最後の戦い:信奉者-2
暗い。真っ暗だ。
少し先だって視界に映るものはない。
「やっと、ここまで来てくれましたね」
女の声とともに、部屋が明るくなり、ロイの足は止まった。
「……ねーちゃん」
「はぁい、おねぇちゃんのミレイちゃんですよぉ」
女の間延びした声だ。その声を聞いたのは教会での約束の日が最後だった。久しぶりの姉 ミレイ・ターナーの姿に口角が上がるのをロイは自覚していた。
「おや?ロイくん。教会で再会した時よりも嬉しそうですね」
「…うん」
「珍しいですね。ロイくんの返事が、いつもより早いです」
ミレイの言葉に、首を傾げ数秒。
「………そうかな?」
「そうですよ!おねぇちゃんが言うのだから、そうなのです」
「…それも、そっか」
これまた早めに頷いたロイにミレイは、眉を寄せた。
「本当にロイくんですか?偽物じゃないですよね?」
「……本物です」
ミレイの失礼な質問に、ロイは少しムッとしながら言葉を返した。
「すみません。つい」
「……別にいいよ」
ロイの返答に嬉しそうに目を細めたミレイは、仕切り直すように目を瞑りゴホンと咳払いをした。そして瞼をゆっくりと上げれば、先ほどとは打って変わって底冷えするような鋭い瞳でロイを射抜いた。
「さて、ロイくん。ここまで来たということは、約束通り私を殺しに来てくれたのですね」
「………そうだけど。先に質問いい?」
「? どうぞ」
「………ねーちゃんが、転移魔法を使ってる?」
「…それを聞いて何か変わるのですか?」
冷めた声だ。
聞いたこともないミレイの声に、ロイの左足は半歩下がった。
「もしかして、転移魔法でモンスターを出していなければ言葉で説得して一緒に帰ろうとでも考えていましたか?私は言いましたよね、私を殺しに最果ての城まで来いと」
「……うん」
「なら、その質問は不要ですね」
「………そ、だね」
ミレイは呆れたように溜息を溢した。そして、指を鳴らせば、どこから出したのか気が付けば両手で一本の剣を握っていた。
「さぁ、ロイくんも抜いてください」
ロイはミレイの言葉に口を開いたが、音が出ることはなかった。しぶしぶ腰に下げていた剣をロイは、抜いて構えた。
「あ、私からも質問していいですか?」
「…なに?」
「ここまでの道のりは、楽しかったですか?」
ミレイの質問にロイは目を見開いた。考えたこともなかった。ミレイがいなくなって10年。再会できたと思ったら1年間教会にいてほしいと言われ実行した。この11年間は楽しい、楽しくないではなく姉のことしか考えていなかった。いや、そもそもいなくなる前も、現在も姉のことしか考えていない。この旅が楽しいのか?という質問に対して、普段のロイであれば否定するだろうが、ミレイの質問に対してこうして考えている時点で答えといえた。
「あぁ、これは大変喜ばしいことです」
花開くように微笑むミレイは、まるで子どもの成長を喜ぶ母親のようだ。




