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助けたハーフエルフにパーティ加入を迫られる。彼女は肉食系ハーフエルフだった

「大丈夫?怪我はない?」

「……」


 女の子に話しかけるが返事はない。こちらを警戒している。まぁ無理もないよな。さっきまで熊に襲われて死にそうな目に遭ったのだから怯えてる方が普通だよな。突然助けられてもそりゃ驚く。


「大丈夫。僕は危害を加えないよ」


 努めて優しく声をかける。しかし女の子は警戒心を緩めない。ジト目で僕を見つめてくる。

 女の子の様子を伺ってみる。女の子は16歳前後の少女だった。白い肌に茶髪のボブカットがよく映えている。そして何より特徴的なのが人間にしては尖った耳だ。文献で見聞きしたエルフを想起させられるけどエルフほど身体は細くない。あっ、彼女が太ってるって意味じゃないよ。尖った耳をしているのに僕達人間と同じ体格をしているという意味だ。

 後、 着ている服の端はほつれ、泥で汚れている。森の中に入るにしては装備も軽装すぎる。何か訳アリなんだろうか。


 さて、どうしようか? このままにらめっこをしていても仕方がない。だからといって無理に近付いて警戒されるものも困りものだ。

 手詰まりになったところで僕の足元から突如として不協和音が鳴り響く。ピーピーガーガー。

 女の子が僕の足元を警戒する。僕も足元に目を向けると七里の靴が揺れている。微かな振動が伝わってくる。その振動は次第に大きくなっる。ヤバい。術式を改編したせいで七里の靴が暴走してる。慌てて術式を元に戻そうとするが間に合わず七里の靴が『ボンッ』という音を立て小さな爆発を起こす。


「熱っ!」


 七里の靴からモクモクと煙が立ち昇る、 バチバチと少し火花が散る。七里の靴がヒビが入り壊れてしまった。

 痛みをこらえながら靴を脱ぐ。足を火傷してしまった。


「あっ……大丈夫ですか?」


 女の子が僕に近付き初めて口を開く。こちらの気遣いと申し訳無さのようなものが顔に浮かんでいる。


「うん、平気、平気」


 本当は痛いけどやせ我慢する。これは修理しないと使えないな。材料が手に入ればよいけど……。

 傷を癒やすためにグルグルドライブを起動する。ヴンッという音とともに魔法陣が出現する。魔法陣の中に手を突っ込みポーションを2本取り出す。


「ポーションが出てきた!」


 まるで手品でも見るように少女が驚く。


「はい、君も1本飲んで」

「えっ?」


 1本は女の子に押し付ける。そして僕はポーションを開けてゴクゴクと飲み干す。

 女の子は僕とポーションを見比べた後、恐る恐るポーションに口をつける。


「うっ、苦い」


 ウェッと口をしかめる。


「効能は保証するから我慢して飲んで」


 正直言うと僕もこのポーションの味は好きじゃないんだ。ピリッと辛い味がする。

 少女は嫌そうにしながらもポーションを飲み干す。するとすぐに効能があらわれる。かすり傷は塞がり、血色がよくなる。その効能に女の子は目を丸くする。


「えっ、嘘。凄い」


 肩を回したり、自身の身体をペタペタと触ったり、けんけん足をして身体の具合を確かめている。


「ねっ、よく効くでしょ」


 僕もよっこらせっと立ち上がる足の火傷を確認する。綺麗に回復している。

 このポーションは古代の文献を基に作成したポーションだ。味はいまいちだけどたちどころに傷を癒やし疲労回復する。古代では『皇帝液』と呼ばれ珍重されていたらしい。


「あの、私リリーって言います。助けてくれてありがとうございました」


 リリーがお行儀よくペコリと頭を下げた。


「礼には及ばないよ。僕はアルトっていうんだ」


 リリーに微笑む。リリーが心を開いてくれたことが嬉しい。先程のような警戒心剥き出しの態度は鳴りを潜めた。


「あのっ、私───」


 リリーが何か話そうとしたところでリリーのお腹が盛大に鳴る。

 すると、リリーが顔がカァーッと赤くなる。


「これはですね、あのっ、そのっ」

「とりあえずご飯にしよっか。話はそれからにしよう」


 どうせ自由気ままな旅を始めようと思ったところなんだ。道草も存分に楽しもうではないか。



────────────


 熊が転がってるところで休憩をとるのは流石に危険なので場所を移動する。比較的周囲が開けている場所に移動した。


「ここ、初めて来るんですよね? まるで頭上に目でも持ってるみたい……」

「そういう古代遺物があるからね」


 リリーに返事をしながら設営を開始する。グルグルドライブに手を突っ込む。キャンプ用品を取り出す。テント、寝具、照明、水、固形食料、食器、コップ、マジックライターetc……。


「さっきからどこから取り出してるんですか!?」


 釈然としない様子でリリーが叫ぶ。


「古代遺物の収納ボックスから取り出してるだけだよ」


 驚くリリーを尻目に設営を進めてゆく。


「アセンブリウス!」


 テントの組み立て呪文を唱えるとテントが自我を持ったように動き出す。シュルシュルとほどかれ、地面にペグが打ち込まれロープが通る。ひとりでにテントの設営が終わる。


「アルトさんは何でも出来るんですね」


 しばらく言葉を失っていたリリーが声を絞り出すように言った。


「いや、何でもは出来ないよ」


 食事の準備もちゃっちゃとしようと思ったところでリリーの格好が気になった。


「な、なんですか」


  僕に見つめられてリリーがソワソワしだす。傷が癒えているとはいえ、女の子にボロボロな格好させるなんて不憫すぎる。先に衣服を用意してあげたい。


「君の衣類も新調しようか。ちょっと待ってて」

「えっ、そんなことも出来るんですか」

「うん、任せて」


 早速準備にとりかかる。再びグルグルドライブに手を突っ込んで、リリーをカメラでパシャっと撮影する。その後に衣類製造マシーン『モルフォプリンター』を取り出す。先程と同様にアセンブリウスで自動組立すると手の平サイズだったものが机位のサイズまで膨れ上がる。、撮影した情報を入力して実行すると新品の衣服と靴が出力された。出力された衣類をリリーに手渡す。


「凄い、あっという間に……」


 リリーは魔法でも見るかの如く目を丸くさせた。


「はい、少し離れた場所で着替えてきて。その間に食事を準備するからさ。何かあったらすぐ呼んでね」

「アルトさん、ありがとうございます」


 リリーがペコリとお辞儀をして茂みの中に消えた。

 礼儀正しい子だよなぁ。だから彼女をもっと喜ばしたいと思う。そのために早速食事の準備にとりかかろう。

 枯れ木を集めてマジックライターで火を点ける。金属の台座を用意して鍋を置く。ちょうど火が鍋の底に当たるちょうに調節する。その後に水筒の水を鍋に注ぎ沸騰させる。鍋にコンソメの固形スープを放り込みかき混ぜると食欲を刺激する香りが漂ってくる。それとビスケットを用意する。

 食事の支度が出来た頃にリリーが戻ってきた。


「いい香りがしますね。コンソメですか?」


 リリーが鼻をヒクヒクさせる。


「そう、結構美味しいよ。リリーバッチリだね。」


 茂みから現れたリリーはこざっぱりとした格好で戻ってきた。上半身は白いシャツの上に黒革のベストを羽織っている。これにより身体の動きを妨げることなく、どんな状況でも素早く動けるだろう。腕は袖なしで、手首には薄い皮の手袋が装着され、指先は出ている。\n下半身は、やはり動きやすさを重視したダークブラウンのタイトなズボン。それとフラットな革のブーツ。全体的に軽装で動きやすい格好だ。どことなくレンジャーを思わせる佇まいだ。


「全部アルトさんのお陰です。ありがとうございます」


 リリーが嬉しそうに遠慮がちに笑う。


「気に入ってもらえて嬉しいよ。それじゃ食事にしよう」


 僕とリリーは火を囲んで座る。


「いただきます」


 リリーがフーフーとコンソメスープを冷ましながら飲む。するとホッとしたように一息つく。その後にビスケットを齧る。


 「食事は普通なんですね。美味しいです。なんだか安心しました」

 「そこ安心するポイントなんだ。出来ればもう1品、新鮮な肉や魚でもあるといいんだけどね」


 そんな感じで談笑をしながら食事を摂る。

 食事を終えて、満足感を得た後にリリーが唐突に話題を振ってきた。


「そう言えば、熊に襲われる前に雄叫びが聞こえてきたんですが、あれってアルトさんですか?」

「な、なんのことかな?」


 ええ、叫んでおりましたとも。但しそのことを正直に言うのが恥ずかしかったので誤魔化してみる。


「私、耳がいいんです」


 リリーが長耳をピコピコ動かして見せる。それから僕をジッと見つめる。見つめられて思わずソワソワしてしまう。


「……うん。そう。まぁ忘れてくれると嬉しいかな。アハハ……」

「やっぱりそうだったんですね」


 何故かちょっと嬉しそうにリリーが微笑む。


「笑わなくてもいいじゃん」

「ごめんなさい。別にアルトさんをからかうつもりはないです」


 リリーが居住まいを正す。


「私と同じだなと思って」

「それはどういう意味?」

「私、見ての通りハーフエルフじゃないですか。だから街でちょっと虐められていたんです。それで今の暮らしが嫌になって逃げてきたんです。エルフが森で熊に襲われるなんておかしな話ですよね」


 リリーが自虐的な笑みを浮かべる。僕はその笑みを嫌だと思う。リリーにそんな表情をさせたくない。


「おかしくなんてないよ。森は危険な場所だから。それにね、僕は古代遺物をよく取り扱っているんだけど、しょっちゅう失敗ばかりしている。この前なんて大笑いさせる遺物の操作を誤ってあやうく笑い死にしかけたんだ」


 あの時はフレイに怒られたっけ。私を笑い死にさせるのかと凄い剣幕だったな。


「なにそれ。アルトさんもポカするんですね」


 リリーがクスクスと笑う。よほどおかしかったのか目の端から涙がこぼれる。


「だから、リリーはおかしくないよ」


 リリーはひとしきり笑うと、すっきりしたような表情で笑いかけてきた。


「アルトさんのお陰で気が楽になりました。ちなみになんですけど、アルトさんは私のことどう思いますか?」


 リリーが上目遣いにこちらを見る。うん、その仕草可愛いと思います。


「リリーはリリーだよ。ハーフエルフが虐められることもあるって話は聞いたことあるよ。でも好きか嫌いかは自分で決めていいことでしょ。僕はリリーのこと可愛いと思うよ」

「そんなこと言われたらの初めてです。嬉しいです。あの、アルトさんのことも教えてくれませんか」

「勿論いいよ。って言っても僕の話なんてそう面白くないけど」


 リリーにお願いされて事の顛末を説明する。古代遺物局で仕事してたこと。素婚約者から婚約破棄されて会社の上司にクビにされたこと。古代遺跡に潜って遺物を発掘してそれで生計を立てたいと思ってること。そしたらリリーを見かけたということを。


「なんなんですかそれ。アルトさん全然悪くないじゃないですか!」


 リリーが我が事のように憤る。


「納得はしてないよ。今でも腹立つもん。まぁそれのお陰でリリーを助けられたんだから悪い話ではないと思ってるよ」


「でも納得出来ないです!」

「ははっ、リリーは優しいね」


 リリーに感謝の気持ちを伝えると、納得しきっていないが、怒りを和らげた。


「じゃあ、今後は古代遺跡の探窟をするんですよね?」

「そうだよ。まぁ上手くゆくかどうかは分かんないけどね」

「あの、遺跡の探窟に私も加えてください」

「えっ、それはどうしてかな?」

「私、ハーフエルフじゃないですか。だから人間からもエルフからもあまり良く思われません。そんな私でもアルトさんは差別しません。だからアルトさんの仲間に入れてください」

「気持ちは嬉しいけどさ、探窟って物凄く危険なんだよ。遺跡の中にモンスターが住み着いているかも知れないし、古代の防衛機構、ガーディアンだっているかも知れない。リリーは何か特技を持っているかい?」


 敢えて厳しめのことを言う。安易な気持ちで同行を許可してリリーを死なすようなことなんて出来ないから。


「分かりました。私がお荷物でなければ同行を許してくれるということですね。見ていてください」


 リリーが人差し指を口元に近付けるジェスチャーをする。静かにしろってことか。それに従う。木々が揺れる音が際立つ。リリーは耳をピクピクさせて音を探っている。

 リリーの身体と意識が森の茂みにピタリと固定される。それから音を立てずに懐からダガーを抜き出し投擲する。ヒュッと短い風切り音がなる。ダガーは茂みの中に消え、ドサリとなにかが倒れる音が聞こえる。

 緊張を解くリリー。そのままダガーを投擲した先の茂みに向かう。茂みの中でガサゴソした後に立ち上がった。右手には野ウサギが握られていた。


「お見事。凄い」


 パチパチと拍手を送る。戻ってきたリリーは誇らしげにしている。


「力に自信はありませんが、耳と暗視、素早さには自信があります。それに父さんに鍵開けやトラップ解除は仕込まれてます。私の技能もきっと探窟で役立つはずです。それに私が入れば肉や魚の調達も捗ります。私、食卓に貢献できます」

「OK。同行を許可するよ。安全第一だからね。リリー、よろしく」


 リリーは必要十分の技能を備えていた。確かに探窟する上では耳と目が良いことは非常に重要だ。化け物退治に出かけるわけではないのだから、力よりそちらの方が重要だと言える。リリーの身の安全を考えるなら連れてゆくことは最良の選択ではないかも知れないけど、訳アリのリリーを連れてゆくことは最善の選択だと思う。それに食卓が豊かになるのは非常に魅力的な提案だ。

 リリーに右手を差し出す。リリーは嬉しそうに僕の右手を両手で包み込んだ。


「私、頑張りますから。受けたご恩は必ず返します」

「恩なんて大袈裟な。僕が望むのはリリーとの対等な関係だよ。安全第一でよろしくね」

「分かりました」


 こうして僕とリリーはパーティを組むことになった。リリーが調達してくれた野ウサギは二人で捌いて美味しくいただいた。彼女の好物は肉であることが判明したのであった。彼女は肉食系ハーフエルフだった。

週1更新目指して頑張ってこうと思います。

今後ともよろしくお願いします。

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