説教
あー帰りたく無い。
最寄り駅から自宅に向けての帰り道、漕ぐ自転車のペダルが重く感じる。
暦の上では今日から盆になってるけど、うちの会社は明日から盆休みで今日まで仕事だった。
今年もあいつら家に押しかけて来ているんだろうな。
家は兼業農家だけど近隣の農家より数倍広い農地を所有している。
それでも江戸時代に所有していた土地の数百分の1。
江戸時代まで家は豪農でここら辺を領有していた藩の殿様だけで無く、近隣の藩の殿様も挨拶に来るほどだったらしい。
でも明治の文明開化以降時代の流れについていけずズルズルと没落し、戦後の農地改革で止めを刺される。
それが気に入らない豪農時代の御先祖様たちが文句を言う為に、当代の俺を待ち構えているのだ。
だから妻と子供たちは妻の実家に里帰りの名目で避難させている。
だいたい文句を言いたいなら没落後に当主の座に付いた俺で無く、没落させた高祖父以下の爺共に言ってくれよ。
帰って来たく無かったけど家に着いてしまった。
「ただいまー」
「「「待っておったぞ! この馬鹿子孫!」」」
やっぱり来ていやがった。
そして案の定、親父から高祖父の爺共の姿は無い。
これから盆が終わるまで説教漬けの日々が始まるのか…………。