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第83箱


 無事にお茶会が終わってから一週間ほどたちました。

 そろそろ秋の第三月も終わりを迎え、冬の第一月がやってきます。


 今年の越冬祭は、冬の第二月、第二週に行われるそうですから……あと一月とちょっとほどでしょうか。

 

 サイフォン王子にはお茶会の日の夜に、ティノさんとの約束や、お茶会の場でわざわざ伏せた理由などをメモに綴っていつものように送りました。


 また、ティノさんにも送り箱に関するザックリとした内容をメモしたものを送ってあります。

 中に入れたモノがすぐに私の元へ届く――というより、入れておくとそのうち私の元へと届く、程度のふわっとした説明にしましたが。


 そんなティノさんですが、隙を見てはこちらに手紙をくれているようで、とても助かっています。


 今のところ過激派たちはかなり慌てているようですね。


 輸送隊襲撃に関する情報を、ダンディオッサ侯爵がもたらすのが遅かったこと。

 またその内容が、サイフォン王子や宰相であるお父様が集めたものよりも薄かったこと等により、陛下より苦言を呈されたそうですね。


 そのことが噂として広まり、いささかダンディオッサ侯爵の立場が悪くなっているようです。


 そしてターキッシュ伯爵ですが……。

 襲撃の失敗や、ダンディオッサ侯爵の立場が悪くなりかけていることに、いっそう奮起しているそうですよ。

 それにより、過激派の中にも、暴走組に同調する人たちも増えているようなのですよね。


 それに対して、ターキッシュ伯爵は同志が増えたと喜んでいるようですが……。


 ターキッシュ伯爵は、ダンディオッサ侯爵の立場が悪くなった原因の一端を自分が担っているという自覚がないようで、手紙の文字からも、ティノさんが頭を抱えている様子が伺えました。


 何と言いますか、フラスコ王子派とは名ばかりに、自分たちが好き勝手やりたいだけの人たちであることが徐々に見えてきた気がします。

 純粋にフラスコ王子を推したいから、派閥にいる人たちってどれくらいなのでしょうか……?


 ともあれ、王城内の情報がサイフォン王子とティノさんからもたらされるものだけというのも良くないので、私も覗き見することにしましょう。


 とりあえず、王城の中の見聞箱をてきとうに梯子して――おや、フラスコ王子とティノさんが、廊下を歩いてますね。


 進む方向的にはフラスコ王子の自室へ向かう途中でしょうか?

 王子とティノさんが並んで歩き、従者のブラーガが一歩先を歩き、護衛のピオーウェンが一歩後ろに着いています。


『……クソ』


 どうにもフラスコ王子は機嫌があまり良くないようで。


『殿下、何度も言ってますが、万人が全てを納得できるというのはありえないのです。ましてや私と殿下の婚約に至るまでのアレコレは決して褒められるものではないのですから、尚更です』

『だからとてッ! ティノが軽んじられるだけならまだしも、罵倒や陰口などというのはどうかッ! 何故堂々と言いに来ないッ!』


 なるほど。荒れている原因は、ティノさんに向けられた陰口の類ですか。

 ただまぁティノさん本人も言ってはいますけど、婚約破棄からの婚約という形でティノさんを迎えてますからね。


 苛立つのは分かるのですが、少々当たり方が筋違いとも言えます。


 それに見かねたのでしょう。

 ピオーウェンが自身の青色の髪をガリガリと掻きながら、口を開きました。


『周囲に人も居なさそうだし、護衛じゃなくてダチとして言わせてもらいますがね、フラスコ殿下』


 そこでフラスコ王子は足を止め、振り返ります。

 みんなもそれに併せて足を止めました。


 フラスコ王子に側でピシっとしている時は軽薄さがありながらも騎士らしい雰囲気のピオーウェンですが、フランクに声を掛ける様子はどこか下町の兵士か何でも屋という感じです。

 庶民の小説によく出てくる、主人公を気にかける気の良いアニキが実際にいたらこんな感じなのでしょうか?


『ティノちゃんが軽んじられている原因は、お前さんがコナ嬢ちゃんと、正規の手順を踏まず婚約破棄したコトにあるんですよ。そこは自覚しといてくださいよ』

『ならばこそだッ! そうであるならッ、悪し様に言われるべきはオレではないのかッ!? なぜ皆はティノばかりを標的にするッ!?』


 貴方が王族であり、立場的にも状況的にもティノさんが攻撃しやすいからです――という言葉だけでは納得しそうにない雰囲気ですね。ピオーウェンはどう答えるのでしょう?


『激昂ごもっとも。でも、もうちょっと声を抑えてくれませんかね』


 こめかみを押さえ困ったようにそう告げるピオーウェン。恐らくは、理由を説明する為の言葉を選んでいるのでしょう。

 そんなピオーウェンをよそに、従者ブラーガが言いました。


『殿下の言う通りです! 分からないなら、むしろ直接聞いてしまえばどうでしょう? 答えられないなら、大した理由はないんですよ、きっと!』

『なるほど。ブラーガ、それは一理ありそうだ』

『いやいやいやいやいや』

『殿下ちょっと落ち着きましょう』


 それに慌てて待ったを掛けるのはピオーウェンとティノさん。


 フラスコ王子が直接問いただすとなると、理由があろうと無かろうとみんな言い淀むことでしょう。

 何より、事情はどうあれそこを理解できないとなれば、それだけで王族としてどうなのだと思われかねません。

 

『ピオーウェンさん、ティノさん、何で止めるんですか?』

『いつものコトながら煽るなよ、ブラーガ。お前さんの提案は貴族として問題行為だ。余計に殿下とティノちゃんの立場を悪くする』


 この光景がいつものことだとすると、ティノさんがいなかった時のピオーウェン……とても大変だったのでは?


『どうしてだピオーウェン? 他人を悪し様に言うコトを問いただすなと言うのか』

『殿下のそういう王族らしくないとこ、ある意味美徳だと思うし俺は好きなんですがねぇ……そうも言ってらんないのが王侯貴族ってもんですから』

『殿下、お気持ちだけ頂戴しておきます。

 迂闊な行いは殿下のお立場をなお悪くするコトになります。今は堪えていただければと』

『何を言っているんですかティノさん! せっかく殿下が怒ってくれると言うのに!』

『ブラーガ君、ほんと少し黙っててくれる?』


 あ、ティノさん――笑顔のわりに、こめかみのあたりに青筋が立ってますね。結構怒っているようです。


 それにしても、なんといいますか――ブラーガは、彼自身に悪意はなく、純粋にフラスコ王子の為に発言しているんでしょうけど……。

 どうにも、フラスコ王子を煽っているようにしか思えないのですよね。


『ブラーガ。お前はもう少し貴族を学べ。平民の常識を前提にした励まし方をするな』

『それは平民出身の僕に喋るなってコトですか』

『言ってねぇよ。だが、そう聞こえたってんならなおのこと喋るな。

 今が貴族の常識を語るべき時か、平民の常識を語るべき時かをちゃんと選べ。自分の言葉が結果としてどういう影響があるのかを考えろって話をしてんのよ、俺は。

 そこに貴族も平民もない。人として、立場を持つ者として、自分の行動に責任持てよってコトを、俺は言いたいの』


 ピオーウェンの方もやや苛立っています。

 でもピオーウェンの言う通りなんですよね。出身がどうあれ、主に仕える従者であるならば、その立場に相応しい言動と振る舞いが必要というだけです。


 そして、立場が存在する以上はそれを考慮して動かなければならないというのが王侯貴族。例え引きこもりであろうとも、動こうとすれば立場を把握した動きが必要となるのは、私が痛感している通り。


 その前提を考えた時、ブラーガの言動というのは、自覚があろうとなかろうと、フラスコ王子を煽ってしまっているものです。

 フラスコ王子のことを思い、自分が思うままに発言し、行動しているのかと思われますが――それがどういう結果をもたらすかの視点が足りていません。


 だから……でしょうね。

 カチーナもサバナスも、ブラーガを見る目が非常に険しいんですよ。


『もういい』


 そんな三人のやりとりを見ながら、フラスコ王子は獣が唸るような声色

で言いました。


『腹が立とうが苦しかろうが――オレは、動かない方が、いいんだな?』

『そうしてくれませんかね。それがお前さんだけじゃなく、ティノちゃんを守るコトに繋がりますんで』

『いいだろうピオーウェン。ティノを守れるという言葉、信じるぞ』


 どうやら収まったらしい状況に、ティノさんとピオーウェンは揃って息を吐きます。


 ただ、フラスコ王子の機嫌が直ったわけではありません。

 映像からだと分かりづらいですがどうやら、フラスコ王子は風を集め出したようです。


『殿下……何かに当たる時に魔法を使うのやめましょうよ』

『うるさいッ!』


 ピオーウェンの注意を振り払い、フラスコ王子は苛立ちをぶつけるように、手のひらに集めた風の塊を、狙いも付けず反対側の壁の方へと投げつけました。


 こういう悪癖を目撃されて、余計に変な噂が立ってしまうのですけど、堪えられないのでしょうか……。


『きゃっ……!?』


 そして放たれた魔法は、廊下を歩いていた女性にあたってしまうのでした。



 次回更新は木曜日の20時予定です!٩( 'ω' )و

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― 新着の感想 ―
[一言] この性格では傀儡として担ぐのにもむいていない、名君の素質があるわけでもない、フラスコ王子派はなにがしたい人達なんだろう。
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