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ありきたりな物語に花束を  作者: 梅木しぐれ
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プロローグ

「おめでとうございます!」

 女の声だ。どこか馬鹿にしたような、軽蔑するような声を混ぜた女は目の前で座り込んでいる男に向かってわざとらしく祝福するように拍手を送った。

 男は自身の置かれた状況が理解できず困惑していた————なぜなら男はとある理由で先ほど死んだばかりだからだ。

 自分の意識があることにも、目の前でにこやかに笑う女にも、このよくわからない空間にもついていけないでいた。

「あなたさまは選ばれたのです。この世界を救う救世主に!」

「きゅう……せいしゅ……?」

「えぇ、そうでございます」

 女は男の呟きに笑みを深める。

「わたくし、この世界であり神なのですが。ほんの少しだけ問題がございまして……このままいくと、わたくし早くて百年後に死んでしまいますの」

 男は胸の奥が静かに、でも確かに熱くなっていくのを感じていた。

「ですので、どうかあなたさまの手でわたくしを救ってくださいます?」


 その一言で男は理解した————【異世界転生】したのだと。



「これは契約です。あなたさまはわたくしを救う。そしてわたくしは、あなたさまに力を与る。まさにギブアンドテイクの関係ですわ。もちろん、わたくしを救った後はあなたさまのお好きに生活していただいて構いません」

 女がパチンと指を鳴らした途端、男の前に一つの真っ赤な林檎が現れた。どこか血を思わせる濃い色は艶やかに光反射させ作り物のように見える。しかし芳醇な香りが作り物ではないことを脳に伝えていた——一口食べただけで後戻りできないと確信させる。

「さぁ。覚悟がきまりましたら召し上がって」

 男は考える——自分は死んだ。でも、生きていた。世界を救うなんてことできるのか?この目の前の林檎を食べたら後戻りはできない。いや、自分は死んだのだから後戻りできる場所なんて無いじゃないか——男は林檎を掴み、齧った。

 シャキ、シャクリと林檎を咀嚼するたびに感じる瑞々しさと溢れ出る蜜が男の喉を潤していく。男は一口、また一口と休むことなく齧りつく。


 己の世界に別れを告げるように、新しい世界に期待するように————


 「契約完了ですね。それではあなた様のお名前をうかがっても?」

 男はその問いで目の前の女を改めて認識した。

 先ほど自身のことを『この世界であり神である』と自称した女は、ゲームや漫画に出てくるような煌びやかな見た目をしていなかった——夜を思わせる艶やかな髪の毛を、後ろ三つ編みでまとめ、真っ黒なスーツ。腰から太もも、そしてお尻のラインがくっきりとわかるタイトスカート。ストッキングも真っ黒であり、履いているパンプスも黒い。上から下まで黒で統一されている。その効果なのか女の肌は雪のように白く見えた。けど、一番目を引くのは女の紅い目だ。こちら見ているような、今ではないもっと先を見ているような目だ。

「わたくしの話、聞いてます?もしかして今更、わたくしの美しさに見惚れておりまして?」

 男は女の問い素直に首を縦に動かすと「ま!素直なこと!」とわざとらしく驚いた。ゴホンと、これもまたわざとらしく咳払いした女は先ほどと同じ問いを男にした。


 男の口が開かれる。


 その男の名は————








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