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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:02 ガール・ミーツ・ストライカー
43/97

Side C - Part 6 訊きたかったこと

Phase:02 - Side C "Kimitaka"

「いいよ、同担どうたんが増えるのは大歓迎だ。一緒にりょーちんを推そう」


「! それじゃあ……」


「でも、その前にひとつ確認させてくれ」



 なのに……出会った頃からずっと最推しのすごさを吹き込んでるってのに、この二人ときたらいくら打っても響かないんだ!

 りょーちんが大活躍した翌日も、クラスのバカ騒ぎなんてどこ吹く風。へ~、すごいね~。一人でゴール複数決めたんだっけ? 試合結果ならダイジェスト動画で見て知ってるよ~って感じでさ。



(それが、高校に入った途端手のひら返し。りょーちんに会いたいと言い出した。何か裏があるとしか思えない。はいそうですか、なんて言えるかよ)



 それにオレは、みんながきたくても訊けずにいる、もう一つのうわさの真偽もはっきりさせたい。裏であれこれ言われてる本人の口から、本当のことを聞きたいんだ。



「川岸――ここはマジで、お前の書いた小説の世界なのか?」


「え……っ」



 相手の顔がこわばる。水原が横から「おい、お前!」と怒鳴りつけてきたが、全世界同時生中継でそのネタバレかましたの誰だっけかなあ。



「あ、オレは別に責めてないぞ。ゲームみたいなことが現実に起きたのが信じられなくて、一年経ってもまだ夢の中にいるような感覚でさ。だから訊いた」


「……正直に答えたら、どうする?」


「先生に言う? 警察に突き出す? しねーよそんなこと、指名手配犯じゃあるまいし」



 これは本心だ。仮に答えがイエスでも、言いふらすつもりはない。

 だってお前、オレが俊英受かったって伝えた時、泣いて喜んでくれたじゃん。さすがだね、って。ユニもらったら着て見せてよ、って言ったじゃん。

 一緒に「りょーちんナンバーワン!」コールをするほど染まらなくても、オレの「好き」を尊重してくれてたじゃんか。


 オレには、あの言葉が嘘だったとは思えない。言葉の持つ力を誰よりも知るヤツが、人を傷つけ殺すために小説を書くはずない。

 川岸が戦犯で、すべての元凶だってんなら、それこそ誰かの妄想だ!



「あれから一年経った。もう一年経ったんだよ。なのに、状況は少しも良くならない。何も変わらない、変えられない大人たちに、本当のことなんて話せるか?」


「……小林くん」


「ここが現実か、妄想かなんてどうでもいい。オレは川岸の〝好き〟をバカにして、オレの人生もねじ曲げたヤツらを一生許さない。それだけだ」



 身体に〈五葉紋〉が浮き出たら、町の外には出られない――。オレたちを無視して勝手に決められたそのルールが進路を閉ざし、多くの人の希望を殺した。

 誰がそんなふざけた決まりを作った? 十八歳未満には選挙権がないから、反対を表明してもどうせ口だけで終わるって思ってんのか? 


 これでわかっただろ、悪いのは川岸じゃない。全部、全部大人が悪いんだ。自分勝手なアイツらに、誰が友達を売り渡すもんか!



「つーわけで、訊いといてアレだけどやっぱ答えなくていいや!」


「何だそのオチは。ふざけているのか?」


「この手の小説は、過酷な世界を生き抜きながら真相を暴いてくのがミソじゃん。謎解きはサバイバルの合間に、ってな」


あきれた。リアルの人生もおとぎ話感覚で生きているとは」


「そういう水原こそ人生何周目?」



 と、ここで予鈴のチャイムが鳴り、オレたちは急いで宿直室を出た。体感よりも長く話し込んじゃってたみたいだな。

 先に外へ出た二人に続いてカバンを背負い直した時、きらめくアクリルプレートに目が留まる。ひとつは大きく目立つ丸型。星をいただき冠雪した富士山をお茶の枝が囲む青・白・緑の図柄は、言わずと知れた東海ステラのエンブレムだ。


 宮城出身としては、仙台という立派なクラブでプレーしたい気持ちも当然ある。もう一度チャンスをもらえるなら、オレは地元に恩返しがしたい。



(ただ……それ以上に、オレはりょーちんとサッカーがしたいんだ。同じ目線で、同じ景色を見て、喜びも悔しさも分かち合いたい)



 そしていつか、直接会って伝えたい。

 人生で一番大きな目標をくれたあなたへの愛と感謝を、ボールに込めて。



「……そうだな。いつか()()、会えたらいいな」



 もう一つ、星――七夕たなばたつながりで水色の短冊を模したほうのプレートも、オレのお気に入りだ。スタイリッシュな斜体ローマ字でりょーちんの選手登録名と背番号、シュート直前で左脚を振りかぶったシルエットがあしらわれている。

 クラブを離れた今はもう売ってないけど、どっちも公式グッズだったものだ。心が折れかけた時や大事な試合の前に力をくれる、とっておきのお守り。


 うん。やっぱオレも手伝っちゃおうかな、りょーちん捜し!



「急ごう、小林くん!」


「放っておけ。遅れたら奴の自己責任だ」


「おっと、悪い! 今行く!」



 部屋の外から、先に出たふたりの呼ぶ声が聞こえる。オレは後ろ手で扉を閉め、気持ち新たに駆け出した。

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