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ありきたりな物語に花束を  作者: 梅木しぐれ
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最後の戦い:魔術師-4

 リリーは、ユーリたちとの旅で、自分が生まれた理由も、姿が変わらないのも、死ぬこともできないのも、あんなにも悩んで、苦しんだのにどうでもよくなっていた。

 なにより生まれて初めてできた仲間のことが、気が付けば自分自身のことより大切になっていた。

「別に!アンタには関係ないでしょ!」

 恥ずかしさが、腹の底から熱のようにじわじわと頭のてっぺんまで侵食し、熱を発散するように叫ぶ。その姿にモールトは肩をすくめた。

「わたくしからも、質問させていただいても?」

「?なによ」


「生きているのは楽しいですか?」


 その言葉で、リリーは頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われた。——目の前の女は何を言っているのか?——投げられた質問を理解できなかった。——どうして目の前の女がそんなことを聞いてくるのか——質問の意図も理解できなかった。

 しかし理解できないという思いとは反対に、脳裏には師匠との幸福な日々、老齢の神父との穏やかな生活、町でのどうすることのできない悲劇、逃げ込んだ美しくも冷たい世界、ユーリ、ダン、ロイとの旅。

恐れられ、置いていかれ、傷つけられることに辟易し、生きることが嫌になっても終わることができない生に、何度絶望したかわからない。摩耗した精神では諦めて呼吸だけを続ける灰色の毎日。それでも確かに彩があったのは、誰にも関わりたくないと逃げ込んだ美しいだけの白い世界ではなく———誰かに傷つけられ、誰かを傷つけ、死にたいと願って、生きてほしいと乞われた———時間が重なっているこの瞬間を、頬が筋肉痛になるぐらい喜んで、握りしめた手が熱を帯びるほど怒って、つんと鼻が痛くなり視界が歪むほど哀しんで、気ままに鼻歌を歌いながら楽しんだ誰かと過ごした日々だ。

リリーは長い時間を過ごしてきた。楽しいことより、辛い時間の方が多い。なにより不老不死のリリーは生きているとはいえず、進化も退化もなく経験だけを積み上げる。それでも、そうだとしても、孤独ではない、誰かと過ごす毎日は———


「楽しくってしかたがないわ」


 確かに笑っているのに、泣いているようであった。

 そして声は震えて床に落ちることなく、まっすぐモールトへと飛んでいく。空間を裂くような鋭さはなく、進んでいくごとに心の温度が溶け出し空間に滲んでいく。温かい言葉。

「それは素晴らしいことですわね」

 リリーの言葉にモールトは、ニコリと笑った。

 見慣れてきたモールトのわざとらしい笑顔に、リリーは眉をピクリと動かすだけに止めた。

 空気を変えるようにモールトは、パンっ!と手を一度鳴らした。

「さて!楽しいお話は、ここまでにいたしましょう」

「楽しくはないけど、その意見には賛成よ」

 対峙する二人の間の温度が急激に下がっていく。いつのまにか素手で、氷を直接触っているような冷たさに到達した。皮膚がひりつき、じわりじわりと感覚が侵されていく。筋肉が動かしにくくなる代わりに、どんどん神経が研ぎ澄まされていく。

 呼

    が、


     一つ


              二つ


         三つ




              そして、四つ———



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