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第78箱


「わたしは今、死なない為に死に物狂いなんです」


 驚く私たちに対して、決意表明するかのようにコンティーナ嬢はそう言いました。あるいは言い放ったというべきでしょうか。


 清々しいまでにキッパリと告げられた言葉。

 それが間違いなく本心であり、彼女の根幹や芯にあるものだと分かるからこそ、私は自分の中に生じた疑問を訊ねます。


「あの、コンティーナ様……。

 貴女の意志は、理解しました。だから……こそ、訊きたいコトが、あるのですが」

「モカ様? なんでしょう?」

「どうして、フラスコ殿下の……婚約者に、なったのです、か?」

「あらぁ! 確かにそうね。私も気になるわ!」

「あー……」


 以前、グラス伯爵とのやりとりを盗み見していた時にも、少しだけ口にしていました。

 本意ではなかった、と。

 だからこそ、余計に気になってしまいます。


 死にたくない――が本心なのだとしたら、さすがに王子との婚約はリスクばかりでリターンが乏しいことのように思えるのです。


「いくつかの事情と、想定外が重なった結果といいますか……」


 コンティーナ嬢は少しの間、天井を仰ぎます。

 かなり複雑な出来事の結果だったのでしょうか。どう説明するかを少し考えているのでしょう。


「まず、キッカケはモカ様です」

「え?」

「建国祭での挨拶で、世論は一気にモカ様を注目しました。

 結果、サイフォン殿下の支持が高まります。これは平民だけでなく貴族においても、です」


 そのことに関する実感は確かにあります。

 城下で箱ブームとかになってるほどですし。


「フラスコ殿下派閥――特に過激派は、そのコトに焦ったんです。

 だから、モカ様への嫌がらせ……あるいは暗殺を企んだ」

「あらぁ……でも、失敗した。いいえ、そもそも実行できなかったのね」

「フレン様の言う通りです。

 何せモカ様の情報は、『箱』以外ほとんどありませんでした。

 それでも暗殺くらいは――と実行した者もいたようですが」


 そういう情報、拾いそびれてたのでしょうか。

 全然気づきませんでしたね。


「暗殺者とか……来た?」


 思わず私がカチーナに訊ねると、彼女は少しだけ困ったような顔をしてからうなずきました。


「事前に察知していた旦那様が、暗殺者が動く前に、準備用のアジトもろとも対処しました」

「さすが、お父様……」


 私の情報収集もまだまだなようです。

 そういうところも完璧に収集して、お父様のように事前に潰すくらいのことはしたいものですね。


「全てが秘密裏での処理だったようなので、事情を知っている私も口止めをされておりました。申し訳ございません」

「そういう、コトなら……仕方がないよ」


 ……あれ?

 ところで、何でカチーナは知ってるのでしょう?


 それを問おうとしたのですが、こちらの会話が一区切りしたと判断したコンティーナ嬢が続きを語り始めます。


「ともあれ――そういう事情で上手くいかなかったので、まずはモカ様の情報をもっと収集しようとなりました。

 そして……提案した人は冷静さを失っていたのでしょう。その為に、フラスコ殿下に近づけばいいというコトになりました」

「サイフォン殿下……ではなく?」


 聞き返す私に、うなずくコンティーナ嬢。


「サイフォン王子が心許す相手の条件が良くわからなかったというのもあったんだと思います」


 そう言われると確かに――と思わなくはありませんけど、でもそこからどうやって私に近づくつもりだったのでしょうか?


「過激派の中でフラスコ王子と年回りの近い女性を――というコトでわたしに白羽の矢が立ちました。

 やる気は無かったのですけど、それを突っぱねられるだけのモノをわたしは持っていませんからね。

 父やその同志たちから頼まれると、断る手段がありませんでした」


 あー……ここまでくると分かってきます。

 コンティーナ嬢は終始断る手段がない為、過激派の中でもどうしようもない案を出してくる一派の依頼を受け入れざるを得なかったのでしょう。


 なまじ、その無茶な依頼をこなせてしまうだけの能力をコンティーナ嬢が持っていたこともまた、不幸だったのかもしれません。


「とりあえずは、フラスコ殿下と友人となり、あわよくばサイフォン殿下とも仲良くなれれば……程度の雑な作戦をまるで名案であるかのように聞かされ、わたしは送り出されました」

「あらぁ、それは何といいうか……」

「出会いの機会等は、作ってくれたのですか……?」

「ないですよ、そんなの。

 送り出したら見守っているからがんばれ。上手く行かないともっと上手くやれって叱られるのがだいたいのパターンです」


 しかし何と言いますか……コンティーナ嬢が属している暴走一派があまり露見しなかったのって、もしかしなくても、彼女がひたすらがんばっていただけなのでは……?


「そしてある日、フラスコ殿下に出会いました。

 ただ、王族であるコト以上に、人間として目に余る行動を取られていたので、思わず声を掛けて――」

「声を、掛けて……?」

「勢いでお説教してしまったんですよね――王族、貴族、平民といった立場の話ではなく、フラスコ様という一人の人間の品格の問題です。そこに身分は関係ありません。今の振る舞いは身分がどうこうではなく、人間としての格が下がります――って」


 魔法こそ放たなかったものの、お城勤めの使用人女性にかなり理不尽な当たり方をしていたそうで。


「あらぁ……母親としてお礼を言わないといけないわねぇ。

 然るべき時に叱ってくれてありがとうね、ティノちゃん」

「いえ……。

 わたしもそうやって叱って嫌われれば、過激派たちからの微妙な期待からは逃れられるだろうと、そう思ったんですけど……」


 コンティーナ嬢はそこで言葉を切りました。

 でも、続く言葉はだいたい予想が付きます。


「何故かとても気に入られてしまいまして……気が付くと、フラスコ殿下の従者であるピオーウェン様やブラーガ君と一緒に行動するコトが増えてしまいました……」


 遠い目をするコンティーナ嬢。

 何というか、本当にどうしてそんなことになったのでしょう……。


「まぁ、ともかく。

 その状況に気をよくした父は調子にのって、いっそ婚約者になってしまえ。母譲りの美貌があれば男なんて誘惑し放題だろと言われてしまいましてね……。

 いやまぁ最悪、父だけならまだ許容したんですけど、何か父の同士たちのみならず、過激派の人たちからもやたらと期待を寄せられてしまいまして……。

 家の家格で見れば下のはずの子爵家や男爵家の当主たちからも、なんかやたら上から目線の命令口調で指示されたりして……」


 文句の一つも言いたかったようですが、お父様であるターキッシュ伯爵がそれを注意したりすることもなかったせいで、受け入れざるを得なかったようで。


 ちなみに、その格下の方々の態度が、あまりにも腹立たしかったので、顔と名前は完全に一致させた上に、いつかやりこめてやるリストまで作って、色々と準備だけはしていたそうです。強い。


「それでもまぁ色仕掛けするフリだけして、今の関係の維持に留めようって思ってたんですけどね。

 ただ――まだ誘惑の類を一切していないタイミングで、とんでもない誤算が発生してしまいまして……」


 途方に暮れたような、諦めの境地のような顔をするコンティーナ嬢に、フレン様は何か察するものがあったようです。


「あらぁ……それは、何というか大変申し訳ないというか何というか……」

「いえ。フレン様……婚約者でもないのに、殿下に誘われてホイホイとパーティに顔を出してしまったわたしが悪いのです」


 二人のやりとりで私も理解ができました。


「フラスコ殿下……そのパーティで、コナ様に婚約破棄を一方的に言い渡した上に、横にいた私を抱き寄せたのです」

「……あらぁ……」


 いや、ほんと――何をやっているのですか、フラスコ王子……ッ!?





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