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立ち寄った村で狼退治に駆り出される。村人の信用を獲得しよう

 僕とリリーはグルグルマップで目星をつけた古代遺跡に向かうために比較的遺跡の近くにある村へと向かっていた。

 村で水・食料の補充以外にも、古代遺跡に関する噂話や伝承などの情報収集もしたいと考えている。


「なんだか寂しい村ですね」


 リリーがポツリと呟く。

 村を覆う柵は所々破壊されていて、田畑には動物の足跡が点在する。家畜小屋のようなものもあるけど豚はあまりいない。確かに寂れてる感じがする。


「そうだね。何か訳アリかも知れないし、村の人に聞いてみようか」


何かトラブルを抱えている予感がする。だったら尚更見過ごすわけにはいかないよ。



ーーーーーー



「余所者が来たぞ」

「長耳もいるぞ」

「あいつらの仕業なんじゃないか?」


 リリーの長耳がピクリと動く。僕で聞こえるんだから彼女はよりはっきりと聞こえていることだろう。しかし彼女はおくびにも出さずに無表情でいる。


「こんにちは、僕達は冒険者です。村長はいらっしゃいますか?」


 何もしてないリリーを悪者扱いしてくるのは面白くはないけどこちらが喧嘩腰になっても仕方がない。まずは彼らの事情を把握しよう。

 と思っていたのだが、相変わらず村人達は内緒話を続けている。


「冒険者だってさ、こいつらに魔物退治させればよくね?」

「いやいやいや、冒険者なんて、ならず者の常套句だろ」

「こんなナヨナヨした男が冒険者? それこそ嘘だろ」

「そこの貴方、アルトさんはナヨナヨした冒険者じゃありませんよ。古代遺物のスペシャリストです。アルトさんにかかればどんな魔物もイチコロです!」


 僕の悪口を言っていた村人に対してリリーが眉を釣り上げながら人差し指をビシッと指して抗議する。村人はビクリと身体を震わす。


「アハハ……」


 リリー、気持ちは嬉しいけどちょっとハードル上げすぎな気がするよ。


「それは素晴らしい。ぜひ冒険者殿にお願いしたいことがあります」


 人垣が割れて40過ぎ位の頭が禿げ上がった中年の男性が現れた。話を聞きつけたのだろうか。


「私は村長のヴァルドビーです。皆魔物に家畜が襲われて気が立っております。どうか許してください」

「僕はアルトです」

「リリーです」

「ええ、構いませんよ。それでどんな魔物に襲われたんですか?」


 リリーが『助けるの?』と言いたげにジト目を送ってくる。僕はコクリと頷く。

 遺跡調査を行うためにも村人の心証はよいに越したことはない。それに困っている人はなるべく助けたい。


「馬ほどの大きさのある目の赤い黒い狼に襲われてます。今は家畜だけで済んでおりますが、家畜がいなくなれば女子供が襲われる危険性があります。アルト殿、どうか我々をお助けください」


 ヴァルドビーさんは深々と頭を下げる。


「ヴァルドビーさん、頭を上げてください。分かりました。僕達でなんとかしましょう。そのために狼が出没した場所や目撃者の話を聞かせてください」



ーーーーーー


 一通り調査を完了させた頃には夕暮れになった。僕とリリーが田畑に二人いる。

 家畜を襲う魔物の正体は影狼かげろうと呼ばれるモンスターと考えて間違いないだろう。

 村人の目撃情報や、田畑に残された足跡や体毛、死んだ家畜に残された牙や爪痕からそう判断できた。それに『グルグル』にも尋ねてみたが同様の答えたが返ってきた。


 影狼かげろうは漆黒の毛皮で覆われた狼のような姿をしている。目撃情報の通り真っ赤な目をしているのが特徴だ。暗闇の中、その目だけが真っ赤に輝くらしい。大きさは狼と同程度。間違っても馬ほど大きさはない。魔力の過剰摂取で巨大化したのだろうか? もっともそんな魔力がどこにあるのかという話になるが。今は影狼を倒すことに専念しよう。


「それでどうやって影狼を退治しますか。アルトさんが私を見つけてくれたように影狼を見つけたりできませんか?」

「グルグルマップは使えないね。あの時はたまたまリリーを見つけただけだよ」


 グルグルマップで任意対象を探すためには対象の姿を鮮明にイメージする必要がある。僕は知識の上でしか影狼を知らないし、出没エリアの絞り込みも出来ていない。この状態でグルグルマップで探すのは難しいだろう。


「アルトさんは私の命の恩人です。耳と夜目は聞きますから私を役立ててください」

「うん、頼りにしてるよ」

「任せてください!」

「じゃあ、早速準備をはじめよっか」


 グルグルドライブから警鐘のワンドを取り出す。細長い木の棒で先端に金色の鈴がついている。

 警鐘のワンドに魔力を流し込んで畑にルーンを刻む。すると金色の文字が浮かび上がり、そしてフッと消える。


「何をしてるんですか?」

「警鐘のルーンを刻んでいる。もしも影狼が村に侵入してきたら杖が知らせてくれる」

「なるほど、探せないならやってきたところを倒せばいいんですね

「家畜の味をしめるてるだろうからね。言われなくてもやってくるよ」

「じゃあどうやって倒しますか。闇夜に紛れた影狼を倒すのは至難の業ではないでしょうか。\nアルトさん、夜目効きませんよね? 私じゃ倒すの厳しいかも知れません」


 リリーの疑問ももっともだ。熊並の力と狼の俊敏さを兼ね備えたモンスターを明かりのない場所で倒すのは難しいだろう。だからと言って明かりを付けて待っていたらやってこない。夜は影狼の独壇場だ。


「だからコレを使おうと思う」


 『グルグルドライブ』から大型のトラバサミを取り出す。鉄製で一度食い込めば馬だって逃さないだろう。

 トラバサミを畑に置いた後に木の棒を放り投げる。するとトラバサミが作動して木の棒がパキッと砕ける。


「これならいけますね! ……あ」


 リリーがトラバサミの威力を見てパッと明るくなり、そして暗くなる。リリーも察したようだ。


「あのー、気付いちゃったんですが、どうやって影狼を罠にはめるんですか。肉でも置いておきますか?」


 リリーがおずおずと質問してきた。発言に自信がないのか長耳がペタンとたれている。


「んー、それはちょっと厳しいだろうね。わざわざ怪しげな肉に手を出すより家畜を襲うんじゃないかな」


 影狼からしてみればこの村は食べ放題の食堂に通うようなもんじゃないだろうか。


「じゃあ、どうしますか? おびき寄せることが出来ても倒せなくちゃ意味ないですよね」


 リリーが頬に手を当て考え込む。


「だからコレを使おうと思うんだ」


 グルグルドライブからミラージュメーカーを取り出す。

 ミラージュメーカーの大きさはギリギリ手のひらに収まる程度。かなり大きめのサイコロのような正方形をしている。1パネルにだけ小さなレンズがついており、他のパネルにはダイヤルとスイッチが付いている。


「これはなんなんですか? マジックアイテムにしては不思議な形をしてますね」


 リリーは不思議そうにミラージュメーカーを覗き込んでくる。


「これはね、ミラージュメーカーといってね、幻影を投影出来るんだ」


 各パネルをダイヤルを回した後にスイッチを押す。するとレンズから実物大の豚の幻影が飛び出る。


「うひゃっ!?」


 リリーが素っ頓狂な声をあげながら、ビョンッと一歩分後ろに下がる。投影された豚の幻影に釘付けになる。


「ねっ、面白いでしょ」


 リリーがいい反応をしてくれて嬉しくなってしまう。ニヤニヤを笑いをグッと堪えるが口の端がピクピクする。

 リリーが察する。僕の口角をジッと見ながらジト目になる。


「私、そういう悪戯、良くないと思います」


 リリーが頬を膨らませ腰に手を当て怒ってますアピールをする。


「あはは、ごめんって。でもさ、これいいでしょ? これだったら影狼を誘い込めると思うんだ」


 ミラージュメーカーの各種ダイヤルを回してクルクルと幻影を切り替えてゆく。ニワトリ・羊・牛・井戸・住居・田畑を映して最後に豚に戻す。豚がいびきをたてながら寝ている幻影が展開される。


「まったくもう。アルトさんって意外と子供っぽいところあるんですね」

「だってリリーが可愛いからさ、驚かしたかったんだよ。許してよ」


 リリーが一瞬硬直し、頬を少し赤らめる。


「つ、次はそういうことしないでくださいね」

「うん、許してくれてありがとう」


 リリーは軽く咳払いした後にいつもの調子に戻る。


「確かにミラージュメーカーを使えば影狼を騙しきれそうですね。これなら討伐いけそうですね」

「うん、僕もそう思う。罠に嵌った影狼をやっつける。これでいこう」


 作戦が決まった頃には日が暮れ始めていた。夜はもうすぐやってくる。

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