終結-3
魔王はユーリの最後の言葉に苦笑いを一つ溢した。そして、自身に降り注ぐ雨に息を一つ吐き出し困ったように笑う。
ゆっくりとモールトに視線をやれば、彼女の紅い目が魔王を捕らえて離さない。その瞳は初めて出会ったときに見た『こちら見ているような、今ではないもっと先を見ているような目』ではなく、しっかりと魔王自身を見ている事実に魔王は死の間際にも関わらず全身の細胞が湧きたつのを静かに感じていた。
「リリー様は生きているのが楽しいとおしゃっておりましたよ」
「……あぁ、よかった」
降り注ぐ雫とともにポツリと降ってきた言葉に魔王は胸をなでおろす。あの赤髪の少女を己の利己で作り、何も言わずに外へ放り出した。自分の目の前まで来て、作られた意味を問われたら、嘘偽りなく伝えるつもりでいた。けれど、そんなものが、どうでもよくなるぐらいの出会いをあの少女ができたのなら喜ばしいことだ。
「あの娘に聞いてくださり、ありがとうございます」
「当たり前です。私は魔王様の敏腕秘書ですので」
彼女の返答に魔王はへらりと笑う。その痛々しい姿にモールトは眉を八の字にする。魔王はモールトに手を伸ばす。その手をモールトは握り自身の頬に押し当てた。
「ミレイさんには悪いことをしましたかね……?」
「本人が選んだ道ですから、そのような憂いは必要ありませんよ」
モールトの言葉に「そうですか?」と苦笑いをした。
「……美しい人、」
震える魔王の言葉に女の涙は止まり、静かに微笑んだ。
「あなたの………フローリア様の退屈を、私は楽しませることはできましたか?」
女は笑みを深くして、ゆっくり頷いた。
「あなた様の138年に及ぶこの物語はとてもおもしろく、大変楽しませていただきましたわ」
「あぁ、ならよかった」
「褒美を与えねばなりませんね。何かほしいものはございますか?」
モールト——否、フローリアの言葉に魔王は数秒思案する。
「名前を、私……俺の名前を呼んでください」
「そんなことでいいのですか?」
不思議そうな声で首を傾げたフローリアに、心が思ったことを魔王は飲み込んだ。フローリアは「異世界人は不思議ですこと」と溢し、握る手に力を入れて、それから——
「——鈴木優也」
フローリアは労るように、愛おしそうに魔王——鈴木優也の名前を呼んだ。その声音に、もうずっと聞いていない自身の名前に優也は照れ隠しをするように「俺の名前、覚えていてくれたんですね」と茶化す。
「わたくしは、優也様と契約をしたのですよ」
契約だからだとしても、自分の名前を覚えていてくれた事実に胸が躍る。
「そういえば、本当に仕込みましたけどよいのですか?」
思いだしたように質問された内容に、優也は目を丸くしたがニコリと笑い。
「自爆は悪役の醍醐味ですよ」
その言葉にフローリアはやはり首を傾げ「やはり異世界人は不思議ですこと」と呟いた。
フローリアは優也の名前を呼ぶことを再開した。




