第64箱
パーティから一晩あけて。
今日から本格的に情報収集をしていくことにしましょう。
ちなみに、昨日のコンティーナ嬢たちのやりとりに関しては、すでにサイフォン王子へと報告済みです。
コンティーナ嬢が手にした見聞箱に関してですが……。
問題ないのであれば、コンティーナ嬢が回収したものも、ダンディオッサ侯爵の手に渡ったものも、とりあえずそのままでいいのでは? とサイフォン王子から提案されましたので、そのまま様子見ということにしました。
用途を理解していながら、何も知らないふりをしてダンディオッサ侯爵に手渡すのは少々不可解な点はありますし……。
ともあれ、定期的に様子を見れば、色々と情報を得られそうです。
彼女が回収したモノに関しては、見聞箱の用途を理解した上で回収しているワケですから、そこから得られる情報を鵜呑みにしすぎるのも良くないと思いますが、そこは気をつけるということで。
さて、それぞれの手に渡った見聞箱ですが――
『……とは何かな、コンティーナ』
袋か何かの中にでも入っているのか、映像箱に何も映りませんが、声は聞こえてきますね。
コンティーナ嬢の手元にある箱からでしょう。
場所は……お城にある部屋の一つ。
その部屋には見聞箱が設置してありますから、そちらからの映像に切り替えましょうか。
『慌てなくてもいいではありませんか。
この部屋にはお茶もありますし――侍女はいませんが、私もそれなりに上手に淹れられますよ?
そこにおかけになって、お待ちくださいな』
部屋にいるのは、コンティーナ嬢と……見知らぬ男性ですね。
コンティーナ嬢が椅子をすすめています。
彼は一応それにうなずいて、椅子へと座りながらも、苦言を漏らしました。
『呑気だな。君にその気が無くとも、男と二人きりになるというのがどういう意味を持つかは知らぬわけではあるまい?』
『バレなければ問題ないでしょう?』
人差し指を口元に付けて蠱惑的に微笑む様子に、男性は少し困った顔を見せます。
男性の言っていることは、その通りなのですけど、コンティーナ嬢は気にした様子もなく部屋にあるモノを使ってお茶を淹れはじめました。
手際……良いですね。本当に自分で淹れられるようです。
そして彼女がお茶を淹れる後ろ姿を、男性は目で追っているようでした。
口では色々言っていますけど、女性と二人きりになったことに対して、なんらかの期待でもしているようで……。
『フラスコ殿下もそうやって誘惑したのか?』
『誘惑? ああ、この服ですか? 個人的にはもっと露出が多くても良いと思うのですけど。
余計な装飾が多く、動きづらいモノって、あまり好きではないもので』
コンティーナ嬢の今日の格好ですが――確かに男性がそう疑問に思ってしまうのも不思議ではない格好です。
貴族としてはしたないと言われるかどうかの境界線上にあるような服装ですものね。
そういう服装を見馴れてない男性には刺激が強いかもしれません。
私は平民たちの様子もよく覗き見してますので、それなりに馴れているつもりではいますけど。
ただまぁ、あのコンティーナ嬢の姿は、貴族女性としては露出が多いといいますか……。
冒険者や傭兵といった仕事をされている女性の中には、もっと際どい服装をされている方もいるので、それらと比べたら全然露出しているとは言えませんが……。
似合っていて大変可愛らしいとは思いますが、貴族としてはギリギリな気がします。
私としては問題ないとは思いますが……。
あ!
……私も、サイフォン王子にああいう姿を見せた方がいいのでしょうか……?
でもさすがにちょっと恥ずかしいというか、他人が着るのを見る分には問題なのですけど、自分が着ているところを想像すると……恥ずかしくなってくるというか……。
そんなことを考えていると、話はちょっと重要そうな内容になっていきます。
『服装はともかく、そういう指示を一部からは貰っていたのは否定しませんよ?』
『やはりか。君の父君か?』
『それを含めた……まぁ……夫婦神の目を盗んでいたずらする御使いたちといいますか……』
この世界を作ったと言われる創造の夫婦神――その目を盗んでいたずらする御使い……。
主人や上司の意向を無視して動く人たちのことですね。
そこに彼女の父であるタブーノ伯爵も含まれるようですが……。
彼らがコンティーナ嬢にフラスコ王子に近づくことを指示?
それに何の意味があるのでしょうか……?
『正直、指示そのものに気乗りしなかったので、ちょっと近づく程度のつもりでした。
なので誘惑するようなコトは一切してなかったのですが、どういうワケかフラスコ王子が非常に乗り気になってしまい……』
『今に至る……か』
コンティーナ嬢は顔だけ男性の方へ向けてうなずきました。
『結果として、父君たちが調子に乗っている、と?』
『否定はしません。
ダンディオッサ侯爵の右腕として! が最近、父の口癖でして』
苦笑しながら、コンティーナ嬢がお茶を差しだし、自分の分も用意すると男性の対面に座りました。
『その結果が、ダンディオッサ侯爵の思惑を越えたコトをしている、と』
『そういうコトです』
コンティーナ嬢は、自分が用意したお茶を一口啜りながら首肯し、そして男性へ促します。
それに男性も応え、口を付けました。
『ほう。うまく淹れられるものだ』
『ありがとうございます。お口にあって何よりです』
『それで――改めて話とは何だ? お茶をしながら雑談したい……というワケでもないのだろう?』
男性の言葉に、コンティーナ嬢は意味深に笑いました。
『グラス伯爵にお訊ねしたいコトがありまして』
『ふむ。君の父君に賛同している私の友人――リクームのコトかね?』
『それも含めて、ですかね』
グラス伯爵……?
リクーム……?
ああ――二人とも、その名前は私の記憶にあります。
グラス伯爵と呼ばれてましたから、男性はイレイス・コオル・グラス伯爵なのでしょう。
そのご友人ということは……。
恐らくは同じフラスコ王子派閥のアイシーロート子爵家の当主リクーム・フロウ・アイシーロート子爵のことだと思われます。
『現状、フラスコ王子派は無理に動く必要はありません』
コンティーナ嬢の言う通りです。
昨日のニコラス様の発言で、困ったことに貴族間の雰囲気が覆ってしまいましたからね。
私とサイフォン王子の婚約に関して、一部では歓迎ムードだったのに、それもすっかりなりを潜めてしまいました。
その結果――サイフォン王子にとって、私と結婚することは、同時に王位を諦めることとイコールになりかかってしまっています。
フラスコ王子を王にしたい派閥としては、これまでのような分かりやすい妨害をする必要がなくなっている状況であるはずです。
『ダンディオッサ侯爵としても、根回しや裏工作を優先するべきであると考えているでしょう』
私がダンディオッサ侯爵だったとしても、現状を考えるならそう動くでしょう。
『ですが、父やアイシーロート子爵は、無駄に行動を起こそうとしています』
『それが何であるか知りたい、と?
生憎と私はリクームではないのでね。友人とはいえ奴が何を考えているかなど……』
『別にアイシーロート子爵はどうでもいいのです。
だって、グラス伯爵――貴方も一枚噛んでいらっしゃるでしょう?』
その時、部屋の中に緊張が走りました。
書籍版の第二巻がでます٩( 'ω' )وよろしくお願いします!
『箱入令嬢シリーズ2 引きこもり箱入令嬢の結婚』
発売日は10/3となっております!
早いところでは本日から店頭に並んでいるところもあるようです!
書影などの情報は活動報告にありますので、是非ご覧下さい。
綺麗な純白ドレスのモカちゃんが素敵眩しい表紙となっておりますよー٩( 'ω' )وよしなに~!