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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:02 ガール・ミーツ・ストライカー
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Side C - Part 4 内緒の話

Phase:02 - Side C "Kimitaka"

 ショーケース前から左手に伸びる廊下を進むと、突き当たりに職員室が見えた。ここは事務職員と警備員だけを集めた部屋で、先生方のいる教員室は別の場所にあるみたいだ。

 その手前で右折した先には、ARの案内によれば保健室と……校長先生の部屋がある。二人とも、まさか入学式前に何かやらかす気じゃないだろうな。



「よし。ここならいいだろう」


「おい、待てよ水原! 一体何を――うわっと!?」



 天才は呼びかけを無視してずんずん歩き続け、向かって右手の一番手前に見えた部屋の引き戸をつかむと、ノックもなしに扉を開けた。



「声が大きいぞ大林。みお、中に入って戸を閉めろ」


「うっ、うん」


「だから小林だって!」



 オレと川岸も、水原に引っ張り込まれる形で中に入る。ガラガラ、と騒がしい音を立てて木製のドアが閉まった。

 その内側には、少し黄ばんだコピー用紙で【ちゃんと確認しましたか? 戸締まり 火の元 防災結界】と標語じみた内容の張り紙がしてある。



「……ここは?」


「宿直室だ。今は多くの学校で初めから設けないか、倉庫や別の部屋に改装されるなどして廃止の動きがある。それを残すということは、何を意味すると思う?」


「今も使われてる、ってことだよね。確かにこの部屋、すっごい生活感ある」


「そう。人の気配を感じるということは、現役で使われていることの証左だ。であれば、その性質上生徒の来訪も想定しているはず。入室しても問題はない」


「だとしても、せめてノックはしろよ。奥のブースに誰かいるかもしれないだろ」



 オレたちは改めて室内を見回した。入ってすぐ目の前には、入口に対して直角の向きに置かれたガラス天板のローテーブルとデカめのソファー。その後ろには折りたたみ式の長机二台とパイプ椅子いすが向かい合わせに四脚並び、ミーティングスペースのようになっている。

 さらに後ろ、ブラインドのついた窓際には電話機が載った事務机。移動式の電子黒板や無地の段ボール箱、それがいっぱい積まれた鉄製のラック、壁掛け式の薄型大画面ディスプレイにも特に変わったところはない。



「奥?」


「この部屋はオレたちから見て左側、隣の保健室に向けて長く伸びてる。その一番奥、隅っこのエリアが高い壁で個室に仕切られてるだろ?」


「あ、ホントだ。よく気がついたね、小林くん」


「段ボール箱の一部に【災害用備蓄】と書かれているぞ。もし、これらの中身が全部防災用品なら、三人でも数週間は寝泊まりできそうだ」



 ――といった調子で一通り観察してみたが、三人とも部屋の主や使用状況につながる有力な情報は得られなかった。



「お前は私たち以外に人がいる可能性を危惧したな。だが、誰かがいればすぐさま奥から出てきて『勝手に入るな!』と怒られるはずだ。それがないなら、無人と判断するのが自然だと思わないか?」


「あのなあ……」


「とにかく、これで目的は達した。あとは心して澪の話を聞け」



 水原は相方と目を合わせ、静かにうなずいた。ヤツの視線に援護をもらい、川岸がオレに向き直る。

 自慢じゃないけど、こういうシチュエーションは経験済みだ。小学校から中学校にかけて運動のできるヤツがもてはやされた時期、あったろ? あのキラキラパワーによって、オレはこの手のイベントでまあまあの場数を踏まされた。


 ……なんだよその目、ホントに「まあまあ」だってば!



「小林くん」


「な、何だよ。そんな改まって」



 マジで? やっぱそういうこと? しかも水原が立ち会うのかよ……。

 オレにとって川岸は、サッカー抜きでつき合える友達だ。ヘンに意識することもなく、会ったら話す程度でちょうど良くて、それ以上でもそれ以下でもない。



「突然こんなこと言われても、困ると思うけど」



 うん、困るよ。マジで困る。だって、どう反応して何と言おうがお前に泣かれ、水原に殺されるのほぼ確定じゃん。

 だったら、後腐れなくはっきり断ろう。友達ではいられなくなるかもしれないけど、そのほうがオレたち三人のためだ。えーい、もうどうにでもなれ――!



「お願い、一緒にりょーちんを捜して!」


「ごめん川岸、気持ちだけもらっとく!」



 沈黙。なんだこれ、めちゃくちゃ気まずい。しかも話が噛み合ってない。

 もしかしてオレ、なんか勘違いしてた?



「えっ、と――こっちこそごめん。何の話?」


「……あれ?」



 川岸にとってもオレの反応は予想外だったらしく、オレに困ってるとも引いてるともつかない顔を向けている。隣で見ていた水原は頭を抱え、バカデカいため息をつきやがった。



「あ~、その……川岸さん。オレのことどう思ってます?」


「サッカー選手として、ってこと? 日本代表入りの経験はなくとも、中学生の全国大会で県選抜チームの10番張った人が下手なはずはないと思うよ」


「そ、そっか。そうだよなー、ははははは! そんで? お前ら、りょーちんに会って何すんの?」


「そう構えるな。別に取って喰いはしない」


「ウソつけ、取って喰うのと同レベルのロクでもないことする気だろ水原おまえ!」


「何の話してんの二人とも!?」



 天才が横から口を挟む。こいつ、いつも最悪のタイミングで邪魔してくるな! オレのこと嫌ってるんだか、ただの構ってちゃんなんだかどっちかにしろよ。


 でも、コイツの言動以上に理解不能な話の本題はここからだった。

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