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アルト、西の街で遺跡ライセンス取得のコネ探しをする


 森の奥にあった遺跡の調査が完了したので早速、村長宅、ヴァルドビーさん宅に訪れた。

 応接室で事の顛末を説明した。


「なるほど、遺跡の中に溜まっていた瘴気が原因だったのですね」

「はい、そうでした」


 報告内容を少し脚色している。カサンドラのことは伏せている。あったことをまとめて話すよりも順を踏んで説明した方が良いと思ったためだ。

 ヴァルドビーさんが少しこちらを伺うような視線を送ってから躊躇いがちに訊ねてきた。


「森の奥には神様はいらっしゃいましたか?」

「あー、それなんですが……、冷静に受け止めてくださいね」

「どんな結果でも構いません。教えてください」


 ヴァルドビーさんが悲しげに微笑む。こちらの言動で何か察しているのかも知れない。


「ヴァルドビーとやら。さては妾が死んだか化け物になってアルトに討ち取られたとか考えとらんか?」


 腰に差したショートソードがカタカタと震えながら喋りだした。カサンドラだ。

 ヴァルドビーさんがギョッとしながらショートソードを凝視する。腰が引けている。


「ア、アルト殿!」


 ヴァルドビーさんが鯉みたいに口をパクパクしている。説明を求めているのだろう。だから順番よくって言ったのに。


「訳あって遺跡の奥にいた神様、カサンドラは僕の剣に宿りました」


 僕の左隣にカサンドラが出現する。何もないところから現れたせいでヴァルドビーさんが『ウヒャッ!』と驚きの声を漏らしてのけぞる。椅子から転げ落ちそうになる。カサンドラをは悪戯に成功した妖精のように無邪気に笑っている。


「カサンドラさん、悪趣味ですよ!」


 僕から見て右隣りにいるリリーが眉を釣り上げながらカサンドラを窘める。


「冗談が過ぎたかの。すまんって」

「私じゃなくてヴァルドビーさんに言ってください」


 カサンドラは軽く咳払いした後に口を開く。


「驚かせてすまなかったの。妾と交わした約束を守り続けてくれたこと感謝しておる。お陰で良い主に恵まれた」

「いえいえ、滅相ございません。土地神様のお役に立てたなら何よりです。そうですか、アルト殿が主に───主!?」


 ヴァルドビーさんがまたギョッとした表情する。驚かせてばかりで申し訳なく思う。改めてカサンドラと契約を結んだ事情について説明して、またヴァルドビーさんを驚かすことになる。冷静さを取り戻したヴァルドビーさんが寂しそうに微笑む。


「そうですか、土地神様はアルト殿と行かれるのですね」

「うむ、それが妾の使命に沿うことになるじゃろうからな。一段落したら戻るつもりじゃ。だからそれまで留守を任せるぞ」


 ヴァルドビーさんの顔が目に見えて明るくなる。敬愛の笑みがこぼれる。


「分かりました。土産話を楽しみにしております」

「うむ」


 カサンドラが満足げに頷いた。

 こうして次の目的地へと向かうのであった。



ーーーーーーーーー


 草が生えてるだけの何もない荒涼とした平野を僕とリリーは歩いている。

 リリーが右手をおでこまでかざして目を細める。


「あれがレリクヴィアの街ですか」


 久しぶりに見た人工物を見たせいかリリーの声が弾んでいる。僕もリリーにならい目を細める。


「そうだね。あともう少し。今日中にはつきそうだね」


 今目指している場所は王都から見て西にある街、レリクヴィアだ。古代遺跡が集中しており、古代遺跡の探窟、古代遺物を発掘することで栄えてきた街だ。

 僕も期待で胸がふくらむ。レリクヴィアでどんな古代遺物と巡り会えるんだろう。自然と顔が緩んでくる。


「ふふっ、アルトさん顔が緩んでますよ」


 リリーがおかしそうに笑う。


「いや、だって前からレリクヴィアには行ってみたかったんだもん。きっと見たことない古代遺物と巡り会えるよだ。楽しみだね!」

「まぁ、私も楽しみですけど」


 リリーが苦笑を浮かべている。レリクヴィア楽しみじゃないのかな。

 ちょっと気を落とすと左腰に吊るしたショートソード、カサンドラが喋りだした。


「ふふん、妾ほどの高位アーティファクトがはたして眠っておるかな。妾の凄さを再認識するがいい」

「カサンドラの凄さは分かってるよ。そう滅多にお目にかかれないだろうね」

「うむうむ、流石妾の主じゃ」


 そんなわけで古代遺跡を探窟するためにレリクヴィアの冒険者ギルドに向かうのであった。



ーーーーーーーーー


「推薦状が無いならライセンスは発行出来ませんな」


 レリクヴィア到着後に早速冒険者ギルドに向かったら早速出鼻をくじかれた。

 目の前の40代位の男性職員が気の毒そうに微笑む。


「推薦状以外には何か方法はないのですか?」

「冒険者ギルドに3年以上所属して活動実績を積むことですね」

「それ以外に方法は?」

「ないです」


 職員は穏やかではあるが端的に有無を言わせぬように微笑む。あっ、これ反論を許さないやつだ。


「そうですか、分かりました」


 この場で駄々をこねても仕方ないので一旦引き下がる。大人しく冒険者ギルドを後にした。


ーーーーーーーーー


 冒険者ギルドを出て露天で買ったホットドッグをかじりながら街をぶらついている。

 弱ったな。いきなり出鼻をくじかれるとは思ってなかった。ライセンスがなければ探窟はできない。しかもライセンスを発行してくれるような紹介者のツテはない。


「これからどうしますか?」


 リリーがこちらを労るように気遣わしげに訊ねてきた。


「3年は待ってられないから推薦状を発行してくれる人を探そう。心当たりは全くないけどね」


 顔をしかめながら肩をすくめる。

 自分で未発見の遺跡を見つけて探窟するという手もあるにはある。それはこの街では違法だ。古代遺跡は街の財産扱いだからだ。ルール違反してまで探窟はちょっとする気になれない。


「そういうことですね、分かりました。アルトさんなら何とかなりますよ。とりあえず街を巡ってみませんか?」


 やけに自信満々なりリーがホットドッグを食べ終える。カサンドラが僕達で思念を伝えてきた。


「その点においては妾も同感じゃな。アルトにライセンスを発行せぬとは見る目のない奴らじゃ。あと妾もホットドッグ食べたいんじゃが」

「それはどうも。宿につくまでもうちょっと我慢して」


 推薦状を求めて街の散策を開始した。



ーーーーーーーーー


 推薦状のツテを求めて街を散策した結果、幾つか収穫があった。

 古代遺跡と探窟家の街であるレリクヴィアでリリー用に小型ランタンとフック付きのワイヤーを購入した。

 それとカサンドラの遺跡で手に入れた魔石などを売却して手持ちの軍資金を増やした。勿論カサンドラからOKをもらっている。

 装備更新は出来たし当面の生活に余裕は出来たけど推薦状のツテがなく手詰まり状態というのが現状だ。今、ツテを求めて市街地の居住区エリアを散策している。



「ちょうど広場があるね。あそこで休もうか」


 前方を指指す。円形に大きな広場がある。中央に噴水があり、おばさま達が井戸端会議している。断片的に話が聞こえてくる。


「───もう何日も、ろくな水が出てこないのよ」

「昨日の夜はひどかったわ。全く使えなくて───」


 『水』という単語で噴水を見上げる。噴水から出てくる水は薄緑色をしていた。


「こんにちは、何かお困りごとですか?」


 おばさま方が僕達に気付く。リリーを見ても嫌悪感のようなものは示さない。そういう土地柄なのかも知れない。


「噴水が壊れちゃって水が飲めないのよ。水が飲みたいなら他所の区画に言ったほうがいいわよ。エレナちゃんで直せるといいんだけどねぇ」

「なるほど、それは大変ですね」


 噴水から出ている水をすくって匂いを嗅いでみる。藻の匂いというか、土や湿った植物の匂いがする。確かにこのまま飲むのは気が引ける。お腹をくだしそう。

 水源か噴水の自浄機能がおかしいのかな。水源がおかしい場合は僕じゃどうにもならないけど自浄機能の問題なら何とかなるかも知れない。

 噴水の表面に目をこらすと古代文字が刻まれている。魔力を帯びていることが分かる。そのまま魔法コードを解析してゆく。ビンゴ! 自浄機能のコードがおかしくなっている。コードを更新してやると噴水から出てくる水が徐々に透明になり清水が出てくるようになった。


「えっ? まぁすごい!」

「まるで魔法みたいだわ!」


 おばさま方が感嘆の声を上げ、やいのやいのと騒ぎ出す。まぁ、魔法を使ったわけなんですが。


「アルトさんは古代遺物のエキスパートなんです。だからお手の物ですよね?」


 リリーが誇らしげに僕を紹介した。ナチュラルにハードル上げるのはちょっとやめてくれないか。


「たまたまです。たまたま。お役に立ててよかったです」

「たまたまでも、こんなに早く直せるなんて、本当にありがたいわ!」


 いつの間にか周囲に人だかりが出来ている。集まってきた人たちが嬉しそうにバケツで水を汲み出した。そんな中、ガシャガシャと慌ただしく音を立てながら女性が駆けてきた。


「みんな、ごめん! お待たせ。今から噴水修理するからね!」


 丸メガネをした金髪少女が息を切らしてやってきた。

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