ふわり
三題噺もどき―ひゃくきゅうじゅういち。
※自殺表現有注意※
お題:曇天・カッターシャツ・清廉
『さようなら』
「―――!!」
息苦しさに襲われ、目が覚める。
無意識に伸ばされていた右手は、虚空をつかむ。
「―――っ」
カタカタと震える体を、どうにか抑えようと抱きしめる。
―私がこんな風になる資格はない。私が、私が嘆いていいはずがない。
「―――」
喉がきゅうと締まる。
呼吸が難しくなる。
このまま息が止まればと―思わない日はない。
「――、―、」
外着のまま疲れ果てて、寝てしまったのか。
よく見れば部屋着ではなく。お気に入りのカッターシャツを着ていた。首元は少々苦しいので、もともと緩めで着ている。それでもそこまで、着崩した風に見えずらかったりするものだから。カッターシャツって、意外といいものなのかもしれない。
「――、――」
けれど。
首元を緩めていても。
息苦しさは、変わらない。
ぎゅうぎゅうと、絞められていく。
―あの景色がフラッシュバックして。
「――っ、―っふ、」
カーテンを開きっぱなしにしていたが。さして明るくはない。
そういえば、今日は朝から曇天の空が広がっていた。どんよりと。暗く。重い。今にも降り出しそうな。
―あの日、同じ曇天の空が。
「――、―――、」
季節が移ろい始めて。さして暑くもなくなってきたのに。
シャツはジワリと汗を滲ませている。暑くもないのに。ただ冷や汗がじわじわと。
むしろ寒いぐらいなのに。ジワリジワリと。
「――、」
汗は。
静かに伝い、その存在を感じさせる。
何かに舐められているようで気味が悪い。
つぅ―と、嫌な足跡を残していく。
「――、」
あの日の自分に戻ったみたいで。嫌になる。
―何度も、あの景色がよみがえる。
「――っ、」
あの日伸ばすことのできなかった手を。
今更のばしたところで。何も意味なんてないのに。
届くことなんて絶対にないのに。
「―――、」
今日みたいな、曇天の空の下。
あの日は、少し雨も降りだしていて。
傘もささずにいた私に、降り注いで。
汗みたいにジワリと広がって。
全身をつたって。
「―――、」
そんな日に。
そんなあの日に。
「――、―、―、―、」
親友が1人。
―地に落ちた。
「――、――、」
校舎の上の。広い屋上に。あの子と2人。
あの子は。私の友達は。いわゆるいじめというものを受けていて。
あの子は。“清廉潔白”という言葉がしっくりくるような。どこまでも清く。私欲なんてないんじゃないかと。どこまでも他人に尽くそうとするような。
あの子は。
「――、――、」
そんな子が。
いじめられていると知ったのは、遅くはなかった。
けれど、私にはどうにもできなくて。それでも、彼女は。あの子は。
「貴女と共に在れるだけでいい」
と。そう言ってくれて。隣にいてくれるだけで良いと。言ってくれて。
ただ支えになってくれればいいと。そう願って。
「――、――、」
ならばと私は。それに応えようと。
私にはそれしかできないから。共にある事しか。
「――」
それでも。
許されなくて。
「――」
ある日。
あの子をいじめているやつらに脅されてしまって。
自分の身可愛さに。
「――」
悪気はない。けして。どうにかして、あの子とありたいとは思っていた。ホントは。あんなことしたくもなかった。叶うなら、戻りたくなる。あんな馬鹿なことをした私を殴りたくなる。
―ただの保身で、彼女に牙をむいたくせに。いけしゃあしゃあと。よく言える。
「――」
私のせいで。
私が。
あの子の願いをかなえられなかったせいで。
「――」
あの日。
あの時。
「――」
屋上に立った彼女は。
「――」
まるで羽の生えた天使のように。
「――」
ふわりと。