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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:03 空想概念マウントバトル
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Side A - Part 1 王子様の素顔

Phase:03 - Side A "Mio"

「ええええええ――っ!?」


「お約束の反応ありがとう。でも、今はちょ~っち静かにしてもらいたいかな」



 イケメンは右手の人差し指を立て、あざとくウィンクをかましてきた。この人こそ、あたしたちが探してた佐々木シャルル良平選手。愛称〝りょーちん〟だ。

 フランス生まれ、静岡県富士市育ちの二十三歳。五歳の時、中・西日本大震災で被災し、身を寄せた避難所でたまたま救援に来た大家さん――羽田選手と知り合い、サッカーとも運命的な出逢いを果たす。


 すると後日、初心者とは思えない俊足と強烈なミドルシュートを繰り出す姿が被災地の取材動画に映り込んで大バズり。当時は髪がセミロングだったから、美少女にしか見えない可憐なビジュアルも相まって、一躍時の人になった。



「だ、だだ、だって! りょーちんが、生で!」


「はいはい、生ものですよっと。選手生命しょうみきげんはおおむね三十代、ゴールかアシスト数に応じてたい焼きを与えるとより長持ちしま~す」


『小学生かお前は!』



 今のあたしと同じ頃にはプロ入りしてて、当時J1の強豪だった東海ステラの看板選手として、リーグと天皇杯の二冠を達成したんだっけ。

 個人では、日本代表としてもワールドカップやアジア大会、オリンピックなど数々の名だたる国際大会に出場。それらでのベストイレブン選出に加えて、MVPや得点王に輝いたこともあるエースストライカーだ。


 そんな超のつくスター選手が、手の届く距離にいる。しかも、あたし一人を助けるためだけに来てくれるというシチュエーションに、不謹慎ながら特別な非日常感と優越感がこみ上げてきた。



『まったく……お前のせいで静岡県人のイメージがおかしくなったらどうする』


「なんないなんない。伊豆と駿河するがと遠州じゃ文化も言葉も大違い、東西混交カオスな価値観、だけど基本的にみんな陽気で穏やか~なお国柄は、俺一人と話した程度じゃくつがえらないから」


『富士山、サッカー、お茶、うなぎ、工業(特にバイクと模型と楽器と紙)の話になると目の色変えて、食い気味にしゃべり出すのは三国共通だがな』


「で、おまえはその県民性に『チャラくてチョロい』が加わるのを心配してると」


『自覚があるならぜひ改めてもらいたいね』



 ところで、急にあたしたちの会話に割り込んできたの、誰?

 声の主を探して目を凝らすと、りょーちんのそばで宙に浮く七分の一スケールの猫っ毛パーカー男子が目に入った。

 ひょっとして、〈Psychic(サイキック)〉で具現化されたパートナーAGI? リアルにいたらご主人様と接点なさそうなタイプの地味系アバターを連れてるなんて、ちょっと意外。



『いつまでもおちゃらけてると、東海ステラの守護神せんぱいが真っ赤なCBRで浜松から遠路はるばる殺しに来るぞ』


「俺のスズキちゃん、車検と魔か……整備でお留守なんですけど。フルスロットルで爆走するホンダの四気筒リッターマシンを身ひとつでけと仰せですかセナさん」


『これは異なことを。バイクが超音速旅客機コンコルドの逃げ足に追いつけるとでも?』


比喩ひゆ表現なんだよなあ!」



 話が逸れたね。世間一般に知られるりょーちんの人柄は、いつも明るく気配り上手、ピッチを出ればノーサイド。声を荒らげるようなことはめったになく、誰にでも好意的かつ穏やかに接する。

 欧米由来の目立つ容姿とフレンドリーさ、日本人の礼儀正しさと寛容さを兼ね備え、敵のサポーターからも愛される選手なんてそういない。


 以上、小林くんの熱心な布教によって刷り込まれた救援者のプロフィールを頭の中で再生しながら、あたしは改めてりょーちんの様子をうかがった。

 会う前の印象は完全無欠、金髪碧眼(へきがん)のスーパーハイスペックアルティメットイケメン。同じく「天才」といわれる人間を幼なじみに持つ者として、何かと比べられがちな大家さんには同情を禁じ得ない。



「あのさ、最初に断っとくけど」


「は、はいっ」


「俺、十八歳未満には手ぇ出さないから。安心して頼ってくれていいのよ?」



 で、実際目の前にしたのはこんな感じ。想像よりずっと明るく、まぶしく、きらびやかなれ物に――それらすべてを台無しにする、俗っぽい人格がインストールされていた。

 ……マジ? これが王子様の素顔? ユニフォーム脱いだらただのチャラ男、おもしれーけどやべー男じゃん!



『失礼、申し遅れたな。俺は良平の専属マネージャー、手代木てしろぎ瀬名せな。見てのとおりパートナーAGIでもある』


「よ、よろしくお願いします」


『マスターの素行は俺が随時見張っている。今はいかにして生き延びるか、それだけを考えてほしい』


「あ――はい。わかり……ました」


「マネージャーなのに俺のこと信用してないのかよ、おまえ」


『逆にサッカー以外で信用できる要素あるか?』



 軽いショックで放心状態になってたところへ、第三者の声が強引に自己紹介をねじ込んできた。それにより、あたしの意識はふっと現実へ連れ戻される。

 そっか、付き人(マネージャー)さんか! ちょっとぶっきらぼうだけど、コンコルドよりは話通じる常識人っぽいな。よかった。



『さっそくだが、今の状況を整理したい。ここは宮城県立逢桜(あさくら)高校の保健室、校舎直結の付属施設では最南端に位置する』


「そうなんですか」


『来る時見かけたものはマスターが観測範囲外に蹴り飛ばしたから、現在階下を含めた半径五メートル以内に〈モートレス〉の生体反応はない』


「全部俺のせいにするのやめてね? おまえもアシストしたからね?」



 手代木さんと名乗るりょーちんのパートナーAGIは、空中をすいっと滑るように移動してあたしの正面に立った。とびきりのイケメンではないけど、人並みに整った風貌だ。

 信用に足る人物かと問われれば、見た目はどこも怪しくない。でも――この人は、人間じゃない。あたしたちから日常を奪った犯人と同じモノだ。悪意がなくても、心のどこかで疑ってしまっている。



『改めて確認するが、お前が原作者の〝ミオ〟だな?』



 わかってるよ。風評被害なのは百も承知、AIがみんな人間の敵に回ったワケじゃない。だけど、協力することにはどうしても抵抗を覚えてしまう。

 不安に思っていると、あたしと向かい合わせに立つ彼のご主人様と目が合った。言葉はなくとも、澄んだ瞳の輝きが背中を押してくれる。

 大丈夫だ、俺を信じろ。俺とこいつに任せてくれ、と。



「――はい。あたしが、川岸……みおです」


『よし。これで第一段階はクリアだな』


「第一段階?」


「説明はあとで。その前に言っときたいことがある」



 手代木さんがりょーちんのそばに戻る。二人はあたしを見つめ、それぞれ得意げなキメ顔と屈託のない笑顔を見せた。

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