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ありきたりな物語に花束を  作者: 梅木しぐれ
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近衛兵の後悔-5

 5年前 アンポス村


 私はこのアンポス村出身で息子がいた。妻は息子を産んですぐ亡くなったが、亡き妻に笑われないように、わからないなりに人一倍愛情を込めて息子を一人で育ててきた。

 魔王が現れて5年、世界はモンスターのいる生活に慣れてきていた。私はこの村で野菜を育てて生計を立てていたが、村を守るために男たちは自警団を作り順番に見回りや、モンスター退治をしていた。もちろんモンスターと対峙するのは命がけであるが、このあたりに現れるモンスターはそこまで強くはなく、人数さえいれば倒せる強さだった。それに、モンスターを倒すと金貨が手に入るため、倒せるモンスターは倒そうと決まった。

 息子は野菜を育てるより、自警団のほうに憧れていた。だけど、私は自警団なんて危ない仕事はしてほしくなかった。命を懸けるのは大人だけで十分だ。息子とは良好な関係だったが、これについては意見が合うことはなかった。

 周りの男は「もうすぐ大人になる。そろそろ許してやってもいいんじゃないか?」と口をそろえて私に言う。だけど、どんなに体が大きくなろうと、年を重ねようと私の息子に変わりない。危ないことはさせたくなかった。親の心、子知らずとはよく言ったものだ。

「父さん、僕も自警団入れてよ!もう今年で13だよ!」

「何を言っているんだ、まだまだお子様じゃないか」

「ちーがーいーまーすー」

 頬膨らませて抗議する息子に私は肩をすくめた。

「父さん王都に行って野菜を売ってくるから畑を頼むぞ。明日の昼ぐらいには戻ってくるから、くれぐれ危ない真似はするんじゃないぞ」

「……はーい」

 つまらなさそうに返事をした息子に私は眉を顰めたが、時間が迫っていたため言葉をつなぐことを止めた。

「それじゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

 これが息子との最後の会話だった。


 私は王都で野菜を売りきり一泊して朝一番で村に帰った。

 私を待っていたのは、ぐちゃぐちゃになった村だった。家屋は崩壊し、いたるところに赤黒いモノが飛び散っていた。

 私は自分の家に走った。嫌な考えを追い払うように走った。

 私の家は瓦礫の山になっていた。

  ——息子は!?私の息子は!!

「ダン!!!」

 後ろからクリスが私の名前を叫んだ。

「クリス!私の息子は!!息子はどこにいるんだ!!?」

 私はクリスの肩を掴んで揺さぶった。

「っダン!……お前の息子は……そこに、いる………」

「は?」

 クリスは震える手で私の右下に指をさした。私はその指の先を辿った。

「———————」

 そこには赤黒いものが飛び散っていた。

 人の形すら保っていなかった。

 心が理解するのを拒んだ。しかし、脳が急速にその事実を理解した。目の前の息子だというモノは、村の入り口に飛び散っていた赤黒いモノと同じだった。

「あ、ああ、あ、あ、あ、あああああああああああああああああああああああああ」

 気づいたときには叫んでいた。

 その後のことはよく覚えていない。


 村の近くにある丘に避難していた村人が戻ってきて、みんなで復興作業を始めた。私は休憩なんてしないで作業をした。休んでしまうと息子を思い出して動けなくなって、立つことすらできなくなってしまう。そんな私をきっとみんな心配していたと思うが、何も言わずに私がしたいことをさせてくれたみなには今でも感謝している。


 一年経ち元通りとは言えないが、以前の暮らしに戻ってきた頃にクリスが私の家を訪れた。

「お前の息子のことで話がある」

「話だと?」

 そうだとクリスは力強く頷いた。

「あの日は突然オークが現れた。本当に突然のことで誰も反応できなかった……オークが家を壊したことで村はパニックになった……俺たち自警団はオークの気を引きながら丘へと避難誘導をしていた」

 私は黙って話を聞いていた。

クリスはあの日の恐怖からか手が震えていた。自身を落ち着かせるように息一つ零したクリスは話を続けた。

「俺が、俺が避難誘導している時に後ろからオークが来ていたことに気が付いていなかったんだ。……お前の息子が叫んだんだ『おじさん!危ない!』って、気づいたときには、俺の体はお前の息子に押されていた……それで………それで、あの子の体が…………」

 私はこの話を聞いたとたん、頭に血が上ってクリスのことを殴っていた。

「お前が!!お前が!!!クリス!!!」

「すまない!ダン、俺のせいで……!俺の………うっ、」

 クリスは泣きながら私に土下座をした。でも、私はその謝罪を受け入れることなんてできなかった。

 衝動のまま家を飛び出し、私は王都へ行き兵士を志願した。

 それから、4年経った。がむしゃらだった。己の不甲斐なさ、モンスターへの怒り、息子への罪悪感、友人クリスへのやるせない気持ちで駆け抜け続けた。気づけば私はジェレペトゥ王国一の兵士と呼ばれるようになっていた。



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