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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:02 ガール・ミーツ・ストライカー
31/97

Side A - Part 7 コンコルドが来るぞ!

Phase:02 - Side A "Mio"

『そして、キャプテンはやはりこの人! 国内プロスポーツ界初の〝アルティメット枠〟指定を受けた、J3・東海ステラの絶対的エースにして不動の11番、といえば?』


『サッカー男子日本代表では、背番号10としても大活躍! 〝りょーちん〟の愛称でお馴染み、フォワードの佐々木シャルル良平選手です!』



 木製の台が鈴歌の手を離れ、フローリングの上にルナールの飲み残しをぶちまける。あたしも思わずきったないうめき声をあげてお茶を吹き出し、き込んでしまった。



「よし、報道出た。公式発表流れた! これで僕も言いふらせる。みんな――! ()()りょーちんが逢桜あさくらに来るぞイヤッホォ――ゥ!」


「うえっ、けほ……なんでそういうこと黙ってたのお父さん!?」


「守秘義務(以下略)」


「お父さんのアホ――!」



 待って、待って待って。理解が追いつかない。この町に、お父さんの関わってるクラブにJリーグから誰がお越しになるって?

 りょーちんといえば、あたしみたいにサッカー知らない勢でも写真を見るか愛称を聞けば「あ~!」となるような、たぶん日本一有名な選手だ。

 穏やかでのんびり屋気質といわれる静岡人の県民性にたがわず、穏和かつ陽気で笑顔が絶えない。居るだけでまわりを明るく照らすその人柄は、太陽を擬人化したようだって言われることもある。


 それから――無類のたい焼きオタク。自分で焼いて食べるのはもちろん、あの形のグッズ全般大好きな筋金入りのマニアだって話だ。



『彼、海外移籍の前に別次元行っちゃったの!?』


『現在、佐々木選手は国内外の公式戦において厳しい出場制限を課されており、前後半のどちらかとアディショナルタイムを超える起用は認められていません。移籍の打診も本人が突っぱねたり、受け入れ体制の折り合いがつかなかったりして、幾度となく破談になっています』


『そのため、リーグ戦などの順位に影響しない記念試合や、中部・西日本大震災のチャリティーマッチなどを除いてフル出場は見たくとも見られないものでしたが……』


『現実ではりょーちんがみんなに合わせなきゃいけないけど、バーチャルサッカ―はその逆。みんなが彼に合わせるのね』


『はい。MRでならいくらでも暴れてもらって構わない、ということのようです』


『誰よ、こんなすごい解決策考えたの! みんな観るしかないじゃない!』



 そんなスター選手が、【昨年3月 静岡・富士アステラシアフィールド】のテロップが表示された仮想ディスプレイの中を風のように駆け抜ける。

 金と黒の髪をなびかせ、小柄ながら〝和製コンコルド〟とも言われる俊足と抜群の存在感を誇る主人公が。



『ところで、佐々木選手を語るうえで絶対に外せないのが、先ほどご紹介した羽田選手。幼い頃に出会ったふたりは、サッカーを通じてかれ合うようにコンビを組み、ともに才能を開花させたことでも知られています』


『盟友だった一方、高校では宿敵としてぶつかり合ったストライカー同士。新チームを牽引けんいんするふたりがこれからどんな関係を築いていくのか、今後のポラリスから目が離せません』



 軽快なチャイムを挟んで、別のスポーツに話題が移る。水をこぼしたことを忘れるほどワイドショーの解説に聞き入っていた鈴歌は、ハッと我に返ると手際よく後始末を始めた。

 濡れた靴下はあたしが貸した予備に取り替え、スラックスのすそはドライヤーの温風を当てて乾かす。ルナールの食器もきれいに洗って、専用の乾燥棚に置く。


 それから、あたしの腕をつかんで一言「みお、行くぞ」と言った。



「待ってよ鈴歌、あたしまだ歯ぁ磨いてないってば!」


「いいからさっさと身支度を済ませろ」



 反論する暇さえ与えられず、あたしは無理やり洗面所に押し込まれた。お父さんはそんな様子を微笑ましげに眺め「落ち着きなよ二人とも。興奮するのは分かるけど、まずは学生の本分をまっとうしてきなさい」などとのたまう。


 無理だよお父さん。鈴歌は時間も学校も、高校デビューさえどうでもよくなってる。今すぐ足を使ってりょーちんを捜し回るつもりなんだ!



「アオーン!【ボクも連れてけー!】」


「行ってらっしゃ~い」


「なーんで涼しい顔するかな、うちの男どもはぁぁぁぁぁ!」



 物語の始まりは、いつだって唐突だ。天才のそばには、いつもあたしの姿がある。旅は道連れ世は情け、拒否権なんてものはない。

 四月一日、午前七時四十二分。真新しい制服に身を包んだあたしたちは、新たなステージに向けて最初の一歩を踏み出した。

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