信奉者の宝物-7
1年前より何かを決意した表情で、目線が少し下で、伸びた髪の毛を結び、変わらない声の温度にロイは自分の視界が歪んでいくのがわかる。
「ロイくん、おねぇちゃんは答えを選びました」
ミレイの緊張したような、硬い声にロイは唾を飲み込んだ。
「おねぇちゃんはいきます。ですから、ロイくん。最果ての城まで私を殺しに来てくださいね」
彼女の口からでた「最果ての城」という場所にユーリたちは目を見開いた。
最果ての城——現在、魔王が根城にしている場所であり、ユーリたちの目的地でもある。
「ちょ、ちょっと待って!」
ユーリはロイとミレイの、二人の世界に割り込むように声を上げた。
「あら?あなた、誰かしら?」
まるで今存在を知りましたと言わんばかりのミレイの反応に、ユーリは困ったように頬をかきながら軽く自己紹介をした。
「俺はユーリって言います。えっと姉弟の話に口出すのは申し訳ないけど、最果ての城まで殺しに来てほしいってどういうことですか?」
「……お前には関係ない。僕とねーちゃんの邪魔しないで……」
「ごめんね!でも、俺たちも最果ての城に用があるからさ」
二人のやりとりを見ていたミレイが笑いながら「二人とも仲良しさんですねぇ」と、さきほどの「殺しに来て」という発言が嘘のように、ほんわかと笑っている。
「笑ってないで理由を教えなさいよ」
「あぁ、是非ともお聞かせ願いたいな」
リリーとダンに続くように神父も「私も気になるな」と、口元に笑みを浮かべている。
「んー……一言で言うなら、私は魔王様の仲間になったということです」
ミレイの表情は仲間になったというには誇らしさはなく、かといって無理やり仲間にさせられた恐怖の色もない。喜びと、わずかな悲しみがそこにあった。
「理由は……教えてくれないよね」
「はい、乙女の秘密です」
ミレイは、ユーリ、ダン、リリー、神父、そしてロイの顔を順番に見つめ息を小さく吐いた。
「私はみんな、いえ人類の敵になったのです。みなさんの到着を最果ての城でお待ちしております」
そう宣言して恭しく頭を下げる姿は、以前見た魔王敏腕秘書のモールトの姿と重なった。ゆっくりと顔を上げたミレイは神父を見つめた。
「今まで私の好きなようにさせてくれて、ありがとうございました」
「感謝されるようなことはなにもしていない。お前はお前の人生を歩んでいるだけだ。生きている姿を見られて嬉しく思う」
「ただ人類の敵になったとしても、自分殺しを弟に頼むのはよくないがな」と肩をすくめた神父に、ミレイは静かに微笑んだ。
次にミレイはユーリたちに向き直った。
「こんなお願いをされても困ってしまうかもしれませんが、あなたたちも最果ての城へ行くのでしたら、ロイも一緒に連れて行ってくれませんか」
「連れていく以前に、私たちがあなたを捕まえるとは考えないのですか」
「あなたたちは、私をここでは捕まえませんよ」
「どこからそんな自信が湧くのかしら」
「私がここで捕まる、もしくは死んでしまった場合は、転移魔法が強制発動し魔物がこの町を襲います」
それはハッタリではなく、事実をあるがままに口にしているようであった。
「わかりました!責任をもって。ロイと一緒に最果ての城に行きます」
「ちょっと!ユーリ、なにかってに宣言しているのよ!」
リリーの怒りをダンは「どうどう」と落ち着かせている。
「もともと、神父さんにも頼まれていたことだしね!」
「そうだけど……」
ミレイに頼まれる前に神父からも、ロイを連れて行ってほしいと頼まれていた。ならここでミレイを捕まようとするより、ロイを連れて行く方が彼女を捕まえるよりも簡単で、町を危険に晒すことは無いと断言はできないけど、可能性が低いことは確かだろう。
「ありがとうございます!」
ミレイは本当に嬉しいのか、花が咲いたように笑った。その笑顔にユーリは胸が高鳴りそうになったがロイが打ち消すかのように、ユーリの足を思いきり踏みつけた。
「~~~~~~っ」
突然の痛みに声が出そうになったユーリであったが——叫ぶのを我慢!と咄嗟に自身の唇を嚙んで耐えたのだが、目の前の可愛い女性はすでにロイを見ていた。
「ロイ、また離れますが最果ての城で待っていますからね」
「……僕もねーちゃんと一緒に行くのは……ダメなの?」
「ダメです」
ミレイのキッパリとした否定に、まっすぐと姉を見つめていた視線が下へ向かった。姉から言われた1年が過ぎれば、また一緒に暮らせると、生きていけると思ったのに離れることになるなんて考えていなかった。それでも彼女が望むのであれば、したくないと思いを飲み込んで一歩を踏み出すしかない。
「わかったよ……」
「さすが私の自慢の弟です」
覚悟を決めた弟を、姉は力強く抱きしめた。抱きしめたのはもう11年も前のことだ。あれから大きくなった体。大きさは確かに変わったが、それでもミレイの中でロイは小さくてかわいい弟だ。最後にもう一度抱きしめる腕に力を込め、その腕をほどいた。
「それでは一足先に、私は最果ての城に行きますね」
パンパンと2回ミレイが手を叩くと、ミレイの横に黒い穴が開いた。「失礼いたします」と一礼してから黒い穴に入っていった。そしてほどなくして黒い穴は消えた。
穴があった場所を見つめ続けるロイの横顔を、ユーリはただ静かに見つめた。




