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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:4.5 内調機密指定『徳永文書』
96/97

参考資料 第1頁

【機密性5 部外秘】


 宮城県逢桜町(あさくらまち)において発生した大規模サイバーテロ及び〈特定災害〉の発生による住民連続殺傷事案(俗称〈黄昏の危機トワイライト・クライシス〉)へのわが国の対応並びに当該業務へ従事する執行官の身上調査結果(抜粋)について



* * *



 「VFC逢桜ポラリス」(以下「ポラリス」という)は、当該自治体(以下「逢桜町」という)を拠点とする官民共営のeスポーツプロクラブ。バーチャルサッカーチームとして活動しながら、同時に逢桜町危機管理課〈特定災害〉対策班としての機能を有し、有事の際は関係機関と連携しながら町内の治安維持にあたる。


 ポラリスは、国家安全保障会議(NSC)が〈黄昏の危機〉によって生じた〈特定災害〉に対応する専門職員「執行官」に指定した者の勤務先となっている。運営事務局においては、現時点で局長以下二名がその職務に従事している。



 事務局長、ゼネラルマネージャーとも称される徳永とくなが隼人はやとは、国が支援する地域振興プロジェクトの監督官として逢桜町に派遣された。

 その実体は、この春格上げされた内閣情報調査局(内調)の首席情報調査技官。いわゆる諜報員エージェントである。


 現職の内閣総理大臣・小野瀬おのせ榛名はるなとは旧知の仲らしく、学生時代の同級生であったとみられる。現在はNSCの指揮下にあることから、その首相を直属の上司に持つ。

 前任地は首相官邸。内閣府を経て官房入りし、前首相の命で「あるモノ」を監視する役目に就いていたようだ。



 高野たかの四弦しづるは陸上自衛官。逢桜町ではポラリスの事務員にして、逢桜町の一般行政事務職という立場でもある。建設会社の会長令嬢、射撃の筋が良いという以外に突出した点はない隊員だった。

 しかし、何らかの理由で逢桜町を訪れた際〈五葉紋〉が現れ、町から出られなくなったことを機に、そのまま配置替えされたとみられる。


 前任地は防衛省。当時からデスクワークを軽んじるきらいはあったが、官僚――いわゆる背広組の隼人が上司になってから、それが一層顕著になった模様。

 なお、往々にして母親の威を借るものの、その厳格さと影響力を恐れているようでもある。



 このほかにも、逢桜町から出向いて次長を務める職員がいるが、彼に関しては原作者の少女の父親という以外にまとめるべき事項は無いので割愛とする。



* * *



 ポラリスの運営事務局にはオーナー企業がいる。Jリーグ3部、東海ステラの親会社と同じ企業だ。

 この会社というのが、榛名主導のもと日本政府と秘密保持契約を結び〈特定災害〉への対応を担っているアステラシア社。サイバーセキュリティを専門とする外資系の民間警備会社である。

 なお、同社は旧逢桜実業高校の再編・改築計画を支援したことでも知られ、充実した施設とカリキュラムの整備に貢献している。



 アステラシア社はサイバーセキュリティ関連事業のほか、精巧なヒューマノイドの開発も手がけており、逢桜高校にも一ノ瀬(いちのせ)マキナという少女型の一体を派遣している。

 普段はいち生徒、生徒会副会長として活動し、有事の際はポラリスの指揮下に入るようプログラミングされているようだ。


 当該機はロボット三原則により人間を傷つけることはないが、法令上人間と見なされない〈特定災害〉に対しては、倫理的に逸脱した行動をとる危険性がある。

 この日、傘を手にどのような立ち回りをしたのかは不明だが、戦闘能力は相当程度あるとみてよいだろう。



 また、同社が展開する人材派遣サービスを介して町にやってきた工藤くどう七海ななみも、今年から逢桜高校へ送り込まれている。

 原作者のクラスメイトとして人脈を広げ、学校に溶け込むことには成功した様子。偶然に見せかけた意図的な行動で、関係者となる生徒たちとポラリス事務局を引き合わせた。


 ただ――もうひとつの重要な任務、良平の妹分を演じることには思うところがあるようで、入学初日の夜には隼人につかみかかる場面もあった。

 理不尽な境遇に置かれてきた兄を敬う「設定」ゆえに逆上したものと考えられるが、今後その感情にさらなる増幅がみられるようなら――



* * *



 ……ところで、サッカークラブである以上、ポラリスには本物の選手がいる。

 主力となる十一人のうち九人はバーチャルプレイヤー、三人が生身のサッカー経験者。その後者のうち二人が〈特定災害〉対応の関係者となっている。



 主将を務める佐々木(ささき)シャルル良平(りょうへい)は、現場で避難行動や〈特定災害〉の鎮圧にあたる民間人の執行官だ。サッカー技術の高さはさることながら、整ったビジュアルと明るく天真爛漫(らんまん)なキャラクターでも高い人気を集めている。

 だが、早期にポリアモリーを公表したことでチャラ男の印象が板についてしまい、ひどく乱れて見える交友関係には嫌悪感を示す者も数多い。


 榛名やポラリス運営事務局の態度も不可解だ。過度に恐れる、行動を注視するなど、ただの人間に対するものとしては異様な扱いといえる。

 〈黄昏の危機〉発生以前から、()()とわが国の政府関係者やポラリスの一部メンバーとは少なからず因縁があった。特にその生い立ちを巡る話題は「忌まわしいもの」とされ、誰も触れないことが暗黙の了解とされている。



 なお、副将も間接的にポラリスの活動と関わっているが、現段階では選手かつ事務局にテナントを貸す大家でもあるとの理解で十分と考えられる。



* * *



「……と、これ以上は誰かに見られたらマズいな。肝心なことは俺の記憶の中だけに留めときゃいい。〈Psychic(サイキック)〉、パスワードをかけて保存しろ」



【パスワードロック付きファイルを保存しました】



「あ。そういえばこれ、デフォルトだと作成者名がフルネームで登録されるって徳永が言ってたな……変えるか。これでよし!」



【プロパティを変更しました】

【作成者 Prime Minister】

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