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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:04 動き出した歯車
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Side A - Part 4 団体戦

Phase:04 - Side A "Mio"

「さっすがりょーちん、カッコええわぁ! ウチらも負けてられへんで!』


【おや? 高校生たちのようすが……】


「頭が三つに増えた分、ライフが三倍になっただけのこと。うち一つはりょーちんが仕留めてくれた。俺らであと二セット取りゃいい話よ!」


『ん~、なるほど納得ゲーム理論。皆の衆、出番ですぞ~!』



 なぎなた班の主将っぽい女子生徒に続いて、卓球班が円陣を組む。空中に〈Psychic(サイキック)〉のマルチディスプレイを展開し、メガホンでしゃべってるオタクっぽい男子は何班だろう。



「正直、ずーっと()()()()ばっかで飽きてきてたんだよね。そこに舞い込んだ初陣がこの学内モンスターハントときた」


「最高じゃん。生きててよかった。学校単位で団体戦とか青春アオハルかよ」


「アオハルだよ、りょーちん付きの。ってコトで……防災活動、やるぞ――!」


「おおおおおおお――っ!」



 一番槍は女子ソフトテニス班。りょーちんの攻撃に気を取られたムカデの胴体へ、色とりどりのエフェクトがついた剛速球スマッシュを叩きつけた。

 それを皮切りに、運動班も文化班も男女の別なくひとつになって、各自の得意分野を活かした多彩な攻撃が乱れ飛ぶ。



「上げるぞ、藤本ふじもと! やっちまえ!」


「うおりゃぁああああ!」



 男子バレーボール班のエースが放ったスパイクで、ムカデの真ん中の顔面がべっこりへこむ。のたうち回って暴れる胴体の後ろ、林の中からきらりと光るものがいくつも見えた。



「ほな、ぼちぼち射ちましょか」


「射撃って、確か減点法だったよね。ど真ん中撃ち抜いたらなんて言うの?」


『満点は10 . 10。テン・ポイント・テン、という』


『敵影捕捉。構え――てえッ!』



 無数の風切り音と銃声が響き、矢と弾丸が敵の巨体を地面に縫い留める。

 弓道班とアーチェリー班、ライフル射撃班とサバイバルゲーム同好会。古代と近現代、東洋と西洋、単発と連発の違いはあれど、同じ飛び道具同士の連携による一斉射撃だ。



「はい~。工作班との技術協力で堂々参戦、科学班です~。てい」


「ギいゃアアぁア――!」


挨拶あいさつ代わりに特製火炎瓶かよ。キマってんなマッドサイエンティスト」


「ブツブツ……あの炎を触媒に黒魔術を……あ、オカルト研究同好会です」


『我々、ITエージェント友の会も忘れないでいただきたいですな!』


「そんなのあったの!?」



 葉山先生があんぐりと口を開けてる。鈴歌と工藤さんも呆然としてる。あたしも信じられないよ、逃げの姿勢が命懸けの団体戦へ飛び込む展開に変わるなんて!


 あたしたち生徒と教職員、そしてりょーちん。たった一言で互いの背中を押す相乗効果が生まれ、さっきまであれだけ怖かった敵とも落ち着いて向き合えている。

 白く小さな人影はどうやら自分の圧勝を確信してたらしく、当てが外れたことを受けて悔しげな舌打ちを漏らした。



『許さない……よくも、わたしに傷を……!』


「傷は傷でも致命傷だろ。胸のど真ん中に穴開いてんのに、生きてるなんてすごいなおまえ」


『嫌味のつもり? わたしは本気で怒っているのよ』


「なら、お互いさっさと終わらせようぜ。俺も人を待たせてるんでね」



 人面ムカデは先輩たちに気を取られ、〈エンプレス〉もりょーちんの足止め(プレス)を食ってあたしと小林くんから注意が逸れた。それを見て月代つきしろ先輩と鈴歌、工藤さんがすかさず駆け寄ってくる。



「今のうちだ、小林! 急げ!」


「はい!」


みお、行くぞ」


「離して、鈴歌! みんなが……りょーちんが、まだ!」


「そんなこと言ってる場合じゃないって!」



 同級生の女子二人に引きずられる形で、あたしは大講堂前に通じる低い階段を下った。あとは目の前のガラス戸をくぐってエントランスホールに入れば、ミッションクリアとみなされる。

 いざ扉の前まで連行されると、さっきまでのためらいが嘘のように消え決心がついた。前を行く先輩と小林くんに続き、工藤さん、そして鈴歌が中に入る。

 あたしも最後の一歩を踏み出し、すべてが終わる。誰もがそう思った、まさにその時――



「た、助けて……助けてくれぇぇぇぇッ!」



 背後で、何とも情けない命乞いが聞こえた。葉山先生の声だ。勝手なことして〈エンプレス〉の人質にでも取られたのかな。

 振り返ってみると、まさしくあたしが想像したとおりの光景が目に飛び込んできた。意地の悪い笑みを浮かべている犯人の正体を除いては。



「……大家、さん?」


「おっと、動くなよ。俺が人を刺すところなんざ見たかねえだろ?」



 羽田正一。〝天上の青(セレストブルー)〟のサッカー人生に華を添え、切っても切り離せない恩師で、ライバルで、親友ともいえる存在。

 いつの間にか現れたその人が、果物ナイフを葉山先生の喉元に突きつけ――りょーちんを脅していた。



『良平、あいつは――』


「下手な芝居はやめろ、〈エンプレス〉。ショウは俺を脅すのに人質なんか取らない。交渉材料は自分自身、俺に言うこと聞かせたけりゃ『てめえの前で首切って死んでやる』ぐらい言わなきゃ」


『……やけに再現度の高いイマジナリー羽田だな』


「ヤンデレっていうか、あいつ昔からそういう危なっかしいトコあるんだよ」



 あたしはふと〈五葉紋〉の存在を思い出し、空中に両手で横長の長方形を描いた。〈Psychic(サイキック)〉に念じて、頭の中に描いたイメージを形にする。

 手で囲った範囲が薄い青みのかった半透明の仮想スクリーンに変化し、今の状況を記した文がその上にするすると書き連ねられていく。さっき具現化に成功しておきながら、一切操作できないままいつの間にか消えてた執筆画面だ。



「た……助、けて……っ」


「この姿はあなたの心を読み取り、最も大切な存在をかたどったものよ。誰の手を取るかと思えば、男の人が一番なんて意外だったわ」


「フランス人は家族を大事にする。血のつながりがなくても、リアンを重んじる。その血を引く俺が、兄弟みたいに育った男を大事に想って何がおかしい」


「いいえ? 別に。わたしはおかしいと思わない」



 本物の大家さんを知っていると、その姿で女言葉を話す〈エンプレス〉が不気味に見えて仕方ない。特にりょーちんはこの場の誰よりもつき合い長いから、富士山論争で山梨側につくレベルのNG案件じゃないかな、これ。

 精神衛生上良くないんで、これ以上の追撃はやめてほしい。そんなあたしの想いをよそに、相手が何も言い返さないことで得意げになった女帝は、とうとう最大級の地雷を口にした。



「だけど――世間はどうでしょうね?」

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