇし」
「なによ!盛り下がったら、夜中に化けて出てやるから!」
「お前はアンドロイドだろ!」
うぐッ