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ありきたりな物語に花束を  作者: 梅木しぐれ
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最後の戦い:魔術師-5

「ポインテッド!!!」

 呼吸が重なったその瞬間、リリーは叫んだ。

 その叫びに応えるように、リリーの周りに先端の尖った細長い槍のようなものが5本現れた。リリーがモールトを指させば、現れた全ての細長い槍のようなものは真っ直ぐにモールトのもとへ飛んでいく。

 モールトは飛んでくる5本の切っ先に驚くことも、恐怖することも、避けようとすることもなく立っている。

「アブソープション」

 静かに呟かれた呪文により、モールトの前に黒い穴が出現した。そしてリリーが放った細長い槍のようなものは、鳥が巣に帰るのと同じように至極当然のように黒い穴に向かい、中へと吸い込まれていった。

「なっ!?」

 リリーは驚愕で声を上げ、一つ舌打ちをした。

「あら、こんな玩具でわたくしを倒せるとでも?」

「だったら!」

 リリーはもう一度「ポインテッド!」と叫び5本の細長い槍のようなものを出現させた。それに対してモールトは肩をすくめ、呆れたように「アブソープション」と呟いた。

 5本の細長い槍のようなものは先ほどとは変わり、1本ずつモールトのもとへ飛んでいく。しかし、先ほどと同じように出現した黒い穴に吸い込まれていく。

 リリーは槍が1本ずつ飛んでいく間に、モールトを中心として、円を描くようにゲイルの呪文で発動した風を利用して走る。モールトは走るリリーには目を向けず、次は何をしてくるのか?何を見せてくれるのか?期待で目を輝かせながら吸い込まれていく細長い槍のようなものを見る。

 5本目が吸い込まれるのと同じタイミングで、リリーはモールトの後ろへと到達した。

「ヴァイン!」

 リリーに応えるように緑の色の蔓が現れ、モールトに向かって伸びていく。避けるそぶりを見せないモールトの背中に、蔓の先端が触れた。

「バースト」

 モールトの言葉とともに、モールトの背中に触れた先端から蔓は恐るべきスピードで膨張し———内側から爆発した。

「ぎゃっ!!?」

 爆風によりリリーは吹き飛ばされ、後ろの壁に背中と後頭部を強打した。あまりの衝撃の強さに息を吐くことも、吸うこともできず。リリーの呼吸が一瞬だけ止まった。

 リリーはそのまま壁に身体を預けた。そして「ゴホッ…ゲホッ!!」と咳き込みながら、力の抜けた四肢はずるずると床へと滑っていく。

 爆発によって視界は灰色に染まり、その奥で黒い影がゆらりゆらりと揺れている。

「そんな脆弱な呪文で、わたくしの柔肌にかすり傷一つでも残せるとお思いでして?」

 煙の中から出てきたモールトには傷一つついておらず、美しさを保っていた。

 一歩、また一歩とリリーとの距離をゆったりと詰めていく。

「魔法が使えるのは魔力がある人間。しかし、使える魔法は本人の生きてきた経験、そして願いによるもの……リリー様の魔法は生活には便利そうですが、戦闘には向いておりませんね」

「あんたには、関係……ないでしょ」

 近づくモールトに警戒するように、壁を支えにリリーは静かに立ち上がった。モールトにはリリーの言葉が聞こえなかったのか言葉を続けた。

「先ほど後頭部を壁に強打しておりましたが、動かない方がよろしいのでは?」

 モールトの言葉にリリーはぎちりと唇を噛み、握りしめた手がじんじんと痛みを主張している。

「余計な、お世話よ」

 リリーの返答にモールトは目を細めたが、瞬きの間にニコリとわざとらしく笑った。

「お元気そうなので、次はこちらからいきますわ」

 そっとリリーの右肩あたりに、モールトは人差し指を向けた。



「ペネトレイト」




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