最後の戦い:魔術師-6
「———————」
視界が、音が、時間が、止まった気がした。
気づけば右肩から、生暖かいソレが下へ、下へと流れていた。
リリーはソレを確認するように、左手を右肩に伸ばした。——温かい——掌についたソレは恐ろしくも美しい命の色をしていた。
なにが起きたのか、わからなかった。わからないことは恐い。だけど、理解するのも等しく恐くて、思考が停止する。
「な、?」
困惑しているリリーなんて見えていないのか……むしろ理解したうえで、わからせるようにモールトはもう一度指を指し「ペネトレイト」と呟いた。
2度目にしてリリーは理解した。——いたい——理解させられた。——痛い——なにかが——痛い、いたい——自分の体を——痛い、痛い、いたい——貫通し——痛い、痛い、痛い、痛い——たのだ。——いたい——
「あ、あっ、ア、」
右肩の次は、左下腹部からどくどくと溢れ、足元に花が咲くように広がっていく。リリーは自分の身体を支えることができず、また床へとずるずる滑っていく。痛みに耐えるように体を縮こまらせた。忘れていた肉体的痛みからか、唸るように喉を震わせた。
モールトは両手で優しくリリーの両頬を包んだ。その手のひらには確かに慈愛を感じられた。リリーは驚きで息を飲んだ。そして、モールトはゆっくりと、リリーの顔を上げ視線を絡めた。
「今からでも遅くありませんわ。どうかリリー様の生命の時間を、魔王様に使用していただけないでしょうか?」
あたたかい―――まるで幼子に言い聞かせる母親のようであった。
「その首を縦に動かすだけで、痛い思いをしなくていいのですよ」
「…………」
リリーから言葉は出ることはなく、聞こえるのは弱弱しい呼吸音だけだ。
「声が出せないのですか?それとも動けないのですか?そんなことありませんよね」
リリーは不死身だ。死なないし、死ねない。最初に負傷した右肩はすでに血が止まり、あいた穴は確かに塞がっていた。モールトは塞がった右肩に指を指し「ペネトレイト」と呟いた。そしてまた同じところに、同じ穴があいた。
「ああっ!!」
新た痛みにリリーは叫ぶ。
「あぁ、よかった。ちゃんと声が出せるなら、返事を聞かせていただいても?」
返事を促すモールトに、リリーはキッと睨みながら口を開いた。
「だ、れが………仲間に、なんか……なるか……!」
「そうですか……それは残念です」
眉を顰めたモールトは、その場に立ち上がりながら塞がったリリーの左下腹部に人差し指を当て「ペネトレイト」と呟く。
リリーは痛みに叫ぶ。叫ぶたびに、モールトはリリーの身体に穴をあける。鮮やかな色が二人を染めていく。
「やはり廃棄処分ですね。簡単に楽にしてあげませんわ」




