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第79箱


 フラスコ王子のやらかしを聞いて頭を抱えていたフレン様でしたが、ややして復活。


「ティノちゃん」


 少し真面目な顔をしてフレン様は、彼女に呼びかけます。


「そんな状況でよくここまで立ち回れたものだわ。

 貴女は間違いなく冷鉄の淑女の娘よ。ウラナちゃんが褒めないのであれば、その点をわたしがいっぱい褒めてあげるわ」


 その言葉に、コンティーナ嬢は何を言われたのか分からなそうに、キョトンとした表情を浮かべました。

 ややして、じわじわと理解が及んでいったのでしょう。

 万感の思いが花開いたかのような笑顔を浮かべます。


「ありがとう、ございます……!」


 それは間違いなく本心からのもの。

 誰かを陥れたり、誤魔化したり、媚びを売ったりするものではない、心からの顔だと、分かるものです。


「あらぁ、そんな嬉しそうにされると、私まで嬉しくなっちゃうわね」


 クスクスとフレン様は笑い、それから改めて真面目な顔をしました。


「ティノちゃん。貴女が持ってきた情報の代価。何が欲しいのかしら?」

「すでに、お伝えしてある通りです」


 コンティーナ嬢も表情を引き締めて、改めて告げます。


「両親との連座回避。それが第一です。それがどのような生き延び方であっても」


 その結果が、奴隷でも娼婦でも構わないと先ほど言っていましたね。ただそのぐらい、今の状況から生きて抜け出したいのでしょう。


 逆に言えば、この場でどれだけフレン様や私と仲良くなったとしても、彼女は連座が避けられないようならば、容易にこちらを裏切ることは間違いありません。

 それならそれで、指名手配されようとも、生き延びる道を探すはず。

 彼女からは、そんな強固な意志が感じられます。


 そのことから変に裏切られてしまうような状況を作らないように、彼女を味方に付けてしまうのが一番だと思うのです。


「あらぁ……わかったわ。陛下や宰相と交渉してあげる」


 フレン様もきっと同じことを考えたのでしょう。

 野放しにするよりも取り込むべきだ、と。


「本当ですかッ!? ありがとうございますッ!」


 交渉するというだけでこれだけ目を輝かせるのです。

 彼女は本当に後がないと思っているのでしょう。


 だからこそ、フレン様のする交渉を確実なものにする為の材料をそろえつつ、彼女を確実にこちら側につけたいところ。

 これまでの立ち回りからして、コンティーナ嬢は非常に優秀な方ですから。敵に回ってしまうのは非常に厄介な方なのは間違いありません。


 ――そこで、私は思い付いた言葉をがんばって口にします。


「なら……コンティーナ様は、サイフォン王子派だった……という、コトで」

「は?」


 私の突然の言葉に、コンティーナ嬢は素っ頓狂な声を出しました。


「ついでに……実は、私と……通じてた、というコト……に、しましょうか」

「いや、えっと……あの、モカ様?」


 困惑するコンティーナ嬢を余所に、フレン様も瞳を光らせました。


「あらぁ、なるほど。環境に逆らえないけれど、その中で気づかれないようにこっそりこっそりモカちゃんと連絡を取っていた。

 そのおかげで、様々な事件を事前に察知し、対策を取れてきたワケね!」

「その事実を、フレン様は……このお茶会で、知った……というコトで」

「ええそうね。その通りだわ。あらぁびっくり」

「このお茶会で、コンティーナ様は……もう限界だと訴えました。

 そのコトを……私も気づいて、いなかったので、驚いたのです」

「あらぁ、モカちゃんも知らなかったのね。大変だったのねぇティノちゃん」


 ――と、いうワケで事実がでっちあげられました。


 こうして彼女は、過激派の実働隊という働きをする傍らで、常に私へ情報を提供していた間諜ということになります。


 その情報を私がお父様や陛下、あるいはサイフォン王子に流していたのです。


 彼女が情報源の一つであるということを明かせば、その情報を利用していた方たちは、そう悪いようには扱わないことでしょう。


「他に知っていたのは、カチーナ……と、サイフォン殿下だけという……コトにしましょう。

 サイフォン殿下とは、あとで口裏を……合わせる、という……コトで」


 この設定を事実として扱うなら、彼女そのものは大丈夫でしょう。

 ターキッシュ家がお取り潰しとなり、爵位はなくなってしまうかもしれませんが、彼女自身は無事に生き延びれるはずです。


「……というワケだから、カチーナ」

「かしこまりました」


 カチーナがうなずくのを確認してから、私はコンティーナ嬢に告げます。


「――そんな感じで……どうでしょう?

 口裏、合わせて……くれます、か?」


 それに対して、コンティーナ嬢は戸惑ったままうなずきました。


「それは……はい。

 でも、あの……モカ様は、どうして……」


 すぐに協力してくれたのか――って話でしょう。

 そうですねぇ……私としては、彼女が味方でいてくれると、ダンディオッサ侯爵やニコラス様への布石になりそうだからというのがあります。


 でも、その辺りのことは多少ボカしておきたいので……。


「一つは、まずは報酬……です」

「報酬?」

「襲撃事件の件、教えてくれた……では、ありませんか。

 情報、提供の……報酬、です。そういう契約、だったでは……ありませんか」


 もちろん事前の契約なんてありはしません。

 ただ、そういうことにしましょう、という話です。

 コンティーナ嬢であれば、読み取ってくれることでしょう。


 今のコンティーナ嬢の行動は、生き延びることを最優先にしたものです。

 貴族的な利益であったり、倫理観などを重きに置いた交渉をしても恐らくは通用しないでしょう。


 だから少しストレートに答えた方が響く気がします。


「もう一つ……私にとって、貴女が生きているコトが、利用価値に……なるから、ですね」

「喋るのを苦手とされているわりにハッキリ言うのですね」

「こういう……関係の方が、気がラク……なのでは、ありませんか?」

「…………」


 その上で、お互いそれなりに対等でいようと提案です。


 コンティーナ嬢からすると、この交渉。

 不利で無茶な要求を代価にされるかもしれないと、覚悟をしていることでしょう。


「なので……貴女も、私を……利用して、ください」


 利害の一致によるギブアンドテイク。

 お互いがお互いに対して筋を通して利用しあう限り、それぞれが裏切らないようにしましょうという対等の約束です。

 貴族――というよりも、裏社会の考え方に近いものですが、今の彼女にはこちらの方が良いでしょう。


 しばらく考えていたコンティーナ嬢は一つうなずいて、手を差し出してきました。


「わかりました。お互いに不利益が生じないように利用しあうとしましょう」


 そこで、私が手を出せないと考えたのか、所在なさげに手をわきわきと動かしています。

 箱から、手を出すくらい造作もありませんよー。


 私が箱の側面から手を出すと、コンティーナ嬢もフレン様も驚いたような顔をしました。

 そんな驚くようなことでしょうか?


 ともあれ、私が箱から手を出した意味を理解してくれたコンティーナ嬢は、その手を握ってくれました。


「交渉、成立……ですね。コンティーナ様」

「はい。よろしくお願いします。

 それと、ティノで構いません」

「分かりました、ティノ様」


 そんなワケでコンティーナ嬢改めティノ嬢いえティノさんと握手を交わします。

 これでとりあえず、ティノさんが簡単に裏切るようなことにならないはずです。


 その様子を眺めていたフレン様は、やりとりが一区切りついたところで、ティノさんに声を掛けます。


「それじゃあ、聞かせて貰ってもいいかしら?

 ティノちゃんが私たちにくれる情報というのを」


 彼女はそれに一つうなずくと、背筋を伸ばしてそれを告げました。


「襲撃に失敗したお父様たちは――越冬祭の時に、サイフォン殿下暗殺を計画しています」




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