表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清らかな風を舞う精霊達の庭園  作者: 浅葱
プロローグ 精霊達の麗しき翼
4/11

第四話 父の残り香を探して 

…あんたら…そんな所にいたら風邪引くよ…中に入りなさい…


(駿兄さんに支えられていると、私達に声をかけて来る一人のお年寄りのお婆様が割烹着姿で、店の入口付近から私達に声をかけて来てくれました。凛さんに支えられながら、母は店内に入って行きます。景さんは車を近くに停めて来ると言って、駐車場に向かって行きました)


…ありがとうございます…えっ!?…


(店内に入ると、私とお母さんは異様な雰囲気を感じ取りました。初めて訪れる店なのに、店内に漂う雰囲気は私達が長年傍で感じ続けていた、暖かくてそれでいて厳しく冷たさも併せ持つ、父の残り香の様なものが店内から感じ取れたからです)


…あっ……あの…ここに…


(母は席に腰掛けると、いてもたってもいられずに、厨房でお鍋を目をつぶりながら掻き混ぜ続けているお婆様に、声をかけて行きました。すると、その母の言葉を遮る様にお婆様が先に語って来られました)


本当に…澪ちゃんの言っていた通りだ…綺麗な女子達が訪れる…って…


(その言葉に、私も母も凛さんも駿兄さんも驚き、言葉を発せずにいました。すると、淡々とお婆様は語り始めてくれます。そして傍にいた年配のお爺様が、私達に語りかけて来てくれました)


澪ちゃんは…もう…この街にはいないよ…まるで腰休まる場所を探し続ける、渡り鳥の様な不思議な子だったよ……其処の席に毎晩座って……朝方までいた事もあったよ…


(私と母は、お婆さんの指す席に近寄って行きました。お婆様の指差された席は壁際の一番端の席でした。ここにお父さんがいたんだ。すると、母は椅子に前屈みに倒れてしまいました)


お母さん!!


(凛さんと協力して、私達はお座敷にお婆様の許可を頂き安静にして寝かせて休ませました。暫くすると、景さんも店内に入って来てカウンターの席に腰掛けて、駿兄さんと私と三人でカウンターの席に腰掛けます。母の看病は凛さんがすると言ってくれました)


あの…父はいつ頃まで?…


(お婆様は黙って煮物料理をお皿に盛り付けると、私達に提供してくれました)


澪ちゃんが良く食べていた…ものだよ…あんた、澪ちゃんの娘さんか?


(お箸を受け取ると、父から厳しく教えられた礼儀作法を行ってから、私は煮物料理に箸を伸ばして食べ始めました。口の中に広がる風味に、懐かしい天河村の情景が思い浮かべられました。目をつぶって味を噛み締めていると、お婆様とお客様のおじさまが語り始めます)


二年前まで…この店の近くのアパートに住んでいたよ…澪はな……でもある日…わしらにこう言ってな…澪は消えたよ…


(おじさまの語る口調は厳しい口調でありながら、温かみを帯びていました。お婆様と静かにコップを揺らし続けていたおじさまは、静かに語りました)


お世話になりました。…さようならは言いません。俺はこの言葉が嫌いなものですから。そしていつの日かここに…綺麗な女達が来ると思います…その時は…そいつらの事を頼みます…と言ってな…


(父は私達がここに来る事をわかっていたんだ。二年前に…。おじさまは残りのお酒を飲み干すと、女将さんのお婆様に追加のお酒を無言で注いで頂いていました。そして懐から一枚の写真を取り出して、私達に見せてくれました。それを見た私は、もう我慢出来なくて泣き始めてしまいました)


俺の自慢の家族達です、と…言ってな…これを写しで残して行きおったよ…


(その写真は十数年前に行われた、両親の結婚式の時の写真でした。背景には天河村の山々が桜色に染まり、背後に写り込み、幼い頃の私が両親の手を握りながら間に立って、満面な笑みを浮かべていました)








第四話を書き終えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ