信奉者の宝物-10
ユーリの質問にロイは静かに頷いた。それを見たユーリは心底理解できないとでも言うように顔を歪ませた。なぜ頑なに姉の願いを叶えようとするのか、いくら家族といっても自分ではないから他人だ。二人で支えあって生きてきたからと、好きだからと理由を並べ立てたところで「殺してほしい」と乞われて「殺します」となるやつが目の前にいるが、普通にありえないだろう。ユーリは落ち着くために小さく息を吐いた。そして一つ疑問をロイへ投げかけた。
「じゃあ、お姉さんを殺した後はどうするの?」
ロイはユーリの質問が理解できなかったのか首を傾げた。
ユーリがミレイと過ごした時間なんて弟のロイに比べたら0と言っても過言ではないだろ。冷たいことを思うが例えロイがミレイを殺したとしても、ミレイに対しては少し悲しいと思うだけでそれ以上は何も思うことはない。ただ、ロイが大好きな姉を殺してしまったという点については悲しく、そして止めることができなかったことに対して罪悪感が生まれるだろう。
ミレイのことを大好きなロイは、ミレイがいなくなった世界で生きていけるのか?いや、生きていけないだろう。
——この反応からして、殺した後のことなんて考えていなかったんだろうな。
ロイは「殺した後?……ねーちゃんが、死んだあと…?」とブツブツ呟いている。まるで親とはぐれて迷子になった子どものような表情にユーリは「あー……」と声を出しながら自身の頭を搔いた。
「ねぇ、ロイ」
ユーリの静かな呼びかけにロイは口を閉じ、のっそりと仕草で顔を上げた。
「……大切な、好きな人の願いを叶えたいって思いは素晴らしいものだと思う。でもさ、それで君が苦しむことになるなら止めた方がいい」
口を開こうとしたロイに、ユーリは椅子から立ち上がりロイの両肩を力強く掴んだ。ロイは痛いのか眉を寄せた。
「そんなことをしたって、二人とも幸せになんてなれないよ。叶えたくない願いなら叶えないが絶対にいい。だってロイの人生は、ロイだけのものだ。君が幸せになれないなら意味がない」
「……ぼ、くは、」
「君自身の幸せをよく考えるんだ。幸いなことに猶予はまだあるからね」
ユーリはロイの肩から手を離して「夜遅くにごめん、じゃあ明日からよろしくね」と言葉を残しロイの部屋から出て行った。ロイは肩の痛みとともに部屋に置いていかれた言葉を思い返していた。
「……僕の、しあわせ……」
男の子の呟きはポトリと床に落ちた。




