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ありきたりな物語に花束を  作者: 梅木しぐれ
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最後の戦い:信奉者-4

 本当はどこかで理解していた。ミレイに言われたのは「1年間教会から出ないでくださいね」だ。だから本当は部屋に引きこもらなくてよかった。いつも通り教会で生活していたら、それでよかったのだ。でも姉であり、母であり、友人であり、他人であり、宝物であるミレイがいない日々を楽しめてしまったら、生きてしまえたら、まるで自分の人生には、必要のない人間と証明しているようで嫌だった。だから意固地になって、言われてもいないのに自ら部屋に引きこもった。

 しかしロイはミレイがいなくても生きていける。きっとそれは、どんな人にも当てはまることだ。ただ、この刹那のような時間を誰と生きたいのか、この短い人生を誰と分かち合いたいのか、それだけが重要で、大切なことだった。

 ロイはいろんな理由を並べ立てたが、結局はミレイに選んでもらえなかったことに対し、子どものように拗ねていただけだ。

 姉の一言で部屋から出たロイの世界は、ミレイという単色のみでできていたはずなのに———ミレイが消えた10年間で生きる術を教えてくれた神父。認めたくないけど兄のようなユーリ。恥ずかしくて言えないけど父のようなダン。やかましくて耳が痛くなるけど妹のようなリリー。そして11年間手を離さないでいてくれた、ロイとミレイの帰りをあの教会で待ってくれているロッタ———単色だった世界は、数多の色で彩られ輝いていた。


 ——色とりどりの世界は、


「考え事とは余裕ですね」

 思考の海に溺れていたロイは、ミレイの言葉で現実へと引っ張られた。

 迫る切っ先を受け止めようと柄を握る手に力を入れたが、ロイは寸前のところで腕を下ろした。ロイの瞳に映るのは、目を見開いたミレイの顔だった。

 ミレイは動きを止めることができず、咄嗟に狙いを腹部から左肩へと変えた。それでもロイなら避けられると信じていた。そんなミレイの思いとは裏腹に、ロイは避けることをしなかった。そして剣はロイの左肩を貫いた。

 突き刺さった剣を横目に、ロイは意外に痛くないものだと、ぼんやりと考えた。

「な、んで?」

 ミレイの弱弱しい言葉に、ロイは思わず笑顔が零れた。

「どうしてです?どうして、避けなかったのですか……」

 現実を理解できないのか、それとも認めたくないのか柄を握る手も震えている。その震えはミレイの手から柄へ、柄から刀身へ、刀身からロイの傷口へ、伝播する。震えからは、戸惑い、恐怖、後悔、罪悪感、疑問が伝わってくる。そして、ロイの傷口から刀身へ、刀身から柄へ、柄からミレイの手へ冷たいものが伝う。

「ぁ……」

 ミレイの手が赤く染まり、その赤色は床へと滴り落ちる。

 赤色の冷めた温度に竦み上がる。ミレイは無意識に柄から手を離そうとしたとき《カラン》と音が空間に響いた。その音の原因に目を向けようとするまえに、ロイの腕がミレイへと伸びた。

 そして押し付けられた肩口。耳元で感じる呼吸。抱きしめられたことで、より深く刺さる刀身。生きようと足掻く鼓動。流れていく赤色と違い、頭と腰に回った大きくなった手の温度。その全てがロイは生きていると主張している。

 まるで世界が止まったような空間で、ロイは口を開く。


「たのしいよ」



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