魔術師の初恋-6
リリーは駆け出した二人の背中をぼんやり見ていた。
先ほどのモールトの言葉が頭から離れない。
廃棄。
殺すではなく廃棄という言葉にリリーは自身について、ある一つの考えを、ずっと悩んで、苦しんでいた答えを見つけてしまった。
リリーの始まりは、この雪山ではない。ある城で、とある男と住んでいた。その男はよくリリーに魔法を教えていた。師匠のような人物であった。リリーにとって短くも確かに幸せな日々であった。
自分には父も母もいないが、物心ついた時から師匠がいてくれたから、寂しいなんて感じることなどなかった。
しかし、リリーの幸せな日々は突然終わりを迎えた。
夜眠って、起きたら知らない町にいた。いつもの部屋ではなく、知らない町の、知らない教会にいた。老齢の神父は「門の前で倒れていたところを保護した」と説明した。リリーの頭の中には捨てられたという言葉で埋め尽くされた。最初は悲しくて、寂しくて、辛くて堪らなかったが皆がリリーに優しくしてくれたおかげか、彼女は笑顔を見せるようになり人と関わるようになった。
そして、リリーは知ってしまった。自身の異質さを。
リリーを保護してくれた老齢の神父は出会ってから数年後に亡くなった。老衰であった。近所に住んでいた年下の女の子は綺麗な女性に成長し、隣町の男性のもとへ嫁いでいった。リリーと同じぐらいの子どもや年下の子らも成長し、変わっていった。そして、リリーに優しくしてくれた大人は死んでいった。
しかし、リリーだけはまるで写真のように変わることなく存在し続けた。老いることないその体は町の人には恐ろしいものに映った。
———あの子、ずっと変わらなくて不気味だわ。
———そうよね、気味が悪いわ。
————ママ、こわいよ
———……人間じゃないのかしら?
————でも、転んだ時に赤い血が流れていたぞ。
————私が子どもの時から、あの姿よ。
————やっぱり人間じゃないんだわ。
————あの赤い髪の毛も不気味だ。
人は自分に理解できないものは排斥する傾向がある。自分たちが傷つけられる前に、その原因になりえるものを排除しよう動き出す。
———やめて!
———黙れ!バケモノ!
———やだ!!やめて!!いやぁ!!!いやあああああああああああああああああああああ
リリーは、とある日に燃やされた。それは町の人全員の意思であった。綺麗な赤色から聞こえる断末魔は彼女の終わりであった。燃えて、燃えて、燃えて、真っ赤に燃えた彼女は、かすかに残った骨と灰だけであった。町は去った脅威に安堵の息を吐いていたが、それも束の間灰が動き出し、そこから何かが飛び出てきた。
それは右腕であった。
灰から白い右腕が伸びている。さらに左腕も出てきて、ソレはゆっくりと灰の中から這い出て来た。美しい赤い髪の毛を揺らし、リリーは変わらない姿でそこにいた。
そう彼女は燃やされたはずなのに死ななかった。いや、確かに灰と骨になっていた。灰と骨は、まるで巻き戻しのように、その体を元に戻し呼吸を再開させた。
リリーは町が恐怖で混乱しているうちに走り出した、走って、走って、走って、この冷たくも美しい世界に着いたのだった。




