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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:02 ガール・ミーツ・ストライカー
39/97

Side C - Part 2 決意の証

Phase:02 - Side C "Kimitaka"

「小林くん?」



 ――っ!? オレ、今……何か、ヘンなこと考えてた?

 あっぶねー、全然まわり見えてなかった。川岸が正しい名前で話しかけてくれなかったらどうなってたか……。

 今さら泣いてもわめいても、もう決まったことだ。うだうだ考えるのはやめにして、いつもどおりのオレでいこうぜ。



「何? 川岸、オレの顔になんかついてる?」


「髪、染めたんだね。スポーツ推薦なのに大丈夫なの?」


「だーいじょぶ、だいじょぶ。親と先生、先輩たちからも入学前に許可取ってあるから。校舎の壁と同じレンガ色、テラコッタっていうんだってさ」



 いや、ほんとマジで大丈夫なのよ。心配してくれるのはありがたいけどさー。

 そりゃまあ、連絡もらった時はめっちゃ落ち込んだよ。俊英には行けない、プロからも声かからない。この先いくら頑張っても無理ってんなら、サッカー自体やめちまおうかとまで思い詰めた。


 でもさ、オレ、小学生の妹にこの話したら鼻で笑われたんだ。信じられるか? 兄貴がくっそ落ち込んでるのに「バカじゃねえのお前」って顔しやがったんだぜ。



『お前に何がわかるんだよ。一生懸命頑張ってきた人の気持ちも知らないで、わかったような口利くな!』


『分かるよ。私は小五、四年後には高校受験。お兄ちゃんと同じ立場になる。それまでにこの町が元どおりにならなかったら、私も同じことを言う』


『お前はあと四年あるだろ。オレには今しかない、もう終わりなんだよ!』



 普段は兄妹ゲンカなんてしないんだけど、あの日のオレは気が立ってた。人生終わっちまったような気がして、誰にその怒りをぶつけたらいいかわからなくて。

 だけど、妹は……来華らいかは、読んでた本を閉じるとオレにこう言った。



『――いずれ〝宮城のりょーちん〟と呼ばれることになる男をらなかったこと、後悔するなよ』


『! おま、え……』


『りょーちんなら、そう言って練習に行く。お兄ちゃんは、どうする?』



 すげーよな。あれ聞いた時、目が覚めたような気がしてさ。すぐに進路指導の先生んトコ行って、ギリギリで逢桜高校アサコーに推薦入試の願書出して、ほぼぶっつけ本番で受験して……

 この髪色は、決意の証。女々しくめそめそしてた雑魚メンタルのオレは、黒のスポーツ刈りと一緒に置いてきた。


 オレは、もう迷わないって決めたんだ。誰よりも強く、自分の可能性を信じて生きる。あきらめなければ、きっと、必ず――どんな夢でも、叶うと信じて。



「ここの校風は、見た目と成績を結びつけない政教分離。明るく染めようが伸ばそうがノーファウルって聞いたから、思い切って長めにしてみた。どうかな」


「そうなんだ、よく似合ってるよ。カチューシャで前髪アップにしたら、雰囲気的にもサッカー選手っぽい感じ」


「うっそ、マジ!? やった、それ最っ高の褒め言葉だわ!」



 水原にドヤ顔を向けると、あっちは親指を下に向けて「くたばれ」のハンドサインで応じる。やっぱオレ、こいつとは一生和解できる気しないわ。

 唯一の功績は、川岸と知り合う機会をくれたことだ。あまり目立たず控えめなフツーの女子かと思いきや、これがなかなか面白い。

 マンガにアニメ、ゲームもそこそこ好きだけど、ジメジメしてないオープンオタク。趣味は自作の小説をネットに投稿すること、だそうだ。


 すごくない? 川岸は一次創作で自給自足、つまり自分で理想の「最推し」を生み出し、育てて、推せるんだぜ! 現実や二次創作では許されない、あんなことやこんなことも原作者特権で思いのままだ。

 推し活にかける熱意ならオレも負けないけど、自給自足の地産地消はさすがに無理だ。ガチで尊敬するよ、川岸先生。



「それより、今日から一年間同じクラスだな。よろしく川岸!」


「ふえっ!? う、うん、よろしく……!」



 右手を差し出し、握手を求める。川岸はちょっと緊張してるのか、顔を赤くしながら応じてくれた。

 その背後から呪い殺さんばかりに突き刺す水原の視線が痛い、そして怖い。PKでキッカー頼まれた時の(外せ)(外したら殺す)って空気よりこえーよ。



みおに触るな、エースチャライカー。殺されたいか?」


「誰がチャライカーだ! オレはエースストライカーの、こ・ば・や・し!」



 オレたちの掛け合いを見て川岸が吹き出し、こっちもつられて笑い声をあげる。水原もほんの少し、ほんの少しだけ口の端を吊り上げていた。

 大丈夫、ここは安全だ。何があっても大丈夫――。気を抜くとこみ上げてくる霧のような不安を振り払い、オレたちは昇降口から校舎内へ足を踏み入れた。

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