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第77箱


「あらぁ……ティノちゃんからの話を聞く前に、確認したいコトがあるのだけど」

「はい、なんでしょう?」


 あまり大きな声ではありませんでしたが、ハッキリと口にしたことでスッキリしたのでしょう。

 コンティーナ嬢は晴れた様子で顔を上げ、フレン様を見ます。


「貴女のお母様ってウラナちゃんよね? 彼女のご実家はカフヴェス子爵家で間違いないかしら?」

「その通りです。母をご存じで?」

「同世代だしねぇ……。

 貴女のお母様はね。若い頃は、冷鉄(れいてつ)の淑女なんて呼ばれてたのよ。

 こう言っては何だけど、常に明るく振る舞って本心を隠す私とは真逆な方だったわ。

 冷静沈着で無表情。何事も冷徹に淡々とこなす姿は、クールを通り越した凍える才女って感じの人だったの。

 女性から見ても羨ましく思える容姿ながら、寒色を好んで身につけてて、その上で雰囲気がそんな感じだから余計に氷の彫像じみてたわ」


 まるで感情がないのではないかというほど、変化の乏しい顔は鉄仮面と揶揄されていたこともあったそうです。

 その上、一度だけモノを凍らせる魔法を披露したことがあった為に、そんな二つ名が付いてしまったのだとか。


「……っとと、あらぁ……ごめんなさい。

 貴女のお母様のコトを悪く言うつもりはなかったのだけど」

「いえ。今の母から想像できなくて、むしろ新鮮なお話でした」

「あらぁ、そうなの?

 ともあれ、私のイメージはそんな感じの人だから、ずっと疑問に思っていたのよね。過激派に傾倒する旦那様を何故止めないのか、って」


 確かに。

 フレン様からのお話を聞く限り、コンティーナ嬢とお母様と聞けば納得できそうな方です。


 そんな方が傍に居るなら、ターキッシュ伯爵もあまり無茶はしない――というかさせないような気もするのですが……。


「フレン様の言う冷鉄の淑女――そう呼ばれた母は、恐らくもうどこにもいません。

 わたしが幼い頃はまだ多少、そういう面もありましたけど、今はもう……。

 どんな我が侭も許容してしまう父に溺れ、冷静さを失い、鉄仮面を捨て、才能にも背を向けて……残っているのは容姿くらいです。

 その容姿までも失ってしまえば、残るのはただの肥えた豚かと」


 コンティーナ嬢は嫌悪を隠すことなくそう口にしてから、ハッとしたように顔を上げました。


「申し訳ございません。少々、お聞き苦しい言葉を……」

「あらぁ、気にしなくていいわよ。

 でも……そう。あの方は娘からそんな風に言われるようになってしまっているのね。

 今でも冷鉄の淑女でいたのなら、社交界では、ラテと並び称されていたかもしれないのに、もったいないわ」


 私のお母様は完璧な貴族夫人だとか、社交界の華だとか呼ばれているそうですからね。

 そんなお母様と友人であるフレン様が、並び称されても不思議ではないと言うのです。コンティーナ嬢のお母様であるウラナ様というのは大変優秀な方だったのでしょう。


 ただそれも過去のもの。

 コンティーナ嬢の話が本当であれば、見る影もなさそうです。


「でも、納得したわ。

 それなら、ターキッシュ伯爵を止めたりはしないのでしょう」


 あるいは、止められるような冷静さは、もう発揮されないのでしょう。


「なので、わたしの今いる環境というのが、両親は過激派。後ろ盾も過激派。しかも父の周辺にいる過激派は、特に女神の意向を無視して勝手に飛び交う使徒たちですので……」


 ただでさえ過激派の中にいるのに、周辺にいるのはダンディオッサ侯爵の手綱から勝手に離れて動く人たち。

 なるほど。さすがに嫌気も差してきますか。


「正直に言ってしまいますと、わたしはまだ神の御座に行きたくないのです。

 ですが、父がダンディオッサ侯爵という後ろ盾の意向を無視して好き勝手して自滅に向かう以上、連座の可能性が付いて回ります」


 確かに、コンティーナ嬢が望む望まない関わらず、ターキッシュ伯爵が何かやらかしてしまえば――しかもそれが、王家を害するようなことであれば、家族……下手すれば一族みんなが連座で処されてしまう可能性が高いです。


 あるいは――先日の襲撃を思えば、もう逃げ切るのは難しいでしょう。


 そうなればダンディオッサ侯爵だって、梯子を外します。

 あれは勝手に暴走しただけです。止めたのに止まりませんでした、と。

 そして、先日のニコラス様とのやりとりからして、その言葉はすでに陛下へと届いているはず。


 一番の後ろ盾から梯子を外されていることに気づかないで動いているのですから、コンティーナ嬢は焦っていることでしょう。


「神の御座に行きたいのであれば勝手に行けばいいんです。

 貴族爵を剥奪されようと、最悪、違法奴隷や違法娼婦に堕とされても構いません。

 例え末路がそれらであっても、命尽きるより遙かにマシです。わたしはまだ神の御座には行きたくありませんので」


 とんでもない発言が出てきて、私は思わず目を見開きます。

 フレン様やカチーナもはっきりと驚いた顔をしていますね。


「わたしは今、死なない為に死に物狂いなんです」


 驚く私たちに対して、決意表明するかのようにコンティーナ嬢はそう告げました。




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