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第76箱


 フレン様とのお茶会は二度目。

 だからでしょう。部屋にいる従者のみなさんは、恐る恐るではありますが、それを感じさせないよう気を使って『箱』の上にお茶やお菓子を置いてくれます。


 その様子を不思議そうに見てくるのは、コンティーナ嬢。

 確かに、見慣れない人には何やってるのか疑問が湧くのかもしれません。


 ……身近に物怖じしない人や、馴れすぎてしまってる人が多すぎる気がしないでもありませんが。


「あらぁ、やっぱりティノちゃんも興味ある?」

「興味と言いますか何といいますか……」


 戸惑い気味にのコンティーナ嬢に、フレン様は笑いかけ、それから自分のお茶とお菓子を口に入れ、私たちに薦めてくれます。


「間近で見ると面白いですね」


 お茶とお菓子が『箱』に沈み込む様子に驚きながらも、どこか感心した様子のコンティーナ嬢。


 こうやって見ている限り、ふつうの女性なのですよね……。

 もちろん、これまでの動きを見ているので、警戒はするにこしたことはないのですけど。


 先日のグラス伯爵にした時のような身振り手振りによる視線誘導や、魔法を用いた何かをする様子もなく、ただお茶をしながら雑談に興じているだけ。

 私がちょっと警戒しすぎなのでしょうか……?


 そうして話題が一区切りしたところで、少しだけフレン様が真面目な顔をして切り出します。



「あらぁ。もうだいぶ場も温まってきたかしら?」


 フレン様がチラリとコンティーナ嬢に視線を向けました。


「それなら、ちょっとだけ真面目な話、よろしくて?」


 その視線にコンティーナ嬢が首肯したところで、フレン様は告げます。


「はい。大丈夫、です」


 私も問題ないのでそう答えました。

 それを確認すると、フレン様は小さくうなずいてから、コンティーナ嬢へと改めて視線を向けて問います。


「あらぁ、大丈夫そうなので訊くわね。

 どうしてティノちゃんはフラスコではなくサイフォンを通して、今回のお茶会の打診をしてきたのかしら?」


 え? お茶会のキッカケはコンティーナ嬢??

 しかも、フラスコ王子経由でなく……?


 いつの間に――と思いましたが、恐らくは先日のお忍びの時でしょう。

 直接口頭で声を掛けずとも、こっそりとメモか何かを手渡すチャンスは多々あったはずです。


「実は、助けて頂きたくてこのような手段を取らせて頂きました」

「あらぁ? 助ける?」

「はい」


 コンティーナ嬢は真っ直ぐにフレン様を見据えて、覚悟を湛えた様子で首肯しました。


 助けて欲しい――その言葉を私は反芻します。


 何から彼女は助かりたいのか。

 これまでの彼女の行動。彼女の言動。


 ……あ。


 それを思い返していくと、一つだけ脳裏に閃くように仮説が思い浮かびます。

 その仮説が正しいとなれば、彼女の行動にある程度筋が通るかもしれません。

 わざわざ手に入れた場所に関して嘘を付いてまで、ダンディオッサ侯爵に見聞箱を渡したのも、それが理由だとするならば、理解できます。


 だとしたら……。


「カチーナ」

「はい」


 突然、私が自分の従者の名前を呼んだからでしょう。

 フレン様とコンティーナ嬢は不思議そうにこちらを見ます。

 それを気にせず、私はカチーナへと指示を出しました。


「防音の、結界を。

 対お父様用……のモノで、お願い」


 その言葉にカチーナは少し目を開き、確認をしてきます。


「それですとこのサロン全体をカバーするのは難しいですよ?」

「分かってる。だから、この……テーブルの、周りだけ」

「お嬢様、フレン様、コンティーナ様を包めばよろしいのですね?」

「ええ」


 カチーナの確認にうなずいてから、私はお二人へ告げます。


「コンティーナ様の、立ち位置から……推察して、その方が良いと、判断しました。ただ、魔法の都合……カチーナは共に、結界の中にいる必要が……あるコトだけは、ご了承ください」


 二人が私の言葉を了承したのを確認してから、カチーナが『(わたし)』を見てきます。

 それにうなずくと――うなずいてから思いましたが、これカチーナからは見れませんよね? でも分かってはくれたようで――、カチーナは魔法を発動します。


 一瞬だけ耳の奥にキーンとくる感覚のあと、周囲の音が聞こえなくなりました。


「外の音は……入ってこれず、中の音は……出ていかない。そんな、結界となって……おります。

 同時に……この結界の中で発生した音は、盗聴の魔法や……魔心具を使っても、無音に聞こえます」


 ただし、見聞箱だけは例外です――というのは口にしませんが。

 その結界の様子を確認してから、フレン様は少し難しい顔で訊ねてきました。


「ネルタにバレると困る話になりそうなのかしら?」

「いいえ。お父様ではなく、そのお師匠様……です」


 どういう形であれ、ニコラス様は、ダンディオッサ侯爵と繋がっています。


「あらぁ、ニコラス様対策なの? でも、どうして……?」 


 首を傾げるフレン様。

 それに対して、コンティーナ嬢は嬉しそうな複雑そうな顔を浮かべていました。


 お父様は、風を使ってかなり離れた場所の音を拾う魔法が使えます。

 そんなお父様の魔法の師であるニコラス様が、それを使えないわけがありません。

 加えて、まだニコラス様は王都にいるようですからね。

 私とフレン様のお茶会というのは、それだけで面白い情報収集の場でしょう。


 私だったら、間違いなく見聞箱を仕掛けますよ。


 ……まぁ実際、仕掛けてあったりしますが、それはともかく。


「モカ様は、わたしの目的に気づかれたのですか?」

「私の集めた情報と、コンティーナ様の立場、わざわざサイフォン殿下経由……で、この場を設けた意味……。

 そこからの推察で、必要だと……思っただけですよ」


 きっと彼女は、それをバレたくないと思っているはずです。

 万全を期すには、知っている人間を最小限にも抑えたいと、コンティーナ嬢は考えたはずです。


 そう考えると――フラスコ王子に頼らなかったのは、王子本人がこういう裏工作じみた立ち回りがあまり得意ではなさそうなこと。それから彼を取り巻く環境が、内緒話のようなものに向かないと判断されたからでしょう。


「何より、私の情報収集方法……に、ある程度、見当がついて……いるからこそ、ああいう行動を……とったのでしょう?」

「そこを読みとって頂けたのは何よりです」


 コンティーナ嬢は本当に感謝するような様子でそう口にすると、やや俯き加減になりました。


 そこから、僅かな間のあとで意を決したように顔を上げます。


「モカ様には気づかれているようですが、わたしの目的――それは、今日この場でフラスコ王子過激派の情報を売りにきたのです」

「あらぁ……」

「やはり、そうですか」


 さきほど思いついた通りのようです。

 加えて彼女は、本人が望む望まぬ関係なくハマりこんでしまっている過激派たちの沼から抜け出したいのでしょう。


「もうこれ以上、無自覚に神の御座へと進んでいく人たちとなんて、つき合いたくありませんので」


 心の奥底から吐露するように、コンティーナ嬢はそう告げるのでした。


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