噴水を直したらメカオタク少女にスカウトされたんだが
現れた少女は丸メガネ金髪碧眼の少女だった。年は18歳位だろうか。リリーと比べて1つか2つ上のように見える。
上半身はワークウェアで下半身はカーゴパンツ。それに厚手のブーツを履いていて、修理作業者を地でゆく格好だった。肩にかけたショルダーバックや衣類のポケットから工具が見える。
少女が噴水に目を向けた。
「えっ、どうして!?」
そのまま噴水に駆け寄り、水を掬う。信じられないといった様子で少女が立ち尽くす。そんな少女に対しておばさんが親しげに声をかけた。
「聞いてエレナちゃん、旅の人があっという間に噴水を修理してくれたのさ」
「えっ?」
おばさんが僕達を指差す。少女は指差す方角を向き僕と目があう。
指さされたほうをアルトを金髪少女がみる。アルトと金髪少女の目線があう。
「どうも、余計なことしちゃいましたかね」
軽く会釈する。格好や言動から推察するとこの子が噴水を直す予定だったんじゃなかろうか。おばさんもエレナちゃんとか言ってた覚えがあるんだけど。ひょっとして直しちゃいけないやつだったのかな。
女の子はポカンとしたまま僕を見つめる。僕が口を開く前に少女が先に口を開いた。
「どうやって修理したんですか!?」
ダッと少女が駆け寄ってくる。キラキラと目を輝かせながら矢継ぎ早にあれこれと訊ねてくる。距離感がなんか近い。
「あっ、えーと……」
対応に困っているとおばさんが少女の肩を掴み、優しく後ろに下げた。
「ほら、エレナちゃん、旅の人が困ってるよ」
おばさんに声をかけられて少女が我に返る。冷静さを取り戻した。
「あっ、ごめんなさい。私、エレナって言います」
「どうも、アルトです」
「リリーです」
「それで、どうやって噴水を修理したんですか?」
エレナが好奇心を隠しきれないまま訊ねてくる。
「浄化機能のところの魔法コードがおかしかったから改修して直した」
「えっ、そんなこと出来るんですか!?」
エレナがは目を丸くして驚く。
「うん、魔法コードに流れる魔力を追っかけると浄化機能のコードがおかしくなってたわけ。だからそこにちょちょいと手を加えた感じ」
「ちなみに故障前よりも水が綺麗になってました。それは?」
へぇー、この子、よく分かってる。年の割に古代遺物に対しての造形が深いぞ。
「実は不純物を取り除く魔法コード以外に、水を清らかにする魔法コードを追加したんだ。水がまろやかになってて美味しいと思うよ」
「凄い!」
エレナが目をキラキラと輝かせながら僕を見つめてくる。ま、眩しい。
リリーが少しムスッとしながら口を挟んだ。
「エレナさんでしたっけ? どんな用事でいらしたんですか?」
「あっ、失礼しました。私、この街で設備の修理をやってます。今日は噴水の修理で来ました」
「それでアルトさんが先に修理をしたと」
「そうです」
エレナがニコニコと笑っている。噴水を修理したことを怒っているわけではなさそうだ。内心でホットする。ヴィクトールだったらメンツを潰されたとか言って怒ってただろうし。そんなことを考えているとエレナが口を開いた。
「お二人は旅の方ですか?」
「うん。今日きたんだ」
「レリクヴィア、いい街ですよ。古代遺物はたくさんあるし、ソーセージ美味しいですし。あっ、ホットドッグ食べましたか? とっておきのお店紹介します」
「ありがとう。レリクヴィアはいい街だと思うよ。さっきホットドッグを食べんたんだけど、エレナが紹介してくれるお店のも是非食べてみたいね」
これで古代遺跡のライセンスも取得できれば、何も言う事ないんだけどね。
リリーがもう一度、口を開く。
「ここのソーセージ美味しいですね。皮がパリッとしてて、独特の香辛料が口に広がって絶妙でした───って、そうじゃなくてアルトさんが噴水を直しちゃいましたけど問題ないんですか?」
「ええ、問題ありませんよ。こちらとしては大助かりです」
エレナがニッコリと笑う。特に気にしている様子はない。額面通りに受け取ってよさそうだ。
「それは良かったよ。勝手に修理して怒られるんじゃないかと思ったよ」
「そんな滅相もない。アルトさんが魔法コードを改修してくれたお陰で使用予定だった部品が余りました。余った部品は他の設備に回せますからこちらとして大助かりですよ」
エレナがそんなことを喋りながら何かに気付いたようにハッとする。それから少し気まずそうにこちらをチラチラしだす。
「エレナ、どうかしたの?」
「えーとですね、アルトさん。怒らないで私の話を聞いてほしいです」
「何? 急に改まって」
エレナが神妙な態度を取り出してドキッとする。何か不味いことでもあったんだろうか。トラブルやだなぁ。
「レリクヴィアの街では発掘した古代遺物を公共施設として活用してるんです。それでとっても過ごしやすいんです」
「だろうね。この噴水がなかったら水の確保だってもっと大変だろうし」
「はい、古代遺物のお陰で過ごしやすいです。でも維持・メンテナンスするのが大変な側面もあります。部品を発掘出来ないと修理出来ないからです。だから故障したらそのままになることも多いんです」
「それで?」
エレナが何を言いたいのか見えてきた。怒られる流れじゃなくて内心でホッとする。
「古代遺物の修理に協力してください。アルトさんの魔法コード改修の力があれば修理出来なかった古代遺物を直せるかも知れません。虫の良い話だと分かってますが、みんなのために力を貸してください。お願いします!」
エレナが頭を下げる。そんなの僕の返事は決まってるじゃないか。
「いいよ。どうせ暇してたところだし。僕で役に立てることがあるなら協力させて欲しいな」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
エレナが本当に嬉しそうに喜んでいる。そんな顔をされるとだこちらも嬉しくなってくる。
「リリー、いいよね? どうせ暇してたわけだし」
「……そうですね、悪くないと思います」
リリーが歯切れの悪い返事をする。承諾こそしてくれたけど、言うほど納得してくれていないような気がする。
「何か気になることがあるの?」
「何でもないです。アルトさんらしいなって思っただけです」
その割には不満気に見えるんだけど。何で怒ってるんだろう? そんなことを考えているとリリーがエレナに対して口を開いた。
「エレナさん、魔法コードの改修ってそんなに凄いことなんですか?」
「勿論です! 古代遺物は私達よりも進んだ技術を有してます。私達は構造がよく分からないまま便利だから使っているというのが実情なんです。魔法コードを弄れる人と話が出来るなんて、私、幸せです」
うっとりした表情でエレナが僕を見つめる。リリーの顔が益々険しくなる。だから何で!?
「ありがとうございます。アルトさんが規格外ってことを再認識出来ました。ええ、私は異論ありませんよ。アルトさんの特技を活かして馬車馬の如く働くタイミングですね」
怒ってる理由は分からないけど既視感はある。これ、フレイと一緒にいた時にもこんなことあったな。確かあの時は───
「ねぇ、リリー」
「……なんですか?」
「僕さ、古代遺物が絡むとどうしても視野が狭くなるんだ。もしかしてそのせいで、リリーに迷惑かけちゃったかな。だったらごめん。仲直りできないかな」
リリーが口を開こうとして閉じる。それから何度かそれを繰り返してから喋りだした。
「アルトさん、ごめんなさい。ちょっと機嫌が悪かっただけです。ワガママ言ったのは私のほうですから気にしないでください」
リリーがなんだか気まずそうに微笑む。
「リリーありがとう。仲直り出来てよかったよ。僕、リリーのこと大好きだからね。古代遺物も好きだけど、リリーと一緒に冒険もしたいんだ」
「任せてください。いつまでも一緒にアルトさんと一緒に冒険しますよ」
『はぁ〜、若いっていいわねぇ!』とかおばさん達から野次が入って僕達は慌てて距離をとる。そんな僕達を見てエレナがニコニコしている。何か恥ずかしい。
「お二人ってとってもお似合いですね。そんな素敵な関係が羨ましいです!」
「ど、どうも。ありがとう」
「アルトさんとは付き合ってるわけじゃないの。で、でもね、ありがとう」
「それじゃ、父さんのところに案内しますね。ついてきてください」
父さん? 何か気になる言葉があったけど疑問を投げかける前にエレナが先行していた。リリーと顔を見合わせた後にエレナの後をついていった。