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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:01 サクラサク
21/97

Side B-2 / Part 5 共同戦線

Phase:01 / Side B-2 "Charles-Ryohei"

「〈Psychic(サイキック)〉に異常な信号を流し、ヒトの認識を狂わせる。思考を侵された者は理性を失い、無差別に人を殺してまわる」


「え?」


「AIが現実世界へ干渉することを可能にした、人類史上初にして最悪の人災――。やはり澪の書いたとおりだ」



 まわりが大混乱に陥る中、女子中学生は落ち着いた様子でそう話した。

 あ。よく考えたらこのコ、先の展開知ってんのか。原作を改変されない限り、ここで死なないってわかってるから「かかってこいやオラァ」って態度してんだ。

 あれこれ想像を膨らませていると、そのダイヤモンドメンタル女子が急に俺のほうを向いて「おい」と偉そうに話しかけてきた。



「単刀直入に言う。たい焼き男、私と手を組め」



 予想外の一言に、俺は思わず目をいた。マジ? すっげー警戒されてたっぽいのに、いきなり協力プレーの打診だって?

 個人的には女のコの頼みって時点で断る気ないんだけど、すんなりオッケーしたらなんか、こう……アレだろ。ここはちょいとカッコつけさせてもらいますよ。



「だーれがたい焼き男だ! 〝りょーちん〟とか〝佐々木さん〟とか、ほかに色々呼び方あるだろ」


「不満か?」


「ああ、不満だね。百歩譲ってタメ口は許すが、呼び名がダサい。俺たちはおまえを護り、おまえは俺たちを作者に引き合わせる。ついでにあだ名も改めるなら、協力してやってもいい」


「いいだろう。約束は守る」


「よし、契約成立! それじゃあさっそく、俺のことはなんて?」


「チャラ男のストライカー、略してチャライカー。異論は?」


「異論しかないんでたい焼き男でいいです」



 新たな仲間に握手を拒否られた直後、新たな通知が〈Psychic〉に届いた。細長い画面には【チュートリアル 橋の上に現れた〈モートレス〉を倒せ!】とある。

 モート……何? おいおい、なんかまた聞き慣れない用語出てきたぞ。倒せっていうからには、敵の名前か何かだろうけど。



「私も賛成だ。一対一ではなく、頭数と集合知で立ち向かおう」


「サムライがそうおっしゃるのでしたら、自分も協力します。ところで誰か、このメッセージを解読できる方は?」


『まずは表題を〝任務〟と読み替えろちんちくりん』


「今度、人の身長に言及したらころしますよ」



 〈Psychic〉の地図上に表示された赤い点が、ピコピコと波紋を放つ。位置は〈エンプレス〉からも少し離れたところ、地面に転がる元ディレクターのおっさんだ。

 点滅が始まると同時に、肉団子は吹きこぼれる鍋みたいな音を立てて膨らみ始め、正常なヒトのそれとはあまりにもかけ離れた姿になった。もうどこが顔で、胴体で、両手両足か区別がつかない。



『マスター、これは人類代表として臨む大会のテストマッチだ。消化試合だからといって、相手につけ入る隙を与えては今後の戦いが厳しくなるぞ』


「わかってるよ。おまえこそ非常事態宣言出しといて、何サボってんの?」


『司令塔が動揺しているせいか、攻撃が弱まってな。優秀なパートナーAGIたる俺にかかれば、解説と助言のサポートぐらいはできるぞ。どうする?』


「そうしてもらえるとありがたいね、敏腕マネージャーさん」


『フッ……よろしい。まずは俺たちの前にいるリポーターについてだ。あの女の()()は〈エンプレス〉。自分で識別用個体名と言っていたから、その名称は固有のもの。人間でいう名前にあたる』



 マネージャーの話を聞いて、俺はあることに気がついた。地形図上で、敵を示す表示は赤い点。橋の上には二つあるけど、波紋のようなものを放っているのは片方だけだ。

 指示の内容を書いてあるとおりに読み解くなら、これを流した人物は女帝サマこと〈エンプレス〉の扱いに一切言及していない。

 消去法でいくと、元ディレクターの肉団子が〈モートレス〉って呼ばれてることになる。倒さなくちゃいけないのはこっちってことか。



「それってつまり、おっさんを倒せばクリアな感じ?」


『ご名答。この指示内容は【橋の上にいる敵を殺せ。ただし〈女帝〉は無視してもよい】という意味になる』



 あのままでは苦しみが長引くだけだ、早く楽にしてやってくれ。俺たちの会話を聞いた〝神〟の遣いは、顔をしかめてそうつぶやいた。



「そうだね。では、あとは私が――」


「もちろん主役はお譲りしますよ、引き立て役(アシスト)も仕事のうちですから。ただし、俺にもチャンスが来たら遠慮しないんでそのつもりで」


「良平君、しかしだな……」


「彼だけではありませんよ、サムライ。協力し合うのでしょう? 未知の生命体の相手は経験がありませんが、自分はこの中で最も有事慣れしている身。何かしらお役に立てるはずです」


『あの~……』



 じゃじゃ馬の言葉にみんながうなずいていると、申し訳なさそうに声だけのリポーターが話に入ってきた。落ち着いたのか、また標準語に戻っている。



『え~っと……これ、AIによる自動翻訳付きで、全世界同時生中継されちゃってるんですけど。大丈夫ですか?』


「『望むところだ(です)!』」



 チームが一丸いちがんになった瞬間ほど、気持ちいいものはない。俺たち四人と一体は、仲間として運命をともにするって決めたんだ。

 みんな、人生を投げ打ってここにいる。この町を、世界を救おうとしている。こんなスケールのデカい大舞台、目立ちたがり屋なら出るっきゃないだろ!



(それに、あいつの好きにさせたらサッカーどころじゃなくなるし、この地球上からたい焼きとあのフォルムした物体が根絶やしにされるかもしれない。俺の目の青いうちはそんな暴挙許さないぞ)


「――という顔をしていますね」


「思考がすぐ顔に出るのはいただけないな。今日のたい焼き一匹放流」


「勝手に減給しないでくれませんかね、そこの凸凹デコボココンビ!」



 ピンク色のブヨブヨした表皮を突き破り、巨大な球状になったディレクターからムキムキの腕が生えてきた。先端は握りこぶしじゃなく、極端に長く鋭い爪になってる。

 なんかに似てると思ったら……ほら、アレだよ。ギャルの派手なネイルとか、やたら長いクリップ状の髪留め。あれもコンコルドっていうらしいな。



『諸悪の根源はリポーターに取りいたAIであり、原作者に罪はない。俺とも一切関係ない。混同しないよう注意されたし』


「もちろんだとも。ミオ君、といったか? 会った時に、読み物としては面白かったとお伝えしよう」


()()()じゃなければもっと楽しめたけどな」


『それに関しては私も同感ですね!』



 黙って俺たちの様子を見ていた〈エンプレス〉が「けなくていいの?」と邪悪に微笑む。気づけば、あいつの手下がナイフみたいな腕を振りかぶっていた。

 気づいた時には遅かった。あいつの手下〈モートレス〉は、ナイフみたいな腕を振りかぶり――

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