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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:03 空想概念マウントバトル
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Side C - Part 7 宿敵

Phase:03 - Side C "Suzuka"

『なら、そんな世界書き換えてしまいましょう』



 発光体がしゃべった。合成音声という点は同じでも、ヒューマノイド副会長とは質が違う。聞けば心をかき乱し、不安をあおる不協和音だ。



『足りなければ奪う。欲しければ犯し、喰らい、殺す。何を今さらためらうの? 人間さん(あなたたち)は今までずっと、そうやって生きてきたでしょう?』


「まさか、そんな――」



 高野さんの黒い瞳が驚きに見開かれる。工藤はまだ声の正体に結びついていないようだが、ただならぬ状況であることは理解したらしく笑みが消えた。

 半年前に目覚めてから、私はずっとお前を捜していた。みおを利用して三月二十七日を悪夢に変え、逢桜町あさくらまちの町民に暗い影と深い遺恨を残したお前のことを。


 あの日からずっと、私たちはやるせない想いの積み重ねに苦しめられてきた。

 ああ、でも、これでやっと――



「今度は何をする気ですか、〈エンプレス〉!」


『さあ、欲望に身を任せて。あなたも家来けものにおなりなさい』



 やっと、この気持ちをぶつけられる。人類史上ほかに類を見ない、万国共通にして不倶ふぐ戴天たいてんの宿敵。歴史上から速やかに消し去るべき汚点、存在してはいけない致命的なエラー。

 最大級の非難と戦力をもって切除すべき、サイバー空間の悪性腫瘍(しゅよう)に!



「――っ、ダメ! そいつの口車に乗っちゃ!」


「おい、工藤!」


『いい? 〈モートレス〉になったら、わたしの言いつけをきちんと守るのよ。たとえば、そう――』



 私たちの存在に気づいていないか、あえて無視しているのかは分からないが、光の玉はそのまま言葉を続けた。

 ちょうどそのタイミングで薄気味悪い電子音が鳴り、緊張で張り詰めた私たちの背筋を逆撫でする。



 ぴろん、ぴろん。

 ぴろん、ぴろん。



『空に太陽があるうちは変身しない。おわかりいただけたかしら? 日が落ちたのはたった今よ。あなたのお友達はせっかちさんね』


『まさか、こいつが()()なったのは……』


『いいえ? その姿はお友達自身が望んだものよ。わたしに選ばれた人間さんは、自分の想い、やりたいことに合わせて身体を変化させられるの』


『わかんねえ、もう何もかもワケわかんねえよ! なんで俺がこんな目に!』



 この女帝にとって、時間厳守は譲れない秩序のひとつであるらしい。れっきとした理由があるのか、暴君の気まぐれかは不明だが、人間から〈モートレス〉への変化は磁気嵐警報の発令後でなければならない――そんなルールを設け、家来と称する化け物の行動を縛っているようだ。



『あんた……俺を、殺すのか?』


『独りよりも二人、二人よりも三人。せっかく頼もしいお友達がいるんですもの、()()して強くならない手はないんじゃないかしら』


『グル……ゴボッ……おア、あ……』



 発言の意図を悟った男子生徒の「やめてくれ!」という懇願を無視し、〈エンプレス〉はチカチカ点滅し始めた。顔一面に耳を生やし、彼に向けて振りかぶられた怪物の頭部が不気味な音を立てながら肥大していく。



「やだやだやだ、キモいキモいキモい!」


「いいですか、二人とも。太陽が沈めば戦場と化し、気を抜けばもれなく全員地獄行き。それが今の逢桜町です。甘えた考えは捨てなさい」



 ぴしり、と視界にヒビが入った。セーフモードの限界が近い。赤黒い時限爆弾と化した巨大な頭を見据え、高野さんは厳しい忠告を続けた。



「助かりたいなら仲間でも見捨てろ、できないならもろとも死ね。大人に混じって難敵に楯突く以上、貴女あなたたちもそのくらいの覚悟を持つべきです」


『あぁあああああ――!』



 長い廊下に絶叫が響く。金髪ギャルの震える両腕が、後ろから私を抱きすくめたその時――大気を震わせる轟音ごうおんを伴い、〈モートレス〉の頭部が爆散した。

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