最後の戦い:一般人-1
リリーに先に行けと言われたユーリは、魔王が待っている部屋まで走る。辿り着いた部屋の扉を勢いよく開けた。部屋は言うほど広くもなく、かといって狭くもなかった。微妙な広さに学校の体育館が脳裏をかすめた。天井が天窓になっていて、柔らかな月の明かりが注がれている。部屋の中心には、長い白髪を後ろの高い位置で結んでいる青年が右手に握った木製の杖を支えにして立っている。そして学ランのような黒い服を着ていた。ユーリはその姿に目を見開いた。魔王と聞いていた。だから、おどろおどろしいモンスターを、人間からかけ離れた生物を想像していた。
「賑やかな人ですね」
にこやかに笑う目の前の生き物は、どう見たって人が好さそうな青年でモンスターを使役する魔王には見えない。少しだけしゃがれた声には、大地に根を張った雄大な樹木のような力強さを感じる。
固まっているユーリを気にしていないのか「私が世界を蹂躙した魔王です」と、自己紹介をし、頭を下げた。
「さて、よくここまできましたね」
労わるような言葉に、ユーリの顔に険しさを覚える。相手の動きに反応できるように、警戒しながら部屋へと入る。
「そんな、緊張しないでくださいよ」
けらけらと笑う姿に、毒気を抜かれながらも「えっと、ユーリって言います」と頭を下げた。
「はい、存じていますよ」
「はぁ」
「ふふ、戦う前に私と話をしませんか?」
「話し?」
魔王の提案にユーリは眉を顰める。ユーリは、フローリアに助けを乞われるまま旅を始めた。そして目の前の魔王のせいで、傷ついた人たちをこの両目で見てきた。なにより仲間が戦っているのだ。悠長に話している時間なんてない。断ろうと口を開けば、先手を打つように「一つだけ、質問をさせてください」と魔王はユーリの有無を確認せずに話を続けた。
「この旅は楽しかったですか?」
魔王の質問に呼吸が、時が止まった気がした。
「な、んで、そんなことを聞くの?」
「なに、ただの興味ですよ」
困惑するユーリに、さも当然のように返す魔王の姿に言葉通りなのだろうと感じたが「絶対に教えない!」と一蹴した。ユーリの返答に神父は肩をすくめた。
「俺からも質問いいです、か?」
「なんでしょう?それと自然に話していただいていいですよ」
「……名前はなんて言うの?」
「名前、ですか」
ユーリの質問に顎に手を当て「う~ん」と悩んでいたが、にこりと誰かに似た笑顔で「秘密です」と答えた。その姿にユーリは白けた顔で魔王を見る。
「あなたが答えてくれなかったので、お相子ですよ」
「それは……」と口を開いたが、確かに公平ではないので口を噤んだ。
「あなたは本当に……いえ、なんでもありません」
魔王の反応にユーリは首を傾げるが、追及することはなぜだが憚られた。魔王は空気を変えるようにパチンと手を叩いた。
「それじゃあ、始めますか」
魔王は手に持っていた杖を、手首を使ってくるくると回し始める。その動きに何が始まったのか分からなかったが、ユーリは腰に下げたフローリアライトに手をかけた。
「あなたもそれを抜かないと——死にますよ」
くるくる回っていた杖が持ち手の部分は杖のままで、支柱の部分が刃物に変化していた。魔王の言葉にフローリアライトを引き抜いた。急いで構えれば《ガキンッ!》という音がビリビリと鼓膜を揺らす。




