Side A-2 / Part 3 空想概念マウントバトル(下)
Phase:03 / Side A-2 "Mio"
【特別ミッション ターゲットを護送せよ!
逢桜高校には〝ミオ〟という名前の生徒がいます。彼女は、この世界を元に戻す鍵を握る人物です。
彼女と敵対し、逆恨みする者もいるようですが、原作者の保護・生存なくしてあなたたち町民に未来はありません。
逢桜高校キャンパス内で〝ミオ〟を捜し出し、避難場所の大講堂に連れてきてください。成功すれば、その時点で生存している全町民の命を保証します】
これか、あたし以外の全町民に配信されたっていう特別ミッション! 人が必死で〝防災結界〟の作動状況調べてるって時に、あたしの名前使って勝手なことしてくれたな。
四人がそれぞれ調査しても、メッセージの内容はたったこれだけ。あの日初めて聞いた磁気嵐警報と同じように、発信者が誰か、信用に値する内容かはわからない。
それでも、みんなの結論は一致していた。たとえ不確かであろうと、あたしの生還がみんなで生き延びることにつながっていたのだから。
「生徒の護送任務ですか。居場所の見当は?」
「ついてる。七海が言うには、あそこの保健室で寝てるって話だ」
「何だと? まさか、先ほど工藤が念話した相手は――」
「ゴメンね、リンちゃん。そういうことなの」
――ぱしゃん。
ふいに聞こえた水音で、みんなは我に返った。初めはかすかに聞こえる程度だったのが、次第に大きくなっていく。
見ると、ガラス張りの廊下に大きく広がった血の池が、スライムのように波打ちうごめいていた。奇怪な生物は男子生徒をくわえて寝転んだまま口をすぼめ、それを啜りながら食事を再開する。
『! 見ろ、アイツ……!』
「驚きです。致命傷を負わされてなお、立ち上がろうというのですか」
化け物の口に流れ込む血で溺れた男子生徒が、手足をバタつかせて最期の抵抗を見せる。徐々に元気を取り戻しつつある〈モートレス〉は、その努力を嘲笑うかのように口元を収縮させた。
「じゅるッ……じゅるじゅる、ズビビッ――」
ペリカンみたいに膨らんだ空間が、シュッと平たくなる。破砕音と汁気をたっぷり含んだ湿っぽい音が廊下に響き、化け物の口からはみ出たヒトの両手足がびくりと跳ねた。
捕食者は頭を上下に振り、喉を鳴らしながらゆっくりと獲物を呑み込んでいく。やがて満足そうに舌を伸ばすと、物足りなさそうに床の食べ残しを舐め取り始めた。
『こレ……で、フだり……』
「これで二人、と言っていますね。ほかにも標的がいるようです」
「そいつはヤバいな。どうするよ、シヅ」
「シャルルとポンコツAIは、特別ミッションとやらに専念を。七海は彼女を連れて大講堂へ向かってください。標的は自分が保護します」
化け物の頭にあたる部分が変形を始めた。肉の芽が盛り上がって目ができ、鼻を形づくり、眉らしき部分に毛が生える。
巨大ムカデの顔がふたつに増えた。友達と合流できたのが嬉しいのか、どちらも少し落ち着かない様子でうぞうぞとうごめいている。
「彼女、ではない。水原鈴歌だ」
『ポンコツAI呼ばわりも撤回を要求する』
「だからさあ、シャルルって呼ぶのやめろって。それとも――」
「おっと、その先は地獄だぜ良ちゃん」
「ごちゃごちゃ言ってないで散りやがりなさいませ!」
高野さんのめちゃくちゃな怒号が飛ぶ。それとほぼ同時に、さらなる巨大化を果たした〈モートレス〉が廊下のガラス戸を突き破り、身の毛もよだつ雄叫びをあげて中庭に侵入した。




