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リリー、村人に認められる。二人は歓待をうける

 日が昇ると影狼討伐のニュースは瞬く間に村中へと広がった。そして影狼と僕達を取り囲むような形で人垣が出来上がる。村人達は大興奮している。


「ほ、本当にあの化け物を倒しやがった」

「ウヒャーっ、おっかない爪だべ」

「もしかして俺たちすごい失礼なことしてしまっただ」

「村の救世主じゃ」


 村人達がてんでバラバラでピーチクパーチクしている。早朝とは思えない勢いがある。


「コラ、皆の衆、しずまるのじゃ」


 人垣をかき分けて村長のヴァルドビーさんが現れる。


「アルト殿、貴殿のお陰で村は救われた。心よりお礼申し上げる」

「いえいえ、お気になさらず」

「アルトさん、それでどうやって狼倒したんですか!?」


 村の少年が話に割り込んできた。好奇心で目が輝いている。ああ、冒険とか大好きな年頃なんだろうな。


「コラッ、アルト殿はお疲れなのだぞ。話をせがむのはまた後にしなさい」

「構いませんよ。この場でお話した方が皆様も安心できるでしょう」


 口にこそ出していなかったが、村の大人達も少年の発言には多いに興味をそそられたようだ。さっきからソワソワしている。

 ヴァルドビーさんがこの場にいる者達を見回す。村の人達はヴァルドビーさんに期待の眼差しを向けている。


「まったくもう、皆まで。アルト殿を困らせるでないぞ」

「ヤッター!」


 嘆息をつくヴァルドビーさん。村の人達からも歓声が湧き上がる。

 影狼との戦いのあらましを村の方々に説明した。元々計画していた作戦が失敗したこと。そのためやむなく戦闘に入ったこと。リリーが足を止めて僕がやっつけたこと。


「なんと勇ましい。あなたの勇気で我々は救われました」

「アルト様は学者さんなのに剣の腕も立つのか。ヒャーエライ話だべ」

「ママ、これで夜も安心して眠れるね」


 村の方々は三者三様の反応を示す。どれも肯定的に受け取ってくれているようだ。

 水を差すのは無粋だから言わないけど、言うほど余裕のある戦いではなかった。今回勝てたのはリリーがいたからだし、影狼が前足を怪我して動きが鈍かったからだ。万全な状態の影狼と対峙していたら負けていたのは僕達かも知れない。剣術を磨く必要があると痛感させられた。


「僕だけの力ではありませんよ。リリーのサポートがあったからこそです」


 僕が話題を振ると村の人達の視線が隣にいるリリーに集まる。

 リリーも自分に村の人達の視線が集まったことを理解し、居心地悪そうにソワソワしだす。チラッとうらめしそうに僕を見た。僕はリリーの無言の抗議を無視する。


「えっ、ええ。もちろん忘れておりませんとも」


 村人の一人がぎこちなく返答してきた。リリーのこと忘れてたでしょ。


「僕を認めるようにリリーのことも認めてくれませんか?」


 僕が呼びかけると村の人達からは返事はなかった。YESともNoとも。

 周りの人達と相談をしはじめるが困惑しているようで結論が出てこない。僕を持ち上げていた時と比べるとその勢いは目に見えて落ちている。


「あっ、あの、私のために別にそこまでしなくても……」


 リリーが遠慮がちに口を挟んできた。


「そうじゃないでしょ。リリーは良い行いをしたんだから胸を張っていいんだよ」


 村人達に向かって手を上げて左右に振る。すると村人達は相談をやめて僕を見る。こういうことするの恥ずかしいけど気にしない。


「ハーフエルフ全員が善人とは言いません。それでもリリーは良いハーフエルフです。彼女は危険を承知で影狼討伐に参加しました。僕を認めてくれるなら彼女のことも認めてください。それが僕が望む対価です」


 村の人々が神妙な顔で僕の話を聞くいてくれた。僕が言いたいことを言い終えると腕を組み、顎を触ったりしながら各自各々が考え出す。


「俺はアルトさんの意見に賛成だ」


 ガタイのいい、30代位の男の人が賛成してくれた。


「俺達が家で縮こまってる時に、この坊主と嬢ちゃんは命を張ってくれたんだぜ。俺達となんも縁もゆかりも無いってのにだ。今度は俺達が道理に応える番じゃねえか?」

「確かにそれもそうだよな」


 別の男も頷く。それを皮切りに一人、また一人と賛成者が増え、最終的に満場一致する。


「村を救ってくれてありがとう。差別して悪かったな」


 最初に賛成してくれた男の人が後頭部をかきながらリリーに声をかけた。

 リリーは村の人達から感謝されると思っていなかったため、狼狽しだす。


「き、気にしないでください。差別されるのなれてますから。でも認めてもらえて嬉しいです」

「そうかい、嬢ちゃんも苦労してるんだな」


 村の人達にも同情の色が浮かぶ。リリーのことを一人の人間として見直してくれた。そのことが僕は嬉しい。


「報酬は確かに頂戴しました。皆さん、ありがとうございます」

「いやいや、礼を言うのは俺達のほうだぜ。しかし、兄ちゃんもよく嬢ちゃんのため男気見せたな。───分かった! 兄ちゃんは嬢ちゃんのことが好きなんだな。よっ、お熱いねぇご両人!」


 合点がいったとばかりに男がニヤリと笑う。


「えっ?」


 間の抜けた声を出すリリー。僕と目線が合う。


「あっ、えっと、そのっ───」


 リリーが慌てふためきながら顔を真っ赤にする。そんな反応されると僕も気恥ずかしくなるんだが。思わず頭をかく。

 

「リリーのこと大切に思ってるよ」


 気持ちを言語化して絞り出す。好きというか、リリーのことをほっとけないって気持ちなんだけど。そんなことは露知らず村の人達が僕達を冷やかし、囃し立てる。


「それって、つまり───」


 上目遣いにリリーが僕を見る。


「皆の衆、あまりアルト殿を困らせるな」


 村長のヴィルドビーさんが手を叩きながら割って入る。村人達は不承不承といった様子で大人しくなる。

 ヴィルドビーさんが横槍を入れてくれて正直ホッとする。だってノリと勢いでいい加減なこと言いたくないもん。

 リリーが恨めしそうにしてるのが横目に映るが、敢えて知らないフリをする。ヴァルドビーさんが話を続ける。


「今日は巨大狼を倒したアルト殿、リリー殿を饗すために宴会を開くぞ。皆の衆、今日はたらふく飲むぞ」

「賛成!」


 周囲から次々と賛成の声が上がる。断るのも無粋なので村の人達の好意に甘えることになった。

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