魔術師の初恋-4
雪山 中
「はぁい。みなさま、お目覚めの時間ですよ」
女の声だ。どこか馬鹿にしたような、こちらを軽蔑するような、どこかで聞いたことあるような、そんな声がした。リリーとユーリは突然現れた第三者の声により飛び起きた。
「あなた誰よ!」
リリーの鋭い声とともに、壁の蠟燭に一斉に火が灯った。
「————」
ユーリは突然現われた女の姿を見て、息を飲んだ。
夜を思わせる艶やかな髪の毛を、後ろ三つ編みでまとめ、真っ黒なスーツ。腰から太もも、そしてお尻のラインがくっきりとわかるタイトスカート。ストッキングも真っ黒であり、履いているパンプスも黒い。上から下まで黒で統一されている、その効果なのか女の肌は雪のように白く見えた。けど、一番目を引くのは女の紅い目だ。こちら見ているような、今ではないもっと先を見ているような目だ。
「フロー……リア……さま?」
この世界であり神。ユーリをこの世界に「自分を救ってほしい」と異世界転生させてくれた女にそっくりだった。いや、そっくりどころか、本人のように見える。
「フローリアだって?この女が?」
リリーはユーリの発言に顔を歪める。神話では、この世界を創造したとされる神はフローリアだが、おとぎ話のような話だ。だが、もし本当に目の前の女がフローリアであるなら、いやフローリアじゃなくても、この世界を作ったものであるなら話したいことが、聞きたいことがあった。リリーが女に対して口を開こうとしたとき、女は弾けるように後ろに体を反らし「あははははは」と笑い出した。
ユーリとリリーは声を出して笑う女に、どこか冷たさを感じ一歩下がった。
「わたしが、ふふ、わたくしが、フローリアですって?それは、それは、なんて、」
反った体を戻し女の真っ赤な目が二人を捉える。二人は背中に直接氷を入れられたような、冷たさが体中を駆け巡った。
「なあんて、おもしろい冗談なのでしょうか」
邪悪。
少女のような愛らしい笑顔だ。愛らしい笑顔と頭で認識しているのに、心はその笑顔を邪悪と判断する。そのちぐはぐの感想に二人は恐怖で体を動かくことができずにいた。
「お初にお目にかかります。わたくしは、魔王様の敏腕秘書。名前をモールトと申します。以後お見知りおきを」
言葉が終わるとともに、モールトは頭を下げた。
——敏腕秘書って、自分で言っちゃうんだ……
しかし、その流れるような美しい所作は、敏腕かどうかの事実はわからないが、確かに「仕事すごくできそう」という印象を二人に与えた。
「それで、魔王様の秘書がここに何の用なのかしら?」
「そうでしたわ。わたくし、リリー様に用がございましたの」
「アタシに?」
「えぇ、そうでございます」
モールトはリリーに向かって静かに手を差し出した。
「リリー様の知識、そして有り余るその生命の時間を魔王様のために、使用していただきたいのです。つまりは、スカウトですわ」
「アタシをスカウト……ですって?」
「えぇ、そうでございます」
「え″?!」
今までこの空間を支配していた恐怖や、緊張感がユーリの一声で気が抜けていくのがわかった。二人は白けたような顔をして、ユーリを見た。
「リリーをスカウトされたら困るよ!だって俺たちがこの雪山に来たのはリリーに仲間になってもらうためなんだから!」
「あなたもアタシをスカウトしに、この雪山に来てたのね……」
緩んだ空気にリリーは小さく息を吐き出した。
「残念だけど、アタシはどっちの仲間になる気はないわ。帰ってちょうだい」
二人の誘いをキッパリと断ったリリーに対して、ユーリとモールトは「えぇー」と声を上げた。
「アタシはこの雪山から絶対に出ないわ」
まるで梃子でも動かせないような確固たる意志が声に宿っていた。
「そうでございますか。それでは、しょうがないですね」
モールトは、わざとらしく肩をすくめて数歩後ろに下がった。
「魔王様よりスカウトに失敗した場合は、速やかに廃棄するように言われております。ですから、リリー様は今この場で廃棄させていただきます」
「はい……き……?」
殺すのではなく、廃棄。
その言葉にリリーは目を見開いた。
「廃棄って、どうゆうこと……?」
「廃棄は廃棄でございます。それ以上もそれ以下もございません」
モールトのはっきりとした返答に、リリーは膝から崩れ落ちた。まるで真っ赤な花弁が一斉に地面に散っていくようだ。
「ついでに、そこの坊やも一緒に殺して差し上げますから悲しまないでくださいませ」
「えっ!俺も!」
「魔王様の邪魔するものは事前に摘んでおかないと」
モールトはパンッパンッと2回手を叩いた。すると、モールトの横の空間に黒い穴が開いた。「まさか……」
「えぇ、えぇ。リリー様なら、すぐ気づくと思っておりました」
リリーの驚愕の声に、モールトは嬉しそうに笑った。
「えっと……説明して、ほしいなぁ」
ユーリの空気の読めない発言に、モールトはニコリと笑って口を開いた。
「わたくしの横の黒い穴は転移魔法でございます」
「転移魔法?」
「そうでございます」とモールトは大きく頷いた。
黒い穴の中から何かが地面を這いながら進む音が聞こえてきた。ユーリは放心しているリリーの前に庇うように立った。
そして、それは穴
か
ら
這
い
出
て
き
た




