Side A - Part 3 連係プレー
Phase:03 - Side A "Mio"
これも、りょーちんの魅力なのかな。空のてっぺん、支配者の青に見つめられると、何でも言うことを聞いてしまいたくなる。
強制されるというよりは、自然と背中を押される感じ。進みたいのにためらっていた、あと一歩を踏み出す勇気をくれる。そんな目だ。
「……はい。よろしくお願いします」
「了解だ。そう来なくちゃな!」
大きな決断をして震える手を、りょーちんがそっと握ってくれた。指先から伝わる鼓動と温もりに勇気をもらい、少しだけ心が軽くなる。
そうだ。原作無視のバッドエンドなんて、作者が許さない。公式設定に沿わない分岐点は、あたし自ら切り捨てる!
「って――りょーちん、脈おっそ! 遅くない? 生きてる!?」
『俗に言うスポーツ心臓だな。日常的に激しい運動をこなすアスリートの中には、安静時で毎分四十五回ほどしか脈を打たない者もいる』
「ん。俺は生きてるし、確かに実在する。ちゃんと触れただろ?」
「そっ……そう、ですよね。びっくりした……」
手を離してからも、二人はあたしを怖がらせまいと雑談に興じてくれた。その一方で、しっかりと警戒も怠らない姿勢が頼もしい。
『そうそう、葉山とかいうのは放っておけ。マスターが駿河弁で軽く脅しておいたから、次に会ったら少しはおとなしくなるはずだ』
「脅してません。軽~く釘を刺しただけです。いい加減にしろよおまえ、ぶん殴るぞってな」
手代木さんはリアルタイムで〝じきたん〟の情報を入手し、周囲にいる〈モートレス〉の位置を推定。同時に〝防災結界〟とりょーちんの健康状態をモニタリングしつつ、目的地の大講堂に通じる最短で安全なルートも検索中だ。
「ちょっ……あれ、そういう意味だったんですか!?」
「あんまり頭に来たんでつい、な。キレたり、興奮したり、カッコつけたい時にうっかり方言やらフランス語やら口走っちゃうクセあんのよ俺」
『なるほど、口説き文句も相手によって使い分けると。チャライカー様は女の扱いも経験豊富であらせられますねえ』
「わ~、サイテ~。こんな時に未成年の前でナイトゲームの話すんなよ、ムッツリドスケベAGI」
『ギリギリを狙うのはゴールラインとオフサイドだけにしてくれませんかね!』
りょーちんはあたしよりも耳がいいらしく、遠くの物音にもすぐに反応し武器を取り回した。初見で拳銃かと思った得物はモデルガンですらなく、体育の時間でおなじみの電子スターティングピストルだ。
分析担当のAIと、データを基に実力を行使する人間。この二人の絶妙な連携プレーによって、保健室の平和は保たれている。
『職業柄、お前の場合手より先に足が出ないか?』
「それはない。プロボクサーのパンチと同じく、俺の脚力は凶器になる。自分は理性あるヒクイドリだって言い聞かせて、まともな生き物は蹴らないって決めてんの」
「相手が〈モートレス〉だったら?」
「先手必勝、一撃必殺、開幕速攻先制攻撃」
『ホントにオフェンスしか頭にないな、このアルティメットチャラ男!』
そうして何度目かのボケとツッコミが一息ついた直後、二人は急に声を潜め真顔になった。ただならぬ空気を感じて、あたしも思わず小声になる。
「――マズいな。来るぞ」
『こちらでも把握した。すぐにここを離れよう』
「えっ? でも、この辺の敵はさっき全部倒したって……」
疑問を口にしかけたところで、あたしはようやく異変に気がついた。地震でもないのに、床が規則的に揺れているような気がする。壁はミシミシ音を立て、窓ガラスもビリビリ鳴っている。
りょーちんはピストルを手近な机の上に置くと、昇降口の方角に青い目を向けた。




