古代王国のお姉さんがパーティー加入
「うむ、助けたことあるぞ。村の者は元気にしておるか?」
「ええ、存命です。村長から言葉も託されました。正しき心を持つ者がこの地を訪れる。そのものを我のもとまで案内せよ。これは貴女が言った言葉ですか?」
「その通りじゃ。妾のこと覚えておってくれたんじゃな。そうかそうか」
カサンドラが嬉しそうに目を細めた。
「となると、この指輪はカサンドラさんが渡したものですよね? お返しします」
懐からヴァルドビーさんから預かった指輪を取り出し、カサンドラに渡す。持ち主に返却するのが筋というものだろう。
「おお、かたじけない。感謝する」
カサンドラが大事そうに指輪を受け取ると、指輪が役目を終えたとばかりにスッと消える。カサンドラの姿が少し色濃くなる。
「まさか妾が救われる側になるとはな。村の者達は本当によい者達を連れてきてくれたのぉ」
カサンドラが満足げに何度か頷く。
「あの、水を差すようで申し訳ないですが、僕は魔法コードの改変は出来ますが、アーティファクトの物理的な修復はできませんよ。何かを調達してきて欲しいなら何とかなるかも知れませんが……」
カサンドラが収まっている? 指輪は極めて精緻に作られている。魔法コードの改変を行って魔力漏れを止めることは出来るかも知れないけど、カサンドラを大きく損なう恐れがある。応急処置すら慎重に行う必要がある。
「のう、妾と結ばれてみんか?」
「えっ? それって……」
続きを口にしようとしたところでリリーが割って入った。
「アルトさん駄目です! む、結ばれるのはもっと、じ、時間をかけて行うものです」
リリーが顔を真っ赤にしながらわたわたと叫んだ。
「リリー、急にどうしたの? 確かに時間をかけて行う契約もあるにはあるけど……」
カサンドラがニヤニヤしながら口挟んできた。
「ほほほ、この娘っ子は何を勘違いしておるんじゃろうな。妾はアルトと主従の契約を結びたいだけじゃ。見ての通り、妾の肉体は魔力漏れして動くことすらままならん」
「やっぱりそういうことですよね」
「えっ? えっ?」
リリーが目をシロクロさせて困惑している。
「僕と契約を結ぶことで存在を安定化させたい。そういうことですよね?」
指輪の修復が出来ないなら、僕を依り代として契約を結びたいということなのだろう。そうすればカサンドラは安定化を図れる。
「うむ、その通りじゃ」
カサンドラが満足げに頷く。
リリーは呆然とした後にもう一度顔を赤くしながら顔を俯かせる。何で落ち込んでるのかいまいち分からないままリリーを慰めるが反応がない。それから何かに気付いたようにハッとしながら顔上げた。
「遺跡中、外にまで魔力が漏れる相手と契約するんですよね? 契約って危なくないんですか?」
「そう言われると困るな。妾の口からは絶対安全とは約束できん。それでもアルトなら契約に耐えうる逸材だと妾は信じておるが……」
リリーの指摘でカサンドラの勢いが弱くなり、眉をハの字になる。リリーが更に何か言おうとしたところで僕が割り込んだ。
「わかりました。僕でよければ契約しましょう」
「アルトさんっ!」
リリーが不服そうに声をあげた。
「助けられるなら助けたい。それに古代遺物は大切にしたいんだ」
リリーをまっすぐ見つめて自分の気持ちを伝える。リリーは眉間にシワをよせながら目で訴えかけてくる。それから暫くして視線を外してため息をついた。
「わかりました。私もアルトさんに救われた身です。無理はしないでください」
「任せて。リリーありがとう」
リリーに感謝しながらカサンドラへ振り向くと眉を下げて目を細めながら僕達を見ていた。
「どうやら妾は良い主に巡りあえたようじゃな。準備はよいか?」
「いつでもどうぞ」
カサンドラが僕に自分を強くもつように念押ししたあとに呪文詠唱を始める。すると僕の足元に魔法陣が生じ、赤く輝きだす。
「熱っ!?」
突如、右手の甲に熱した金属を当てられたような痛みが生じ、全身をビクリと硬直させる。
右手の甲を確認すると燃える炎の紋章が刻印されている。うっすらと輝き、遺跡の中に漂う魔力が紋章に流れ込む。
体に異物が入ってくるような感覚に顔をしかめる。石のように手足が動かない。
「アルト、正念場じゃ! 気をしっかりもて!」
「アルトさん負けないで! 頑張ってください!!」
近くにいるはずの二人の声がどこか遠くから聞こえてくる。折角はじめた遺跡巡りがこれで終了なんて嫌だよ。死ぬなんてまっぴらごめんだ。
下腹に力を入れて踏ん張る。食いしばり叫ぶ。
「ワァァァァッッッ!!!」
体内で何かが突き抜けるような感覚がある。すると体から金色の光が溢れ出し室内を満たし、光はしばらくしておさまった。室内を漂っていた魔力が消失していた。
「よう頑張った。契約成功じゃ」
カサンドラが満面の笑みを浮かべている。半透明でなく僕達と同じく生身の姿をしてだ。
赤毛の長身女性が赤と白の布地に金刺繍がされた古代王国調のドレスを着ている。目と眉がキリッとしていて意志の強さが際立っている。
突然の事態に思わず棒立ちしてしまった。
「どうした? 妾に惚れたか?」
ニヤリと笑うカサンドラ。悔しいけどその姿はとても様になっていた。
「いやっ、その……」
『絶世の美女』という言葉が思い浮かぶが、思ったことをのまま言うのも何だか気が引けた。
「アルトさん!」
僕が何を思っていたかお見通しだと言わんばかりにリリーがギロリと睨んできた。
「なんでもない! なんでもないから!!」
よく分からないままホールドアップする。
そんな僕達を見てムチムチボンバーが鈴を転がしたような声で笑う。
「ほほほ、元気そうで何よりじゃ。どこか調子の悪いところはあるかえ?」
「えーと、そうですね───」
カサンドラの助け舟に乗って身体をペタペタと触わりチェックする。リリーはふくれっ面だ。
セルフチェックした限りでは異常はない。カサンドラとの契約の影響だろうか、身体の調子がすこぶるいい。たっぷりと睡眠をとった時のように身体が軽い。
そして身体の軽さよりも気になることがある。右手の甲に浮かび上がっていた炎の紋章がカサンドラの髪と同じ真紅の色で定着している。触っても痛くないし違和感もない。
「問題ないです。これ、なんですかね」
二人に紋章が見えるように右手の甲を差し出す。二人の視線が紋章に集まる。
紋章を見てリリーが訝しむ。その後にカサンドラに視線を送る。視線を向けられたカサンドラは平然としている。むしろ得意げな顔をしながらカサンドラは口を開いた。
「お主と妾の契約が成立した証じゃ。妾の加護で肉体が丈夫になっておる。御利益抜群じゃ」
カサンドラが紋章について解説を行った。要約すると僕の身体能力や魔力が増加したらしい。
あと、カサンドラは依代、憑依先を指輪から僕に移したらしく、今後は僕と一緒に行動する必要があるとのことだ。そのことに対してリリーが強く反発を示した。
「えっ、ついてくるんですか?」
リリーがカサンドラに対して露骨に嫌そうな顔をする。
「勿論じゃ。アルトと契約を結んだのじゃからな。それにしても娘っ子、ちょっと感じ悪くないか?」
「リリーです! アルトさんを危険に晒したんだから当然です。契約が上手くいかなかったらどうするつもりだったんですか?」
「アルトだったら大丈夫じゃと思ったんじゃ。実際大丈夫じゃったわけじゃし、それで勘弁してもらえんかのぅ」
カサンドラが眉をハの字にする。言葉に勢いがない。このまま放置すると二人の関係が悪くなりそうだから仲裁に入った。
「僕は元気だからさ、リリーも機嫌直してくれないか? これでリリーとより確実に遺跡巡り出来るようになったわけだからさ」
仲裁を試みるが、リリーは腕を組んでムスッとしたままだ。それから暫くして、こちらを様子見るように上目遣いで訊ねてきた。
「アルトさんは、カサンドラさんのことをどう思っているんですか?」
「頼もしく思うよ。意思を持つ古代遺物、アーティファクトは珍しいからね。カサンドラも加わってくれれば探窟も捗るだろうね」
「……それだけですか?」
言葉少な下に固い表情でリリーが見つめてくる。
「そうだけど」
リリーが何を考えているのかよく分からないけど、率直に答えた。
リリーは視線を外さずに僕の言葉を咀嚼する。それから暫くして大きな息を吐いた。
「分かりました。アルトさんがいいって言うならもういいです」
「リリー、ありがと」
「二人とも、よろしく頼むぞい」
嬉しそうにカサンドラが笑う。
「カサンドラさん、アルトさんを危険に晒すマネはもう許しませんからね」
リリーが手を腰にあてながら忠告した。
「分かっておる。分かっておる」
カサンドラは本当に分かっているのか、ニコニコと快諾する。まぁ、これ以上危険な目には遭わないだろうからいいけどさ。
リリーも納得してくれたのでカサンドラに確認を続ける。
「カサンドラ、部屋の魔力はなくなってるけど、建物全体で漂っていた魔力もなくなったと考えていいのかな」
「回収済みじゃ。もっとも外に漏出した分は回収出来んかったが」
カサンドラが一瞬残念そうな表情をした。それからよい主を見つけられたから気にしないとフォローをしてくれた。期待に応えられるように努力したいところだ。
「ちなみにだけど、カサンドラはこの地を離れていいの? 守り神やってたんだよね?」
「離れてもええじゃろ。趣味で守り神をやってたんじゃし、たまたまここに逗留してただけじゃ」
「僕達と一緒ってことは遺跡巡りになるけどそれでOK?」
「望むところじゃ。アーティファクトは適切に管理出来る者が管理すべきじゃからな。アルトと一緒におれば妾もそれに貢献出来るじゃろうて」
カサンドラが二カッと笑う。自分の考えに自信があるのか迷いが全くない。
いや、そんな意識高いことをは考えてないと口にしようとしたところで、先にリリーが口を開いた。
「カサンドラさん、いいこと言いますね。アルトさんのやってることって結果的にそうですよね。」
満足げにリリーをコクコクと頷いた。
「まいったな。そんな大袈裟なことは考えてないよ。僕は古代遺物、アーティファクトに触れてられればそれで満足なんだけど」
頬をかくとリリーが穏やかに笑う。
「分かってますよ。アルトさんが好きなことをして人の役に立つ。それって素敵なことじゃないですか?」
「そりゃそうだけど……。そうだね。うん。そう思うよ」
ちょっと気恥ずかしいけど肯定した。するとリリーは満足げに笑う。これ以上ハードルを持ち上げられるのも嫌なので、軽く咳払いした後にカサンドラに話題を振った。
「カサンドラ、よろしくね」
右手を差し出す。
「うむ、任されたのじゃ」
カサンドラが満足げに笑いながら右手を差し出し握手に応じた。それからカサンドラが粒子となり霞む。粒子が僕のショートソードに吸い込まれた。
一連の事象がおさまってからショートソードを引き抜くと、刀身が鋼色から真紅に変化していた。ショートソードにカサンドラと同質の魔力が宿っている。剣としての格が上がっていた。
「では主よ、よろしく頼むぞ」
真紅の剣から、カサンドラの声が発せられる。
「うん、任せて」
剣を鞘に丁寧にしまった後に大きく息を吐いた。
「リリー、お疲れ様。依頼達成だね」
「アルトさんと一緒にいると退屈はなさそうですね」
リリーが安堵や満足感が滲んだ笑顔を浮かべた。




