信奉者の宝物-12
「……?」
しかしロイに訪れたのは痛みではなく、温かさと、ちょっとした息苦しさの2つだった。不思議思ったロイは瞑った目をゆっくりと開いた。ロイの目に映ったのは、なぜか笑っているユーリの間抜け面だった。
「……ロッタ…?」
ロイの小さな呼びかけにロッタは言葉を返すことはなく、ただ腕に力を入れた。ロイはどうやらロッタに抱きしめられていると理解した。
「あなたは引きこもるのも突然なら、部屋から出るのも突然ですね」
それは、呆れているような声だった。ロイの肩に顔をうずめるロッタの姿に、ロイはどうすることもできず立ち尽くした。
自身の背中に回ることのない腕に、ロッタは小さく笑った。
「……怒ってないの?」
「どうして?」
「だ、だって」
「はい」
「………前は怒ってた、から」
「それは、あなたが返事も返さないからですよ」
ロッタは、戸惑いを隠せないロイの声色に肩を震わせた。
「……ミレイさんがいなくなって10年、あなたが引きこもって1年、この11年間ずっと心配していたんですから」
「……しんぱい」
「そうです。そしたら今度は、旅に出るって言うじゃないですか」
「……えっと、ごめんなさい」
ロイの謝罪にロッタは首を横に振り、さらに腕に力を入れた。「痛い」というロイの言葉にロッタは「我慢しなさい」とぴしゃりと言い放った。
「今度はミレイさんと生きて私の前に来てください」
「—————」
ロッタは何も知らない。ミレイがロイに「自分を殺しに来て」とお願いしていることを、その願いをロイが叶えるために旅にでることも、何一つ知らない。
ロイは口を開いたが言葉が出ることはなかった。
「約束、ですよ」
ロッタはロイの返事を聞く前に体を離し、ユーリたちへ「ロイをお願いします」と頭を下げた。ユーリはその姿に慌てて「いや、むしろ俺たちお世話をしてもらう身なんで!!?」と返して、その頭をリリーに叩かれている。ダンと神父はそんな三人を見て笑っていた。
ロイは自身の世界が姉と自分だけで構成されていると考えている。実際今もそうだと考えている。しかしロッタの言葉で、行動で、ロイの胸は息苦しさでいっぱいになった。原因なんてわからない。わかりたくない。知らない感情が、喉元まで上がってきたが最後まで音が出ることはなかった。
「さて、アンタたち馬鹿してないで出発するわよ」
リリーの一言にユーリは頷いた。
「それじゃあ、行ってきます」
四人は神父とロッタに、手を振りながら進んでいく。
二人は四人の姿が見えなくなるまで、その背中を見送った。




