第67箱
一夜明けて、みんなが活気づき始める時間となりました。
今日は平民街を覗く予定です。
昨晩、サイフォン王子が勿体ぶっていたあれこれについて確認していくとしましょう。
映像箱に映し出されているのは、平民街の様子。
しかも、まるで人の目線のような位置からのもの。
それもそのはず――これはカチーナの耳に付けているイヤリングからの映像なのです。
実はまだ一つしか用意できていない極小サイズ――成人男性の親指の爪くらいの大きさ――の見聞箱。それをちょっと改良したものを、カチーナの耳に付けてもらっているワケです。
そのままだと歩行の振動に合わせてフラフラと揺れてしまいますが、ぬかりありません。それは想定済みなので、知識箱から知恵を借りて揺れ補正をつけてあります!
実際に揺れていても、映し出される映像はそこまで揺れたりしないスグレモノ!
ただ、このイヤリングのような箱は、いくらでも作れる通常用の各種サイズと異なります。何せ通常用の最小サイズよりもさらに小さくしてみたモノ。
その為、ふつうのモノよりも魔力も精神も消費してしまうんです。
さらに、この見聞箱は私だけでなくカチーナの魔力も籠めて作った特別品。
互いの負担が大きい上に、長期の維持が難しく二日もすればただの箱になってしまいます。
でも、合体魔法とか合作魔法とか、そんな感じで作った特殊な見聞箱ですからね。
だからこその、他の見聞箱にはない、唯一無二の性能を秘めています。
「カチーナ、私の声……届いてる?」
『はい。問題ありません』
それがこの機能。
本来は見聞箱から映像箱への一方的なものですが、このイヤリング型見聞箱に限り、声も届けられます。
これはカチーナの持つ『音』の魔法があってこそ成立するもの。
イヤリングと対になる箱を用意し、それにカチーナの魔力を籠めて貰うことで、向こうと繋げているのです。
私とカチーナだからこその唯一の魔法とも言えます。
また彼女が私に向けて喋る時は、自身の音魔法を利用して、周囲には聞こえないようにしているのだとか。
「昨晩、王子が……言っていたコトって、カチーナは分かる?」
『そうですね……商業区へ行きましょう。
特に冒険者の方や観光客が多い露天通り辺りに』
「妙に、場所が具体的……だけど、もしかしてカチーナ……何か知ってる?」
『説明するよりも見て頂いた方が早いかと』
そう言ってカチーナは商業区方面へと向かって歩き出しました。
うーん……一体何があるんでしょうか?
あ、ちなみに――ですが、今のカチーナはいつもの侍女服ではありません。
商業区に行くだけなら、貴族仕えの侍従が買い物に行くこともあるので侍女服でも問題はないとは思うのですが、それ以外の場所を見て回るには、悪目立ちしてしまうのでちょっと不向きです。
なので、今のカチーナは身綺麗な冒険者というような感じのパンツスタイル。
一般的な長剣とダガーの中間くらいな刃渡りを持つ、細身の剣も携えています。
凝り性なカチーナは、それでも衣服や装備が綺麗すぎると怪しまれると考え、身につけているモノの傷や汚れは多少あった方が良いと、それらをわざと傷つけたり汚したりしたそうです。
どんなに身綺麗にしていても、衣服や装備に傷が付かない冒険者はいないと。荒事や戦闘の可能性もある仕事だからこそ、尚更だと言っていました。
顔も、メイクでソバカスをつけた上で、伊達メガネを掛けているので、いつもと雰囲気が全く違います。
髪型も当然変えていますので、カチーナを知っている人が見ても初見でカチーナだと見抜くのはかなり難しいのではないでしょうか。
『お嬢様、一番わかりやすいのは商業区の露天通りではありますけど、この辺りでもサイフォン殿下のいう面白いモノはちらほら見かけますよ』
周囲から怪しまれないようにゆるゆると、周囲を見渡しながら、カチーナがイヤリング越しに話しかけてきます。
言われて、街の様子を移す映像箱をジッと見ますが、あまりピンとは来ません。
以前見たときよりも、街に置かれた木箱が増えたかなぁ……くらいです。
……ん? 木箱??
「ね、ねぇ……カチーナ。
街のあちこちに、木箱が……増えて、ない?」
『はい。特に、箱の角に装飾が施された箱が増えていますね』
それってつまり――
『完全再現は不可能でも再現したくなった人がいるのでしょう』
「それが、広まって……る?」
『はい。資材運搬用の箱として、お嬢様の箱を模したモノが最近良く売れるようです。再現度はお世辞にも高いとは言えないモノばかりですが』
「私、バカに……されてる?」
『逆かと思われます』
恐る恐る訊ねると、カチーナにスパっと返されました。
だけど、カチーナはその後は特に言葉を続けずに、少し歩みを早めて進んでいきます。
逆……逆?
逆ってどういうことでしょう?
そうして、商業区にある露天が立ち並ぶ場所――通称露天通りへとやってきました。
屋台で食べ物を売ったり、この街にお店を持たない商人などがモノを売る為にスペースを借りてたりするこの場所特有の活気と、威勢の良い呼び込みなどが聞こえてきます。
『箱も食べれる箱入りクッキーはいかが~!?』
『箱姫様人形はどうだい? オプションで箱にくっつく腕付きだ!』
『小さな箱型小物入れ、一つどうだい?』
その呼び込みの中に、箱とか箱姫とかって言葉が妙に多いのですけど……。
『お嬢様。
今、庶民の間では空前の箱ブームなのです』
空前のッ、箱ッ、ブーム――……ッ!?
書籍版の第二巻がでます٩( 'ω' )وよろしくお願いします!
『箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚』
発売日は明日10/3となっております!
早いところではもう並んでいるようです٩( 'ω' )و
作者の地元の書店でも並んでいるのを確認しました!
書影などの情報は活動報告にありますので、是非ご覧下さい。
綺麗な純白ドレスのモカちゃんが素敵眩しい表紙となっておりますよー٩( 'ω' )وよしなに~!