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第9箱

本日も二話公開。

こちらは本日の一話目です。


レビューを頂きました٩( 'ω' )وありがとうございますッ!

またブクマ、評価をしてくださったみなさん、ありがとうございますッ!


 基本的に魔性式は、参列者全員が魔法を授かるまで、礼拝堂から外へ出ることはできません。

 なので、儀式を受ける前にいた場所へとみんな自然に戻っていきます。


 私もみんなと同じです。

 無意識のうちに、先ほどまでいた隅っこに向かっていました。


 儀式中に頭に思い浮かんだ、私の魔法を司る『箱』という言葉について考えていたせいで、その場所で待っているものについては考えず、さっきまでいた隅っこへと戻ってきてしまったのです。


「あ」


 そこには、先ほど私に声を掛けてきた少女ルツーラとその取り巻きが、まだ待っていました。


 いやもう本当に、なんでこの場に留まっていたんでしょうか、この人たち。


「お帰りなさいませ、どのような属性を授かったのかしら?」


 皮肉たっぷりな顔で聞いてくるところ申し訳ないのですが、そもそも属性というのは言いふらすものではありませんからね。

 両親からも、授かった属性は言いふらさず、他人から聞き出すこともしないようにと、事前に言われています。


 使い方を教わる為に両親や兄弟、魔法の講師などの身内。

 騎士や冒険者たちのように、自分の背中を預けるような相手。


 そういう人たちの間での属性情報交換こそ成立しますが、見ず知らずの初対面の相手にそれを開かすというのは基本的にありえません。

 これは何も貴族同士の話ではなく、貴族と平民の間でも同じです。


 身分を介さない女神からの授かりモノであり、その属性は授かった本人以外知りようがない方法で与えられる。

 それ故に、無理矢理に聞き出すことは、女神の配慮を無視する行いである――という理由から、この国でのマナーになっているのです。


「…………」


 そんな理由から、特に答えずいると、彼女はこちらを見下したような視線のまま重ねて聞いてきます。


「私、順番を意味する言葉、『順』という希少属性を授かりました。

 貴方はどうだったのですか?」


 聞いてもいないことをペラペラと口にしているようですが、私は完全に無視をして(きびす)を返し、場所を変えようとしました。


 ところが、取り巻きの一人が私の肩に手をおいたのです。


 その取り巻きに視線を向けた時、ちょっと怒気や殺気が混ざっていたのでしょう。私の肩に手をおいた女の子の顔がひきつっていました。


「私が聞いているのですから答えたらどうですか?」

「…………」


 ……面倒くさい――というのが、この時の私の本音です。

 本音も建前もマナーも通用しそうもない相手と何を話せばいいのでしょう。


 どうせ何を答えても気にくわないでしょう。

 こちらを下に見ている以上、どれだけ正しい理屈で注意をしようとも彼女は怒って、こちらに対して危害を加えてくることが明白です。


 そんな相手をどうしろというのでしょう。

 将来的にはこんな人たちと何度も向かい合わなければならないというのであれば、私は人付き合いなんてしたくありません。


 同じ魔性式に参列している以上、今後の誕生季に関連するパーティや儀式などのイベントごとの度に彼女と出会うことでしょう。


 それのなんと面倒なことでしょう。

 その都度、本を踏まれるかもしれないし、ドレスをバカにされるかもしれないと思うと気が滅入ってきます。


 彼女でなくとも、彼女と同じ思考や行動をする者だっていることでしょう。


「貴方は上に立つ者を気取っているのに、下の者を見下すばかりで、上に立つ者として正しい姿を見せるコトができないのですね」


 だからでしょう。

 私はその場の勢いで、思っていたことを口にしてしまいました。


 まぁ彼女の態度は、伯爵令嬢として自分より身分が低い者に対するいつも通りの姿なのでしょう。

 ――で、あるならば、こういうことを言われてしまっても仕方がないだけの行いをしているのです。


 ただここでも、私には大きな誤算がありました。

 大人であれば怒り任せに何かをするようなことはないので、こういう直接的な皮肉も時に効果があるのですが、相手は子供だったのです。


 いやまぁ当時の私も、子供ではありましたけどね。


「いい加減にしてくださいませッ!」


 それはこちらの台詞です――と思わず言い返したくなるような言葉と共に、ルツーラはこちらへと乱暴に手を伸ばしてきました。


 私に口答えされたのが気にくわなかったのでしょう。


 当時から運動能力が低い私には、その手を躱すことは出来ず、彼女の手が私の抱えていた本に触れたのです。


 その瞬間、私の心は嘆きに満ちました。

 ここで奪われれば、こんどは完全に本をダメにされる。

 自分には防ぎようがない。本を持って外へでると本をダメにされてしまうんだ。


 ああ――……

 それなら、もう、いっそ……外になんて出なければいいのでは?


 嘆きの中で生まれた解決策は、とてもとても魅力的なモノにも見え――


「そこまでだ」


 そんな現実逃避じみた思考から、私を現実に引き戻したのは男の子の声でした。


 声の主だろう男の子は、横から手を伸ばし、ルツーラの手首を掴んでいます。


「君の行い……少々目に余るぞルツーラ嬢」

「何なのですか、貴方は? 私は……」

「君がどこの令嬢だろうがなんだろうが、魔性式において身分は関係ない。親や教師から習わなかったのか?」


 柔らかな金色の髪がサラサラと揺らし、宝石のように綺麗な翡翠色の瞳を鋭く、その男の子は告げます。


「だがそれでも、君がマナーを無視して身分を笠に言葉を口にするのであれば、私も自らの名を口にしよう」


 ……カッコいいと、素直に思いました。

 偶然だろうとなんだろうと、まるで物語の中の英雄のようなタイミングで現れた彼は、ルツーラの手首を掴んだまま、自分を示します。


「サイフォン・ロップ・ドールトール。

 この名を聞いて、なおも己が行いを貫けるならば貫くがいい」


 この瞬間の驚きは、今でも鮮明に思い出せるほどです。


 ドールトール。

 この国において、国と同じ名前の家名を名乗ることが許される者は、限られます。


 即ち王族。


 さすがのルツーラも、顔を青ざめさせます。

 魔性式でのイザコザは、家名も伏せられている上に子供同士のやりとりだからと、保護者たちも軽くみていることが多いとはいえ、さすがに王族が出てくるとなると、すこし話が変わるのでしょう。


 まぁ、本来であればサイフォン王子が自ら名乗るようなこともまずは無いので、ルツーラの自業自得といえばそれまでなのですけれど。


 ……王子越しにこちらを睨まれても困ります。

 何故、お前程度の奴が王子に守られているのだ――という恨みがましい視線を感じますけど、それをこちらに言われてもやっぱり困ります。


「ルツーラ嬢。

 魔性式の場において、身分は秘匿されるものだ。故に身分を明かすコトも、身分を笠に着るコトも許されない。

 またこの国において、他者に魔法属性を問いかけるのは、身分問わずにマナー違反でもある。

 君は伯爵令嬢として、些か不勉強がすぎるのではないか? よもやご両親がそれを知らなかった、教えてくれなかったなどとは言わぬよな?」


 さすがは王子――というべきか。

 彼もまた、それなりに大人との社交経験があるのでしょう。


 その言い回しは、大人を思わせるもので、皮肉も効いています。

 もっとも、ルツーラがその言葉が正しく理解できたかは分かりませんが。


「…………」


 ルツーラは何とも言えない顔をしたあと、手からチカラを抜きました。

 それを確認してから、王子もルツーラの手首から手を離します。


「モカ・フィルタ……でしたわね。覚えてなさい」


 そう口にすると、ルツーラ嬢はその場から去っていくのでした。


 ようやく人心地ついて息を吐いた時、サイフォン王子はキラキラと輝くような笑顔を浮かべます。


「いやぁ彼女――君が自分よりも上の身分の人間だって知ったらどんな面白い反応するんだろうね?」

「そういう確認の仕方も、マナー違反なのではありませんか?」


 思わず私がそう返すと、彼は僅かな間、キョトンとしてから、その通りだと笑いました。


 そんな王子に私は丁寧に一礼します。


「助けていただき、ありがとうございました」

「どういたしまして」


 これが私とサイフォン王子の最初の出会い。

 向こうはすっかり忘れてしまっているかもしれないけれど……。


 この出来事以来、私は無意識のうちにサイフォン王子の情報を追いかけるようになってしまっていたのです。




 これ以後は、特に何かトラブルに巻き込まれることはなく、無事に魔性式を終えたのですが――




「『箱』……『箱』か……」

「はい、『箱』です……」


 自宅に戻ったあと、魔法の指南をすると申し出てくれたお父様は、私の授かった属性を聞いて、頭を抱えるのでした。


 ……いやまぁ、抱えますよね。ふつう。



次話は本日の20時頃公開の予定です。

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