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ありきたりな物語に花束を  作者: 梅木しぐれ
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最後の戦い:信奉者-3

「では、お話は終了です。いきますよ」

 ミレイは言い終わると同時に踏み込み、ロイとの距離を一気に詰める。そしてロイの懐に入り込み下段から切り上げる。ロイは身を反らし避け、そのまま床を蹴りミレイから距離をとった。

「ふふ、さすがに覚えていましたか」

「………小さいときに、ずっとやられたからね」

「やはり、あの頃みたいに初撃でダメージを与えることができなくなっていますね。剣術の方も成長していて、おねぇちゃんは嬉しいです」

「…ありがとう」

「では次行きますよ」

 先ほどと同じくミレイは踏み込み、ロイがあけた距離を詰める。それを見たロイも同じく踏み込み距離を詰めた。ミレイとロイは剣を振り上げ、そして振り下ろす。鉄と鉄がぶつかり、《キイィイン》と耳障りな音が辺りに響く。

 力の押し合いになり、ミレイは全体重をこの一振りにかける。ロイも押し負けないように力をかけた時、ミレイは剣を引いた。ロイは急に支えがなくなったため、前へとつんのめる。

 ミレイはロイの態勢が崩れたのを見逃さず、懐に潜るようにしゃがんだ。

「!!」

 ミレイの剣は、ロイの身体を貫くように迫る。ロイは態勢を崩されたのを剣の重みを利用し半身をずらした。剣はロイの身体を貫通することはなかったが、その切っ先はロイの脇腹を斬りつけた。

「ぐっ!」

 鋭い痛みにロイは眉を顰めた。しかし間髪入れずに、ミレイは斬った脇腹からロイを蹴り飛ばす。

「よく避けましたね」

 ミレイは感心したような声で、床に倒れたロイを褒めた。

 ロイは斬られた脇腹の止血するように手で押させえた。

「り、リカバリー」

 ロイの言葉に反応するように、血は止まり傷口が塞がっていく。その光景にミレイは素直に拍手を送った。

「すごいですね!昔は血を止めることしかできなかったのに!」

 ロイはミレイの賛辞を受けながら、ゆっくりと立ち合がる。

「……ねーちゃんも、昔より力が強くなってるね」

「えぇ、魔王様の役に立ちたくて修行しましたから」

 ミレイの言葉に剣を握る力が強くなる。

「……どうして?」

「はい?」

「…どうして……魔王の味方をしてるの?」

 ミレイは目を細め、剣を構えた。

「ロイくんが私を一度でも斬れたら、教えてあげますよ」

 この部屋での再会から、先ほどまでのやりとりがミレイのお遊びだったのか、一気に緊張感で部屋は圧迫された。圧迫感からか、ロイは首が緩く締まっていくのを感じた。

「構えないと、本当に死にますよ?」

 ミレイの静かな呟きは、距離が離れているが空気を揺らし、ロイの元まで届いた。

 ロイはミレイの言葉の通り、剣を構える。静寂に包まれた部屋で、聞こえてくるのは二人の呼吸だけ。

 そして呼吸が重なった瞬間———ミレイとロイは走り出す。

 ミレイはロイの右肩を叩き潰すために、上段から剣を振り下ろす。それをロイは剣で受け止める。ミレイの剣の重さにロイの手はじんじんと痺れた。ロイは奥歯を噛んで耐える。ミレイは剣を引き、また振り上げる。ロイはその一瞬を見逃さず、ミレイの腹部を狙って剣を突く。しかしミレイは右側に旋回し避けた。揺らめくワンピースの裾のなんと美しいことか。ミレイは旋回の遠心力を利用し、ロイの身体に傷を増やした。

 ミレイの猛攻は止まらず、ロイは細かな傷を増やしつつも致命傷を回避する。お互いに言葉はなく、部屋に響くのは剣がぶつかる音、自分の鼓動、相手の息遣い、それだけであった。それだけでよかった。昔も、今も、世界には二人だけ。ロイはミレイさえ一緒にいてくれさえしてくれれば———本当に?

 頭の中で答えることのできなかった質問が踊る。


  ———ここまでの道のりは、楽しかったですか?



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