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ありきたりな物語に花束を  作者: 梅木しぐれ
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近衛兵の後悔-7

アンポス村 広場


 昨夜のユーリの不安と裏腹に天気は快晴で、気持ちがいい風も吹いていた。

「さて、朝ごはんも食べたし、出発するか」

「そうだね」


村から出ようとしたその時、

《 《 《 カンカンカンカンカンカンカンカンカン 》 》 》

                          金属音が村中に響いた。


「なんだ?!」

 辺りを見渡すとそこにはソレがいた。薄汚い黄色で、その顔は豚を連想させる。人間よりも一回りも、二回りも大きな体。

「オークだ!オークが出たぞ!!逃げろ!!」

  男が村中に聞こえるように叫んだ。

 ——おいおい、やっぱりフラグじゃねーか!

 村中が自分たちの危機に気づいたのか、一気にパニックへ……と思いきや以前襲われたことを教訓に訓練していたのか自警団を中心として避難を始めていた。

 それでも、自警団では避難が終わるまでオークを釘付けにするなんてできない。順番にやられるだけだ。

 気づいたときにはユーリの足は走り出していた。

「!おい、ユーリ無闇に突っ込むな!ゴブリンとは違うんだぞ!!」

 ダンの静止の声も聞こえていないのか、ユーリの足が止まることはない。

 なぜなら、避難誘導をしているクリスの背後に腕を振り上げたオークがいる。止まってなどいられない。

「クリスさん、危ない!!」

「?!君は!」

ユーリを襲ったのは、今まで感じたことのない衝撃と重さであった。まるで空から落ちてきた岩を受けとめているような気持ちだ。だが走ったままの勢いでクリスにぶつかったおかげで、クリスは地べたに転がったが致命傷に至る怪我はしていないようだった。

「ぐぅっ……!」

 ——このままだと、押し負ける!

 ユーリは飛び出したことに後悔はないが、この物語が始まったばかりなのに終わりそうなことに後悔を感じていた。

 異世界転生をし、とにかく体を鍛えた。どう考えてもこの物語の主人公は自分である。と信じて疑っていなかった。だって神様から直々に『世界を救ってくれ』って言われたら誰だってそう思うだろう。

 しかし、今。自分の命に手がかかっている。その事実に——俺は、やっぱり、ダメなのか?この世界でも、なにもできないまま死ぬのか?——そんな考えが思考を埋める。


「うおおおおおおお!!!」


 ドサリ。

 ユーリの思考を切り裂くように、腕への重みが消えた。

「ユーリ!無事か!!」

「ダン!!!」

 重みが無くなったのはダンがユーリを押さえつけていた腕を、その大剣で切り落としたからであった。

「クリス!速く立て!」

「!あ、あぁ!」

 クリスが立ち上がると同時に、オークは自分の腕が切り落とされたことに気づいたのか「アアァァアアアアァア!!!!」と鼓膜が破れそうなほど叫んだ。

「オークは私たちが押さえる!」

「だが!」

「村人優先!俺たちは大丈夫ですから!」

 クリスは息を飲んで、すまないと謝り逃げ遅れた村人がいないか走り出した。

「さぁ、説教は後だ。先にコイツを倒すぞ!」

「説教は勘弁!」

 二人は仕切り直しというように、オークと向き合った。

 先に動いたのはオークだった。残った腕を二人まとめて横の家に叩きつけるように側面から素早く腕を振る。

 ユーリは後ろに下がり、ダンが家を壊されないように剣で受け止めた。

「さっきのお返しだ!」

 先ほどのダンのように腕を切り落とそうと外側から斬ろうしたが、オークはそれに気づきダンがいる自分の内側ではなく、外側にいるユーリに腕を動かした。

「まじか!?うっ!!」

 ユーリは避けることができず、オークの腕がみぞおちに入り、そのままの勢いで向かいの家にぶつかった。

「っ!!」

 家にぶつかり、背中を強打した。肺に取り込んだ空気が一気に口から出るが、吸うこともできず呼吸が止まる。

「ユーリ!!!」

 ユーリに駆け寄ろうとしたダンの動きを止めるように、上から押し潰すように手を振り下ろした。ダンはそれを受け止めることなく、横に避けてユーリに駆け寄った。

「ユーリ!大丈夫か!!意識はあるか!?」

「いっ、てて」

 なんとか意識があるユーリに安堵のため息を吐いたダンであったが、一気に自分のあたりが暗くなったことに気づいた。

「しまった!」

 オークが自分たちの真後ろにいた。

 ユーリとダンを今度こそ一緒にペチャンコにするかのように、振り上げられた腕を見て死を感じた。


こつん


 小石がオークの頭にぶつかった。

 その場いた誰もが動きを止めた。

 ダンが小石を飛んできた方見ると、

「クリス……?」

そこには汗だくで足が震えているクリスの姿があった。

荒い息を落ち着かせることなくクリスは口を開いた。

「村人、ぜんいん……ひなん、した!」

 クリスは、その言葉伝えるためだけにここに戻ってきたのだ。自分が死ぬかもしれない恐怖の中、自分たちを守ってくれている青年と己の友人の心に応えたい一心でこの場に来た。

「馬鹿!逃げろ、クリス!!」

 ダンは喉が切れるほど叫んだ。

「へ?」

 オークはクリスに狙いを変えたのか、じりじりとクリスに近づいている。クリスは恐怖でその場に尻もちをついた。

 ダンは急いで立ち上がった——ダメだ!間に合わない!クリスとオークの間には入れない!!——それでも諦めるなんてことできなかった。

 ダンは走る。

     ただ走る。

        友人を思って走る。


 ダンは気付いた————自分の息子が、レイ・ブラウンがなぜ彼を助けるために走ったのか。


 ダンは気付いた————ユーリが、よく知りもしない彼を助けるために走ったのか。


 ダンは思い出した———自分も同じだったことを。


「クリス!!!!!」

 ダンは少しでもオークの動きが止まるように剣を、オークの背中から突き刺した。

「ここで、友人を守れなくて何が国一番の兵士だ!!」

 あまりの痛みにオークはその場で暴れ、鼓膜が破れるほど絶叫する。まるで、駄々をこねる子どものようだ。だが、途端にオークがその動きをピタリと止めた。そしてダンの顔に生暖かい液体が降ってきた。不思議に思い上を見ると頭に剣が突き刺さっていた。後ろ振り向くとユーリがなにかを投げた後のような姿で立っていた。

「ストライク」

 ユーリのその呟きと同時にオークは黒い塵となって消えていった。



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