表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/127

第81箱


 最初こそちょっとフレン様のお叱りがあったものの、二人が席について以降は和やかな感じです。


 フラスコ王子も、建国祭の時のような食いかかってくるような話しかけ方はしてきません。


 今もまじまじと『(わたし)』を見つめるフラスコ王子の姿は、好奇心に満ちたものです。


「純粋に疑問なのだが、お前の魔力量はどうなっているんだ?

 その『箱』が魔法で出来たモノであるならば、常時維持し続けるには限度があるはずだろう?」

「あらぁ、言われてみるとそうねぇ……」

「確かに。当たり前のように常に箱だったから気にもしなかったが……」


 王家親子三人から不思議そうな眼差しを向けられた私は、心の中で両手を挙げながら答えます。


「魔法の研究と……共に、魔力量の向上も、行いましたので」

「身体的成長と共に増えていく以外に、増やす方法があるのかい?」


 サイフォン王子の問いに、私は「はい」とうなずきました。

 あまり有名ではありませんけど、調べれば意外と出てくる話です。


「魔力は、使えば使うだけ……保有容量を、増やせ、ます……。

 特に魔力切れを、起こすと……その後に一気に増えます……よ」

「……モカ様、どれだけ魔力切れを起こしたんですか?」

「コメントは……差し控え、させて……頂き、ます」


 ティノさんからの疑惑の視線に、私はそれだけ返します。


 夢中になって色々試していたので、常時展開が当たり前にできるようになるまでは、ひたすら魔力切れで倒れてましたから。

 それを口にすると、流石に色々と言われてしまいそうですので……。


「複数の魔法を常時維持をしながら日常生活を送っているようだしね。

 恐らくは、もはや常人では想定できないくらいの魔力量になっているコトだろう」


 ニッコリと笑うサイフォン王子ですが、どことなく威圧を感じます。

 婚約したからには、阿呆な理由で魔力切れを起こさせないぞ――という強い意志を感じなくもないです。


 魔力が切れると意識も切れることが多いですしね。

 それでなくても、魔力切れというのは危険であるという認識が世の中にはあります。

 でも実際のところ魔力が切れて神の御座に招かれるようなことはありません。

 戦場で魔力が切れると危険という話が、次第に魔力切れは危険という認識に変化していっただけでしょう。

 そう考えると、サイフォン王子は心配しすぎだと言えるかもしれません。


「魔法の研究も良いのだけれど、魔力切れで倒れるような危ないコト――あまりして欲しくないかな?」


 そこから続く茶目っ気のある笑顔は、本心半分からかい半分……でしょうか?

 言いたいことは分からなくもないですが、でもちょっと納得がいかないところもあります。


 そういう話をするのでしたら、こちらも反撃させてもらいますよ!


「それなら、サイフォン殿下も……あまり、危険なコトはしないで、欲しいです。

 先日はお忍びで……出かけた先で、大怪我しそうに……なってました、よね?」

「それについては直後に、手紙で謝罪をしただろう?

 そもそもケガなどは一切しなかったのだから、謝罪をする必要があったのかも分からないのだが」

「あらぁ……」


 口を尖らせるように反論してくるサイフォン王子でしたが、フレン様が何とも言えない声をあげてました。


「は、母上?」

「まったく殿方というのはこれだから……。

 コンティーナちゃんもそう思わない?」

「ええっと、はい……そうですね」


 フレン様から急に同意を求められて、ティノさんもおっかなびっくりうなずきます。


「思わず蒸し返したくなっちゃうくらい心配していたんでしょう、モカちゃんは。

 それをサイフォンときたら、謝罪が必要だったかどうかも分からないだなんて口にしてぇ……」

「ですが母上、王族とはいえ、何かあれば戦場に出るものでしょう?

 それでいちいち心配したり怒られたりするのも、困るのですが?」


 それに反論――というより思ったことをそのまま口にしているのでしょう――したのは、フラスコ王子です。

 まぁ言いたいことはわかりますし、現実的にはそうなのでしょうけど……。

 ただ、このタイミングでその発言は、ちょっとよろしくないかと。


「あらぁ、フラスコまでそんなコトを……。

 本当にもう、待たされる方の身にもなって欲しいのだけれど……」


 笑いながら睨むという器用なことをしながら、フレン様は二人を見ます。

 その状況に耐えられないのでしょう。

 あるいは、フレン様からお叱りが本格的に始まる前に話題が変えたかったのかもしれません。


 サイフォン王子は――やや強引ながら――私を見ながら訊ねてきました。


「魔法といえば、モカの箱魔法は多種多様な姿形や効果があるようなんだが、どうやってそんなに増やしたんだい?」

「あ、それは私も気になります」


 ティノさんも興味津々なのか、少し身を乗り出してきます。あるいはこれ以上、フラスコ王子がうっかり余計なことを言わないように……という意図もあるかもしれませんが。


 ちらりと、フレン様を見ると――誤魔化されてあげましょうという顔をしていました。

 これなら、ふつうに返答しても良いでしょう。


「基本的には、『願い』と『イメージ』ですよ。

 こういう変化が欲しい。こういうのが理想。そう思いながら、魔法を色々と……動かすんです。繰り返して、いるうちに……何となく、閃いたりコツを掴めたり、します。

 ただ、同じ火属性でも、火の玉を作って投げるのが得意な人と、竜の吐息のように炎を放射するのが得意な人……といった具合に、偏りはありますから。

 自分がどういう風に、変化をさせるのが……得意なのかを見つけると、新しい使用方法を……見つけやすい、かもしれないです。

 基本的には、今できるコトからの……派生、ですので」


 普段の喋りよりも滑らかに口が動いた気がします。

 得意分野の話になると早口になる人がいると聞きますが、私もまさにそのタイプなのでしょう。


「まぁ中には特殊な環境に身を置いたり、あまりにも強い願いや、イメージを抱いたりすると、後天的に属性が、変化したりもしますが」


 カチーナは完全にそのタイプです。

 元々風属性だったのですが、幼少期に森でサバイバルをせざるを得なかった為、風で音を捉え危険に備えているうちに、魔法が音に関することへと特化。やがて今の音属性へと変わっていったそうです。


 サイフォン王子は一瞬チラりとサバナスを見やったのを思うに、サバナスもカチーナ同様に後天的変化をしたタイプなのでしょう。


 ところで、侍従って属性変化が必須なんでしょうか……?

 いえ、二人が変化しているのはたまたまなのでしょうけど、身近に多いとついついそう考えちゃいますね。


「属性変化が生じなくとも、使い続け……鍛え続けていれば、やがて……他の誰もマネできない、唯一無二の魔法に……なりますよ。理論上は……ですが。

 火属性でありながら、金属にしか……作用しない炎を扱う鍛冶師さんの伝説とか、ご存じありませんか?

 調べてみたところ、事実だったようでして……」


 ――と、ここまで口にしたところで、フレン様、ティノさん、サイフォン王子、フラスコ王子が四者四様にこちらを見ているのに気がつきました。


「あらぁ、モカちゃん……魔法のコトとなるといっぱい喋るのねぇ」

「ぁ……ぅ……」


 急激に恥ずかしくなってきて、私は椅子の上で膝を抱えて小さくなります。

 い、勢いとはいえちょっと調子に乗って変なことを語りすぎたかもしれません。


「何だ? 箱がカタカタ揺れ出したぞ」

「恐らく、唐突に冷静になったコトで恥ずかしくなってきたのかと。

 以前にも似たようなコトがありましたしね。あの時は緊張のせいだったようですが」


 サイフォン王子ッ! 冷静に分析しながら、フラスコ王子の疑問に答えるのやめてください! ますます恥ずかしくなりますので!


「大丈夫だよ、モカ。

 君が楽しそうに魔法について語ってる時の声。本当に楽しそうで、私は好きだから」


 ……っっっっ!


「サイフォン。逆効果だったのではないか? 揺れが激しくなったぞ?」

「違いますよ、フラスコ殿下。

 さっきまでの恥ずかしさ故の揺れと、今の恥ずかしさ故の揺れは別モノですから」

「……違いが分からん」


 あああああ――……解説しないでください、ティノさんッ!

 もう……今は、自分が何に対して恥ずかしくなってきたのか分からなくなってきてるんですから……ッ!!


「あらぁ、フラスコはもう少しその辺りの機微に聡くなった方がいいかもしれないわねぇ……」


 あ、穴があったら入りたい……。

 いえ、すでに箱の中には入っているんですけど……。


「そうじゃないと、コンティーナちゃんにも愛想尽かされちゃうかもしれないわよ?」

「なッ!? そ、そうなのかッ、ティノ!?」

「いや、それはその……えーっと……」


 ティノさんにも水が向けられ、フラスコ王子が焦った様子を見せます。

 それに対して、ティノさんもどう答えるか悩んでいるようで……。


 フレン様、なんか楽しそうに見てますね……。

 この状況――もしかして、狙って作り出しました?


 だとしたらどこから計算して……。

 いえ、そんなことよりも――


「ふむ。ちゃんと意識はしてくれているんだな。嬉しいよ」


 そんな状況でサイフォン王子は、本当に嬉しそうに、それでいて余裕そうに笑っていました。


 わ、私だけこんなに恥ずかしくなってしまうのは、なんだかズルい気がします……!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【引きこもり箱入令嬢の外箱】
公爵家のメイドは今すぐ職場に帰りたい
ラニカが主役のアクション系外伝です

巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~
本作、第一部の悪役令嬢ルツーラによる魔性式の日からやりなおし物語。
そして引きこもらなかった箱入令嬢の物語でもあります。


書籍版【箱入令嬢シリーズ】
講談社 Kラノベブックスf より発売中
【箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚】
2022/10/3発売です!٩( 'ω' )و
引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズ版【引きこもり箱入令嬢の結婚】コミックス
1~7巻発売中!٩( 'ω' )وこちらもよろしくお願いします!
コミカライズ引きこもり箱入令嬢の結婚


コミカライズも連載中です!
毎週月曜日0時更新
講談社女性向けコミックアプリ palcy

毎週火曜日11時更新
ニコニコ漫画 水曜のシリウス

毎週水曜日12時更新
ピクシブコミック

毎週日曜日0時更新
マガジンポケット



他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~現代学園RPGのヒロインに転生しましたが主人公(HERO)とイチャラブしたくないのでルート回避したい。でも世界は滅んでほしくないので奮闘してたら未知のルートに突入しました~
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~
約束守りの図書館令嬢



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ